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アメリカで人気の食材のネット通販「Weee!」のCEOに聞く アジア食材人気の理由とは

1番人気の日本食は牛丼だという(撮影:新垣謙太郎)

1番人気の日本食は牛丼だという(撮影:新垣謙太郎)

 スマートフォンから食材をオーダーすれば、自宅から一歩も出る必要もなく、すぐに宅配で届く。今ではそんな光景がすっかり定着した。コロナ禍でネット・スーパーの需要は急増したが、その中でもアジア系や中南米系の食料品を専門に扱うWeee!(ウィーがアメリカで注目を集めている。CEOのラリー・リュウ(劉民)氏にその人気の秘密について話を聞いた。

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 「買い物とは社交的なものであり、エキサイティングでなくてはなりません」

Weee!のラリー・リュウCEO(画像キャプチャ)
Weee!のラリー・リュウCEO

 そう語る中国・武漢出身のラリー・リュウ氏(43)は、2003年にアメリカのカリフォルニア州に移住し、IT企業に勤めたあと、2015年にサンフランシスコでアジア系や中南米系の食料品を専門に扱うネット・スーパーWeee!を立ち上げた。

 リュウ氏は、アメリカに移住した当初カリフォルニア州の州都サクラメントの郊外に住んでいた。最も近い中国系スーパーまで車で2時間近くも離れており、故郷で慣れ親しんだ食料品が当時は非常に手に入りにくかった。

 そのような環境下で、中国系住民たちが、チャットアプリWeChatを通して、定期的に必要な食材をまとめて中国系スーパーや卸業者にオーダーをし、グループ代表の家に配達された食料品を各家庭で持ち帰っているのを知った。

 これは当時「Group Buy(グループ・バイ)」と呼ばれていたが、この仕組みにヒントを得て、主にアジアからの移民の需要に応えるために、アジア食料品を専門に扱った宅配サービスを思いついた。

 現在、Weee!は日本や中国、韓国、ベトナムなどアジア6カ国と中南米の食料品、さらに化粧品、電化製品など1万点以上の商品を扱っている。スマートフォンのアプリやウェブサイトから商品をオーダーすることができ、英語や中国語(北京語、広東語)以外にも、日本語やスペイン語でのアクセスも可能だ。

 リュウ氏によるとWeee!(ウィー)という一風変わった社名は、「わたしたち」という意味の“We(ウィ)”と、喜びや興奮を表すときに使うかけ声の「わーい!」を意味する“Whee(ウィー)”をかけあわせたものだという。その名前には、「買い物はみんなで楽しむものである」という同氏の思いが込められている。

■ 他のネットスーパーとの差別化

カリフォルニア州にあるフルフィルメント・センター
カリフォルニア州にあるフルフィルメント・センター(Weee!提供)

 サンフランシスコに本社をおくWeee!は、現在1500人以上の従業員を抱えている。西海岸のロサンゼルスやシアトル、南部ヒューストン、中西部シカゴ、そして東海岸のニュージャージ州など現在7ヵ所にフルフィルメント・センター(物流拠点)を設置し、ハワイ・アラスカ州を除くすべての州への配送が可能である。

 リュウ氏によると、同社の具体的な利益は発表していないとしながらも、現在の売り上げはコロナ禍前の2019年と比べ、10倍以上になっていると話した。

 この急成長の原因として、3つの理由があるという。ひとつは、コロナ禍の巣ごもり需要によるネット・スーパーの拡大。さらに、アジア系やラテン(中南米)系人口が増加していること。そして、アジア文化がアメリカに浸透してきたことなどがその理由だという。

 1つ目のネット・スーパーの拡大だが、アドビ・アナリティクスのデータによると、アメリカのEコマースにおけるグローサリー(一般食料品)の規模は、2020年は737億ドル(約1兆260億円)だったのが、2022年は868億ドル(約1兆2000億円)まで拡大している。

 ニューヨーク在住の筆者も、2020年3月にコロナによる非常事態宣言で市内がロックダウンされるまで、ネット・スーパーを一度も利用したことがなかった。しかし、今では少なくとも週1回のペースで、食料品の自宅デリバリーを利用している。今ではアマゾンや大型スーパーのウォルマート以外にも、中・大型スーパーであればオンラインで買い物ができない店の方がめずらしくなってきており、アメリカにおけるネット・スーパーの競争が激化している。

 Weee!はアマゾンなどの他のネット・スーパーとの差別化を図るため、コストのかかる「オン・デマンド・デリバリー(ODD)」(注文と同日に商品を配達するサービス)を採用せず、配送コストを下げるためオーダーを受けた翌日以降に配達をしている。こうすることにより、他社よりも商品価格を抑えられるとリュウ氏は語った。

 さらに、英語以外にも中国語や日本語、韓国語、ベトナム語など7ヶ国語でオーダーすることが可能なため、英語の分からないユーザーにもやさしいサービスを提供できると同氏は指摘する。

■ アジア商品人気の秘密

 2つ目のアジア・ラテン系人口の増加であるが、米世論調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の調査によると、アメリカにおけるアジア系人口は2000年には約1050万人であったのが、2019年には約1900万人へとほぼ倍増し、マイノリティー(少数派人種)の中で、もっとも人口増加率が高い。

Weee!のアプリ画面(Weee!提供)
Weee!のアプリ画面(Weee!提供)

 さらに、同じ調査の中で最大マイノリティー・グループとされるラテン系の人口は2000〜2019年の間に7割増加(約3500万→6000万人)しており、黒人や白人の増加率を大きく引き離している。リュウ氏はこの急増するアジア・ラテン系消費者をターゲットにした市場は「非常に大きなチャンスである」と強調した。

 人口比率はWeee!の商品構成にも反映されている。前出の調査機関によると、2019年時点のアジア系人口の構成は、中国系(24%)、インド系(21%)、フィリピン系(19%)、ベトナム系(10%)、韓国系(9%)、日系(7%)となっているが、同社は現在これらアジア6カ国と中南米からの食料品や製品を取り扱っていて、それぞれの移民グループの需要に応じているという。

 3つ目のアメリカにおけるアジア文化の浸透であるが、長年の人気を誇る日本の「ポケモン」や「NARUTO」などのアニメ以外にも、最近では「イカ・ゲーム」や「パラサイト 半地下の家族」などの韓国ドラマや映画もアメリカでは広く受け入れられるようになった。おにぎりやトッポギを食べるシーンを観て、アジア系ではないアメリカ人でもアジアの食文化に興味を持つのは当然のことだと言えるだろう。このようなアジア発ポップ・カルチャーの人気の急増も、アメリカにおけるアジア食全般の需要拡大のきっかけになっているとリュウ氏は見ている。

「自分の子どもたちやクラスメートを見ていると、人種や肌の色に関わりなく、みんなタピオカ・ティーを飲んでいます。スシも韓国焼肉も食べています。この(アジア食の)人気が私の会社にとって追い風になっているのだと思います」(リュウ氏)

■ キーワードは「ソーシャル」

アプリのCommunityページ
『Community』(Weee!提供)

 中国系移民たちがチャット・アプリを通してひとつのコミュニティーを作り、食料品をまとめ買いをしているのにヒントを得て、Weee!を立ち上げたリュウ氏にはひとつの信条がある。それは、買い物は「ソーシャル(社交)の場」であるべきということだ。

 アメリカに現在あるネット・スーパーのほとんどが、個人の消費者をターゲットにしていて、買い物というものが「個人活動の場」になってしまっているとリュウ氏は見ている。さらに、それらは白人を中心とするアメリカ大衆をターゲットにしており、少数派コミュニティーのニーズに十分に答えられていないように見える。

 Weee!のユニークな点は、各商品の下に表示される評価やコメントだけではなく、ユーザーがアプリ上にレシピやレビュー動画・画像を投稿し、シェアできる「Community」と呼ばれるSNS機能を備えている点だと同氏は説明する。

 Community上においては、たとえばユーザーがお好み焼きの作り方を撮影した動画を投稿することができ、動画の中で使用されているお好み焼き粉やソース、紅しょうがなどの商品が、動画の下に価格とともに表示される。その商品をクリックすると、レビューなどの詳細情報が表示され購入することが可能である。

 さらに、投稿動画にはコメントを直接書き込んだり、他のユーザーとシェアできる機能もついている。これまで同社が取り扱う6割以上の商品に対して、ユーザーによる動画や画像が投稿されており、献立のインスピレーションを提供するなど、ユーザー間の交流を促進する手助けになっているとリュウ氏は語った。

 これまでに同社のアプリは290万回以上ダウンロードされている。2022年にはソフトバンク・ビジョン・ファンドも出資しており、これまでに8億ドル(約1100億円)以上の資金調達を行っている。

 今後の展開についてリュウ氏は「我々のビジネスはまだ、アジア・ラテン系全人口の表面を“ひっかいている”に過ぎない」とし、これからの人口増加とともにアメリカ市場における可能性の拡大に期待していると語る。

 「私たちの目標は、このアメリカ市場において右に出るものがないほどのマーケット・リーダーになることです」(リュウ氏)

Written by
ニューヨーク在住フリージャーナリスト。米首都ワシントンのアメリカン大学国際関係学科を卒業後、現地NGOジャーナリスト国際センター(ICFJ)に勤務。その後TBSニューヨーク支局での報道ディレクターの経験を経て、現在フリージャーナリストとして日本とアメリカで活動中。東京都出身。