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顔出し不要 アバターでメンタルケアを受けられる「MentaRest」のメリットとは

MentaRestの飯野航平氏(右)と冨川裕紀氏

MentaRestの飯野航平氏(右)と冨川裕紀氏

企業経営的な観点から、従業員の健康管理・維持に投資をする健康経営が盛んになった。しかし、その一方で、コロナ禍以降の社会変化もあり、うつ病に代表されるメンタル不調に悩む従業員は、年々増加傾向にある。

メンタルの不調を未然に防ごうと、産業医によるカウンセリングを提供している企業も多い。しかし、「周りに気づかれたくない」「時間がない」「受診のハードルが高い」などの理由から、なかなか利用されていないのが実情のようだ。

こうした中で、顔出し不要、かつ通院の必要がない「アバター」を使ったカウンセリングサービスを開発・提供しているスタートアップがある。それが、2021年9月創業の株式会社MentaRest(メンタレスト、東京都渋谷区)だ。

同社は2021年10月に、利用者がアバターを使い、メタバース空間上でカウンセリングを受けられる「MentaRest」をリリースした。代表取締役/CEOの飯野航平氏と、取締役/COOの冨川裕紀氏に、サービスの強みや起業の経緯、今後の展望を聞いた。

 “手前の人”が主な対象者

「MentaRest」とは、どのようなサービスなのか。飯野氏によると、同サービスは、福利厚生の一環として企業の従業員に提供されるもので、アバターを使ってメタバース空間に入った利用者が、同じくアバターを使ってメタバース空間上に入った臨床心理士や公認心理師の資格を持つカウンセラーのカウンセリングを受けられるサービスだという。

主な対象者は、「メンタルの不調を自覚している人」ではなく、その「手前の人」だと飯野氏は強調する。例えば、部署異動で環境が変わるなどして、まだほとんど自覚はないものの、「朝起きるのが辛い」「頭が冴えない」などの兆候が出はじめている人に対してカウンセリングを行い、メンタル不調にならないよう“予防”するサービスになっているとのことだ。

「MentaRest」のカウンセリングの様子(画像提供:MentaRest社)
「MentaRest」のカウンセリングの様子(画像提供:MentaRest社)

 では具体的にどのような体験ができるのだろう。「MentaRest」の導入企業で、例えば、部署異動などで環境が大きく変わった従業員には、福利厚生サービスの一環として、利用案内がメールやポップアップなどで届く。こうしたさまざまなサービスの入り口から、自分好みのアバターを作り、メタバース空間に入れるようになっている。

メタバース空間に入り込むと、島のような空間(※)が広がっており、その中でボートレースやバスケットボール、登山などさまざまなアクティビティが楽しめる。このオープンスペースの中にMentaRest社が専有しているオフィスがあり、利用者はこの中のカウンセリングルームで、指定したカウンセラーと会い、相談が受けられるようになっている。

※取材時は、米国Virbela社のメタバースプラットフォーム上のサービス空間を見学。「MentaRest」は、基本的にどのメタバースプラットフォーム上でも提供可能とのこと

「既存のカウンセリングサービスですと、利用までのハードルが高いこともあり、実際に利用される方は、けっこう重い症状が出てから、産業医などに相談するケースがほとんどです。しかし、我々の提供するカウンセリングサービスは、カウンセリングに加え、さまざまなメタバース体験を提供しており、その中で、あまり意識せずカウンセリングを受けていただけるようになっています。こうした、カウンセリングに対する心理的ハードルを下げる仕組みにより、メンタル不調になる“手前の人”にも広くアプローチし、予防を目指せるものとなっています」(飯野氏)

「アバター」が利用のハードルを下げる

アバターの効果について説明する冨川氏
アバターの効果について説明する冨川氏

利用者のカウンセリングに対するハードルを下げるうえで、特に重要な役割を果たしているのが「アバター」だという。

アバターを使うことのメリットとして飯野氏は、「匿名性が担保されていることで、心理的安全性が担保される」ことだとし、「その結果、カウンセリング利用のハードルが大きく下がる」と話す。

そのエビデンスのひとつとなっているのが、東京都市大学(東京都世田谷区)やTIS株式会社(東京都新宿区)などが行った共同研究だ。

この研究では、男女54ペア108人に対して、「ビデオチャット」「外見がユーザーと類似しているVRアバター」「外見がユーザーと類似していないVRアバター」の3種類で対話セッションを行い、自己開示のスコアを比較した。この研究の結果、「外見がユーザーと類似していないVRアバター」を介したときに、人は話し相手に自分のこと(思考、感情、体験など)をより多く話すことが示された。

「実際に我々のカウンセリングサービスを受けたユーザーからも、『自分ではなくアバターを通して話すので、つくろわず本音で話ができた』といった声が多数寄せられ、高い満足度が示されています」(冨川氏)

自身のメンタルダウン体験が、起業の原動力に

MentaRest社はどのような経緯で設立されたのだろう。実は、同社設立の大きな原動力のひとつとして、飯野氏、冨川氏ともに、会社員時代にメンタルの不調で休職をした経験が挙げられる。

両氏とも同じ広告代理店の営業として好成績をあげていたが、仕事のストレスや疲れがたまっていたのか、メンタルに不調をきたし、休職せざるを得なくなった。ひと月ほどで回復したものの、飯野氏は人事部に異動。冨川氏は退職し、動画制作会社に転職することになった。

その後、もともと起業志向が強かった飯野氏も会社を辞め、冨川氏を誘って、株式会社Flint(2023年1月に社名を「MentaRest」に変更)を設立し、メタバース上でカウンセリングを受けられる「MentaRest」を開発した。

「MentaRest」について説明する飯野氏
「MentaRest」について説明する飯野氏

二人とも課題だと感じたのは、自分がメンタルの不調を感じた際に、「産業医のカウンセリングサービスを受けることが、全く選択肢にあがってこなかった」ことだ。

「そもそもそういう制度があることも知らなかったし、知っていても、昇格などに影響があるかもしれないといった心配から、利用しなかったと思います」(冨川氏)

「多くの企業の人事部では、産業医制度を含め、現場の負担にならずサポートできるよう、ものすごく考えて対応しています。その思いが現場に届いていない。それが、私が人事で働いていたときに感じた課題でした。そこに第三者機関として、我々が橋渡し的なことができると、ビジネスとしての価値を見出せるのではないかと、本サービスの開発に至りました」(飯野氏)

「MentaRest」の開発にあたり、主なターゲットとしたのは、自分たちも含めた「Z世代」であり、特にこだわったのが、「もっとカジュアルに、例えば、オンラインゲーム中にプレイヤー同士で会話をするような感覚で受けられるカウンセリング」の提供だったという。

「今、フォートナイトなどのオンラインゲームが流行っていますが、若い子たちは、いろいろな人とのコミュニケーションを、ゲームを一緒にプレイしながら取ります。それくらい片手間な方が、フランクに話せるのですね。正面切って話すより、寄り添って、共通の敵を一緒に倒しながらみたいな方が、構えずに話せると。こうした会話を再現できないかということで、メタバース上でのメンタルヘルスという発想に行き着いたのです」(飯野氏)

「MentaRest」は、起業からわずか1ヶ月後の2021年10月にリリースされ、翌月には初受注に至っている。その後、順調にユーザーを増やし、現在、大手企業を中心に約10社で利用されるまでになった。

飯野氏は、「今後2、3年で1000社を超えることが理想的な成長曲線」だとし、そのためには、「他社との営業連携やOEM的なサービス導入」も視野に入れていると話す。

「多くのご家庭に体温計があると思いますが、それと同じ感覚で、気軽に使えて、素早く計測でき、なおかつ信頼があり、何かあったときは利用者の行動変容にもつなげられる。そんなメンタルヘルスを実現し、どんどん世に広めていきたいです」(飯野氏)

同社の思いに賛同する企業が増えることを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。