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2023年度 日本のフィンテック・web3はどこへ向かう〜FIN/SUM 2023

平将明議員(左上)渡辺創太氏(右上)松尾真一郎氏(左下)伊藤穰一(右下)

平将明議員(左上)渡辺創太氏(右上)松尾真一郎氏(左下)伊藤穰一(右下)

 3月末、桜満開の東京でフィンテック・カンファレンス「FIN/SUM 2023」(3月28日〜31日 主催:日本経済新聞・金融庁)が開催された。

 ビットコインなどの仮想通貨、DeFi、NFTなど、web3関連のイノベーションで、ここ数年にぎわいをみせたフィンテック業界。ここにきて、金融緩和政策の見直し、銀行破綻など金融業界の潮目は変わった。また、昨年注目を集めたweb3も、今年になってGPT-4などのAI(人工知能)に話題の中心を奪われている。

 こうした環境の変化のもと、カンファレンスでは何が語られただろうか。

 景気動向や世間の注目の有無に関わらず、確かなことは金融業界のデジタル化は速度を緩めることなく進行中であるいうこと。よってフィンテックの重要性は変わらず、web3関連のイノーベーションは続く。この認識は多くの登壇者が口にしていた。

金融当局、政府の取り組み

 4月8日の退任を目前にした日銀の黒田東彦総裁も、4月から新たなフェーズでの実証実験に入るCBDC(デジタル円)について「実現していかなくてはならない」と述べ、開始の時期についてはさまざまな選択肢があるが、中央銀行としてはその準備をしておく必要があるという認識を示した。

 金融庁の中島淳一長官は、FTX破綻によっても仮想通貨取引に関する規制が先行して進んでいた日本では、消費者の財産は保護されたこと。また、全銀システムの開放などが進んでいることなどをあげ、日本では、「健全な規制によりweb3のイノベーションに挑戦できる環境が整っている」と話した。

 さらに、デジタル庁の楠正憲統括官がモデレーターを務め、平将明衆議院議員らが登壇したパネルディスカッション「日本のWeb3.0戦略」では、昨年春に自民党のWeb3プロジェクトチームが公表したホワイトペーパーをきっかけとし、web3が政策化され、デジタル庁でも議論が進んだことなどが話題となった。

 こうした話からすると、政官界ともにデジタル化、web3イノベーションへの対応は粛々と進められているようだ。では、日本がこの分野で再びトップ集団に追いつくにはどうすればいいのか。平議員と同じパネルに参加していたAstar Networkファウンダーの渡辺創太氏は、日本にはクリプトに対してネガティブではない政策があるのなら、それを積極的に国際発信したほうがよいと話した。技術開発に関しても、日本の強みはIP(知的財産)、コンテンツなどアプリケーション・レイヤーだと言われているが、現在の主戦場はやはりインフラの技術開発であり「日本からの標準規格を出すことが重要だ」と得意分野にとどまらず、より大きなものを目指してメジャーなフィールドでプレーすることの重要性を説いた。

冬の寒さが感じられない日本

 平議員、渡辺氏らと同じパネルに参加したCrypto Council for Innovation CEOのシーラ・ウォレン氏によると、CEO米国ではFTX破綻をきっかけにweb3に対する評価が別れ世論が分断し、規制強化が言われるようになった。

 一方、日本では仮想通貨取引については厳しい規制がある。それゆえにビジネスの停滞を招いた面もあるが、今回はFTX顧客の資産が保護されたため、米国で見られたような業界の冷え込み(“クリプトの冬”)は、日本ではそれほど感じられない。

 イベント2日目の別のパネスディスカッション「産官学連携が紡ぐWeb3.0の未来」に登壇した伊藤穰一は、現在の状況について、「“クリプトの冬”ゆえに短期的な視点が排除されており、その点では投資家にとっても起業家にとっても悪いタイミングではない。長期的な視点で技術開発やルールづくりを進めていけばいい」とノイズが少なくなったことは、web3業界にとってむしろ幸いであると前向きな発言をしている。

 では、どのようなルールを作ればよいのだろうか。すでにweb3のユースケースは、金融取引からそれ以外の世界に大きく広がっている。地方自治体がイベントやふるさと納税で利用する場合にも、仮想通貨取引や海外送金などの金融取引と同じ厳格なルールが適用されると、イノベーションは停滞してしまう。つまりルールを決める際には、「次々と登場する新しい技術とそれに対する規制を同じテーブルに並べて(それが適切なルールなのか)検討すすめる必要がある。昨日までの古いテクノロジーに対する規制が適用されることを私たちは望んでいない」(伊藤)

 規制と技術を同じテーブルに並べるには、イノベーターと規制当局が共通言語で対話を重ねなければならない。この日、伊藤と同じパネルに登壇していたジョータウン大学研究教授の松尾真一郎氏は、ここ数年ブロックチェーンに関わるマルチステークホルダーによる対話を「Blockchain Governance Initiative Network(BGIN)」で推進してきた。BGINは、まさに国籍や専門の異なる人々が、自身が持つ情報を同じテーブルに出し、互いに教育しあう場所になっている。

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 FTXの破綻と続く“クリプトの冬”を迎えて、国内外の状況は少し変化した。傷は深く未だ癒えない欧米に比べると、傷が浅かった日本はチャンスだ。このタイミングで、グレーゾーンとなっている領域や、古い規制が重くのしかかっている分野を見直し、イノベーションを過度に阻害しないルールを作る必要がある。それができてようやく、日本発の技術標準やプラットフォームを目指すスタートアップが活躍できる最低限の環境を整える事ができる。

 電通グループが2022年11月に実施した「web3に関する生活者意識調査」によると、日本でのweb3についての理解は、その名称や特徴などを「ある程度知っている」人までを含めても8.3%程度にとどまっている。この1割に満たない人々の中に、法や税制の決定に強い影響力を持つ人がどの程度含まれているのかについては不安があるが、この日登壇した各界のリーダーたちの発信力と推進力が日本に変革をもたらすことを期待したい。

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