10月14日、15日の両日、東京ビッグサイトで「Maker Faire Tokyo 2023(主催:株式会社オライリー・ジャパン)」された。
「ものづくり」をする個人や団体が、自ら作った作品を持ち寄り、展示、デモストレーションを行うこの祭典。会場は大人から子供まで、ものづくりの愛好者で賑わっていた。
初日の14日(土)に会場を覗いてみた。ここでいくつかの出展者を紹介してみようと思う。
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まずは、個人のメイカーらしいこだわりと工夫の作品。
綺麗な泡立ちが家庭でも再現できる缶ビールサーバーは、ビールメーカーのノベルティーとしても人気だが、門奈哲也さんの作ったマシンは、ビヤホールのような3度ツギを再現するもの。
昇降するグラス台と電極センサーを備えたこのマシン。実演を見せてもらったが、理想の泡を作るために3度に分けて注ぐ、それも3度目は泡を壊さないようにそっと注ぎ、見事にグラスの縁までの泡が。
「画像認識とか使えば、もっと上手くできるかもしれませんが、なるべくタミヤの部品を使って組み立てるのが私のこだわりなのです」とのこと。なるほど、昇降する部品がキャタピラなのは、そのこだわりゆえ。
その実用性については不明ながら、なにかポテンシャルを感じさせる発明品もある。
ご存知かもしれないが、たくさんのメトロノームを動かすと、最初はバラバラだった動きがだんだんと動きがそろってくる。夜空に舞う多くのホタルの発光にも同じような現象がおこる。
「天狗工房」の主は、東京工業大学工学院の研究者だ。コンサート会場で振られているペンライトも、メトロノームやホタルと同じく、最初はバラバラでも、そのうち同じ動きにそろうのを見てこのペンライトマシンを考案したとのこと。個々のペンライトマシンは、一括で管理しているのではなく、各々が搭載したマイコンで曲のリズムに合わせ動く。ペンライトの振り方を決めているのは、蛍の発光やメトロノームの同期で見られる結合振動子モデルとのこと。複雑な理論に裏打ちされた愉快な作品。徐々にシンクロしていくその不思議な動作は、子どもたちの注目を集めていた。
さらにこちらも、東京工業大学のものづくりが好きな仲間たちのチーム「OKs」が作り上げたもので、ボトルシップならぬ“ボトルマシン“。手のひらサイズの透明ボトルの中で、歯車が回り、ミニオブジェが回転する。部品はボトルの口を通るように、いろんな工夫が凝らされている。
アート的な要素もあり、飾り物としてひとつ欲しくなる。組み立てのワークショップも実施しているとのこと。
学校の技術科の先生たちが出展していたブースで見かけたのは“パペットロボ”。口をパクパクするうごきを、簡単な工作で再現し、それをリモコンで動かせるようにしたもの。これを学校の技術科の授業でも作ったりするそうだ。
「自分たちの頃は木で本箱を作っていましたけど、今は動く作品で楽しそうですね」と話しかけると、実は今でも本箱作りは続いているそうで、ただその設計をCADでやるとか、出来上がった本棚を宣伝するためグラフィックソフトでポスター作ることまでするということを教えてくれた。
「先生が頑張れば、色々と面白い授業ができるのですよ」。メイカーフェアに出展するような先生の授業なら楽しそうですね。
同じく先生は先生でも、病院の“先生”も。愛媛県八幡浜の三瀬病院の院長先生が作ったのは「100均ロボット」。
100均ロボットとはなんぞやと聞いてみると、なんとそれは100円均一ショップで売っている、おもちゃの電車や毛玉取りを動力源として動くロボットのこと。
ロボットの躯体は、竹の割り箸などでできている。おもちゃの電車を乗せると、車輪がローラーと接して、それがロボの脚の動かす仕組み。より大型のものは毛玉取りのモーターの回転をゴムのベルトでプーリーに伝えて動かすようになっている。「毛玉取りは、動力にするのに改造がほとんど必要なくて、優秀なのですよ!」とのこと。
電動モーター周辺のパーツは、自作が難しいので市販の道具を流用してしまおうというアイデアは、他でも見られた。
週末の公園でロボット開発を行うエンジニア集団「公園ラボ」のみなさんが会場にて組み立て中だったのが、木製の「乗れるラジコン」。動力源は市販の充電式インパクトドライバーで、ラジコンで操作するのはドライバーのトリガーを押す装置。その動きを制御するプログラムはチームの自作だ。「市販の機械は安定して入手も簡単。ラジコン車体は只今組み立て中。明日(日曜日)までには動くようにしておきます!」とのこと。「お隣も面白いですよ」とのおすすめで、隣のブースを覗いてみるとそこにももうひとつ、市販の電動工具をつかったモビリティが。
「アブローラー(腹筋トレーニング器具)は、いかにも走りそうなので。それで作ってみたんです」
というのは出展者の蕪木孝さん。構造は簡単、自転車のブレーキと電動工具の組み合わせで、自転車のブレーキを引くと工具トリガーが引かれ、回りだした軸の回転をチェーンでアブローラーに伝える、これが「アブライダー」。人は動く台に座り、アブライダーのハンドルを握りしめ、走るマシンに、おいていかれないように必死で頑張る。
アブローダーは、最初からこのマシンのパーツであったかのようで、言われなければ腹筋トレーニング器具とは気が付かないくらい馴染んでいる。
「発想→とにかく作ってみる」のメイカー魂のこもった楽しい作品だ。
メイカーフェアには、理系の学生さんや製造業で働く人の出品が多いが、なかには広告会社社員有志のチームも。
広告業界らしくネーミングセンスの優れた「g. geek lab.」の出展は、テクノロジーの力でコミュニケーションを表現する『表情認識型カーミサイル発射機CARTRIOT(愛車心)』。
ドライバーの怒りの表示を捉えて、ミサイルの発射(実際には発射しません!音とイメージです)をするマシン、は、Raspberry Piなど市販のマイコンなどで組み立てられたもの。割込みや、無謀な運転に立腹し、心の中で密かにその相手にミサイルをぶち込んだ経験のある人も多いはず。そんなドライバーの妄想を形にしたのがこのマシンだ。
ドライバー口元の変化をカメラが捉えた画像を認識して自動発射するが、「口角が上がると怒り」と認識しているため、実は「笑顔でもミサイルは発射されてしまう」というオチまでついていた。
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会場には、メイカーの皆さんにはお馴染みのタミヤやスイッチサイエンス、M5Stackなど協賛社のブースが並んでいた。また、出展にこぎつけたものの、壊れてしまった作品を修理するための「ハンダ修理ピット」などもあった。
どのブースにも熱心な出展者、作品のファンが集っており、大人も子供も興味津々で製作した人の解説を熱心に聞き入っていた。ビジネス展示会と異なるのは、とにかくみんな楽しそうなことだ。
メイカーフェアは、東京以外の都市でも開催されるので、ものづくりが好きな人は、是非一度訪れてみるといい。