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「スマホ不要社会」目指す中国 手のひら決済は広がるか

「手のひら乗車サービス」を利用する北京地下鉄「大興空港線」の乗客(2023年5月24日撮影)。(c)CNS:賈天勇

「手のひら乗車サービス」を利用する北京地下鉄「大興空港線」の乗客(2023年5月24日撮影)。(c)CNS:賈天勇

【東方新報】「スマートフォンを持たずに外出できる時代が来るかもしれない」。中国メディアがこう期待するのは「手のひら決済」だ。

 中国ネット大手の騰訊(テンセント、Tencent)は5月21日、スマートフォンの決済アプリ「微信支付(ウィーチャットペイ、WeChat Pay)」に生体認証の一種である掌紋決済機能を正式導入した。ライバルの「支付宝(アリペイ、Alipay)」も開発中といわれており、近く導入されるとみられている。

 手のひら決済とは、QRコードや指紋・顔認証に続く新しい決済方法だ。手のひらの形や静脈の模様をあらかじめ自分の口座にひもづけておくことで、店舗などの端末に手のひらをかざすだけで決済ができる。最大のメリットはスマホ本体なしに決済が完了することだ。

 すでにアマゾン・ドットコム(Amazon.com)が自社で運営する無人ショップ「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」などで試験導入しているが、利用できる店舗が少なく、米国では広がっていない。日本でも一部銀行などがセキュリティー強化のために導入しているが、利用シーンを目にすることはあまりない。この種のサービスは、ある程度普及しないとその便利さが実感できないからだろう。

 その意味からも、9億人の利用者を持つ「ウィーチャットペイ」が手のひら決済を導入した影響は大きい。

「IT強国」を目指す中国では、国策として新しいIT技術を普及させてきた経緯がある。

 日本では段階的に広がっている感があるQRコード決済も中国では一気に広がった。中国国内の調査によると、モバイル決済ユーザーの約96%がQRコードを使って決済している。

 ニセ札が多い中国では現金よりも電子マネーの方が安全という事情もあった。今では支払いのために現金を出すと「おつりがない」と受け取りを拒否されることもしばしば。現金は万一に備えて、少額を持ち歩くぐらいである。

 手のひら決済も国策で進められているようだ。ウィーチャットペイに手のひら決済が実装されたのと同じ5月21日には、北京郊外の北京大興国際空港(Beijing Daxing International Airport)と都心を結ぶ地下鉄「大興空港線」にも「手のひら乗車サービス」が導入された。

 乗客は事前に自分の手のひらをシステムに登録しておけば、手のひらをゲート上にかざすだけで地下鉄に乗車できる。今後、高速鉄道、飛行機、オフィスや学校、フィットネスクラブ、コンビニや飲食店などにも段階的に導入されるという。

 中国が「手のひら」に本腰を入れる理由は何か。ヒントは出ている。中国で5月21日に導入された手のひら認証サービスは地下鉄と決済の二つで、いずれもスマホの機能に置き換わるサービスである。

 もう一つ、スマホに替わる技術として注目されているのが、脳とコンピューターをつなぐブレイン・マシン・インターフェース(BMI)である。BMIとは、脳波などを利用してパソコンを操作したり、脳への直接刺激によって映像や文章をイメージしたりできるようにする技術。要するに、スマホを「脳に埋め込む」技術である。中国政府がBMIの開発拠点と位置付ける上海市には、BMI開発で世界の先頭を走るニューラリンク(Neuralink)の共同創業者でもあるイーロン・マスク(Elon Musk)氏が5月末に訪問し、話題になった。

 スマホでやっていることを、手のひらなど人間の身体を使ってできるようにする。これが中国の目標なのかもしれない。手のひら決済のサービス開始を伝える中国メディアの記事には、「間違って決済されてしまいそうだから、もう気軽に手は振れない」という市民の声も掲載されていた。冗談のような本当の話である。【翻訳編集】東方新報/AFPBB News|使用条件