EVが普及するにつれて、より高性能な充電池が求められるようになった。全固体電池など、“次世代電池”といわれるものもいくつかあるが、EV搭載用の電池としての普及時期は不透明で、現状がつかみにくい。
1月26日、第15回オートモーティブワールドにおいて、専門セミナー「全固体・半固体電池の進化と商品化」が開催され、次世代電池の有力候補である全固体電池開発のキーマンである菅野了次氏(東京工業大学科学 技術創成研究院 全固体電池研究センター センター長)とマサチューセッツ工科大学発の半固体電池ベンチャー米国24M テクノロジー(以下、24M社)社長兼最高経営責任者 太田直樹氏がそれぞれ現状を語った。
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まず24M社太田氏が登壇、「電気自動車用半固体型リチウムイオン電池の商品化」と題した講演を行った。24M(2010年設立)は米国マサチューセッツ州に本社を置き、半固体電池開発プラットフォームをライセンス供与するベンチャーだ。現在180人程度の企業規模だが、DOE(United States Department of Energy=米国エネルギー省)から開発援助資金を受けている。
次世代電池の開発は、国家の安全保障に絡む問題であり、自国での生産を望むアフリカや南米、中東諸国からもライセンス契約を望む声が届いているという。すでにグローバルでは、中国はAxxiva(アクシバ)、インドの部品大手Lucas-TVS、タイGlobal Power Synergy PCL(GPSC)、ノルウェーのFREYR AS、日本では京セラと富士フイルムなど8社とライセンス契約を締結している。
半個体電池は住宅定置用電池としては、京セラが24Mと開発、量産化したクレイ型リチウムイオン蓄電池が普及している。今後、さらなる量産化によってこの製造コストを安価にし、車載電池とする計画も進行中だ。
電池の電解質に電解液を使った「従来の電池」、固体の電解質を使用する「全固体電池」に対して、電解質として固体材料と液体材料が共存している構成の電池が「半固体電池」と呼ばれる(明確な定義はない。太田氏は「粘土型」と紹介した)。
この「半固体電池」が注目されている主な理由は、全固体電池よりも技術的なハードルが低いと言われること、従来のリチウムイオン電池の製造工程を活用できる可能性があり、高性能も期待できるからだ。
半固体電池はリサイクルも容易
太田氏は、半固体電池の特徴について「通常のリチウムイオン電池の電極と変わらないような形になっていますが、大きな違いというのはバインダー(電極材料の結着を担うもの)を含んでおりません」と説明した。また、電極材料が粘土状であり、厚く塗ることができるため、セルを構成する電極の数を少なくすることが可能となる。その結果、アルミ箔などの集電箔やセパレータの使用量が減る。「セパレータ(電池の正極と負極の直接接触を防ぎ、極板の間隔を保持してイオンを往来させる板状のもの)では80%ぐらいの削減」と太田氏は語った。またバインダーを含まないことにより、再使用・リサイクルも容易になる。
さらにもうひとつの大きな特徴が「電解液を最初に混合する」こと。これにより、大型電池を製造しやすくなる。また半固体電池製造では、従来の(リチウムイオン電池の)製造プロセスを圧縮できるので、人件費、光熱費などを削減できる。さらに工場のサイズも小さくできるので設備投資も抑制でき、低コスト化が実現すると説明した。
太田氏はさらに今後期待できる技術として「半固体電池とシリコンとの2層電極」「半導体厚膜正極とリチウム金属負極の組み合わせ」などを紹介。会場からの質問に答えて講演を終えた。
固体電池の歴史
続いて「全固体電池 ― 研究・技術開発の現状・将来と可能性」というテーマで、東京工業大学科学全固体電池研究センター長菅野了次氏が登壇。菅野氏は全固体電池の可能性を見出した研究者で、開発における日本のキーマンのひとりだ。
菅野氏からは、まず固体電池開発の振り返りが行われた。
それによると、1970~1980年代は「銀銅全固体電池の開発時期」、1990年代は「リチウムイオン系全固体電池の開発時期で「黎明期」と説明された。続く各年代は
・2000~2005年は「高容量・高レート化:硫化物電極での高レート充放電、高容量正極への展開時期」
・2006~2010年は「電池系の展開時期」
・2010~2015年は「固体電解質に新たな動き、硫化物系、酸化物系のリチウム全固体電池の研究が始動した時期」
・2015年から2020年は「固体電池の本質の解明時期」(この時期に日・米・欧州・中・韓で固体電池開発プロジェクトが開始、また硫化物系のプロセス技術開発、電解質材料の生産もスタート)
そして2020年以降は「固体電池の用途開発時期」となり、いよいよ車載用全固体電池(リチウム硫化型)開発が進展。チップ型(リチウム酸化物型)固体電池も上市されるようになった。これが固体電池開発のこれまでの歩みだ。
ついで固体電池の分類と特徴について、菅野氏の説明や資料などによると、固体電池(とくにリチウム系)はその形状によってさらに分類され、大きさや用途も異なる。
まず形状で分類すると「薄膜型」と「バルク型」に分類される。
電極の上に薄い膜上の電解質を重ねて作る「薄膜型」(酸化物固定電解質を用い真空プロセスで作る)は、電子基板に搭載するなどウェアラブルやIoT機器に向いている。より大型の「バルク型」は大容量の車載電池などでの利用が想定されている。
さらに「バルク型」は、電解質の種類で「酸化物系」(酸化物固定電解質を用い粉体焼結プロセスで作る)と「硫化物系」(硫化物固定電解質を用い湿式もしくは乾性成形プロセスで作る)に分類される。
硫化物系か酸化物系か
「硫化物系」「酸化物系」それぞれの利点・欠点についてはこうだ。
「硫化物系」はエネルギー密度や電力の出力、充電時間、温度、安全性に強みがあるが、硫黄を含むため空気中に露出すると有害な硫化水素が発生するなどの課題が指摘される。現在は、より耐水性を高めるなどの研究が進められており、この先EVの車載電池としての期待がなされている。
「酸化物系」は安全性、信頼性が高いが、製造するのに焼結が必要なため、今のところ素材が限られその結果、大きなエネルギーを得ることが難しいなど課題を抱える。現在はチップ型の小型電池が開発されている。
今回の講演は開発者、技術者にはいろいろな示唆を与えたように思うが、モビリティビジネスに直接つながるような発言はなかった。全固体電池の可能性をいち早く発見し、今も影響力の強い菅野氏の立場では、楽観的な見通しを軽々に述べることはむずかしいのだろう。しかし会場からの「硫化物、酸化物とは別の材料系はあるのか」という質問に、菅野氏は「それがわかれば私が(それを使って開発を)行っていますね」と会場を笑わせつつ、「硫化物はやはり素晴らしい」と話した。菅野氏はその他の技術的な質問に丁寧に答え、講演を終えた。