宇宙関連ビジネスが拡大している。日本においても、民間のスタートアップが次々と誕生しており、今後、ロケットや人工衛星の打ち上げ回数が大幅に増えるものと予想される。
そんな中で、大きな課題となっているのが、ロケットの発射場(宇宙港)の整備だ。日本国内においても複数の宇宙港で整備が急がれており、北海道大樹町にある商業宇宙港「北海道スペースポート(以下、HOSPO)」もそのひとつだ。
大樹町の東と南には、大きく太平洋が広がり、ロケットの打ち上げに適している。さらに、広大な土地を有するため拡張性が高く、晴天率が高いエリアに位置するほか、大樹町自体が「宇宙版シリコンバレー」を目指しており、宇宙事業者に協力的な風土もある。
これまでHOSPOは、主にインターステラテクノロジズ株式会社がロケット発射場として活用してきたが、現在では他の複数のスタートアップによる活用も進んでいる。
2023年10月12日、北海道帯広市のベルクラシック帯広にて、宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」が開催された。その中で、「ロケット事業者が語る、宇宙輸送ビジネスの展望と宇宙港への期待」と題したセッションが行われ、宇宙港の現状と課題について議論された。
セッションに登壇したのは、HOSPOを活動拠点とする4社のスタートアップの代表だ。まず、2013年の創業時からロケット発射場として利用しているインターステラテクノロジズ株式会社の稲川貴大氏。そして、固体燃料による低コストロケットを開発する株式会社ロケットリンクテクノロジーの森田泰弘氏、有翼ロケットを開発する株式会社SPACE WALKERの眞鍋顕秀氏、台湾のロケットメーカーJTSPACE株式会社のクリストファー・レイ氏だ。モデレーターは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の高田真一氏が務めた。
最初のテーマは、「HOSPOを活動拠点に選んだ理由」だ。JAXAでイプシロンロケットのプロジェクトマネージャーを務めた経験もある森田氏が、鹿児島県にある内之浦宇宙観測所と比較しながら、HOSPOの地理的な利点をあげた。
森田氏によると、内之浦宇宙観測所でロケットを打ち上げるには、南側にある障害物を避けるため、燃料が余分に必要となる。それに対してHOSPOは、南側が海で大きくあいているため、「搭載した燃料を最大限有効活用できる」と話す。
さらに森田氏は、内之浦宇宙観測所は近くに街があるため、飛行経路を緻密に計算する必要があり、その算出に数ヶ月かけていたという。しかし、海と原野に囲まれたHOSPOの場合は、「そうした緻密な計算が一切不要で、どんどんロケットを打つことができる」と述べた。
また、滑走路を必要とする有翼ロケットを開発する眞鍋氏によると「一般的な日本の空港は、飛行機の型式証明を取ったものしか入港できない」と説明。それに対して、「場外離発場扱いであるHOSPOの滑走路は、有翼ロケットが入港できる」とし、こうした条件が揃っていることが、同港を選んだ主な理由だとした。
台湾出身のクリストファー・レイ氏は、まず日本を選んだ理由として、宇宙関連のサプライチェーンが充実し、マーケットのポテンシャルが高いことをあげる。さらに、HOSPOを選んだ理由として、立地的な優位性に加え、「大樹町自体に民間の宇宙企業を応援する風土があり、そのことが、この地を選ぶ決め手になった」と説明した。
一方、長年HOSPOを活動拠点としているインターステラテクノロジズの稲川氏は、「宇宙スタートアップが立ち上がる際に、活動拠点の第一候補にあがること」が、同港の魅力を表していると話す。
「これまで内之浦でロケット開発をしてきた森田氏がスタートアップを立ち上げる際に、大樹町を選ぶということ。そして、台湾出身のクリストファー・レイ氏にも、日本でやるからには、ここを使いたいと思ってもらえるということ。これが一番のポイントです。つまり、今スタートアップを立ち上げて、宇宙輸送をやろうと考えたときに、第一候補にあがるのが大樹町だというわけです。今回このメンバーが揃ってお話しできるということは、そういう認識にアップデートできるという点で、大きな意味があると感じています」(稲川氏)
セッションの後半は「HOSPOに今後期待すること(課題点)」がテーマとなった。
まず稲川氏が、「複数のスタートアップがいる段階になると、飛行安全のための管制システムなどの付帯設備がいろいろと必要になってくる」と切り出す。さらに、そうした仕組みの構築を「誰が担うのか」といった議論も必要であり、「公共射場としての“あるべき姿”にするためには、資金面も人材も設備も、まだいろんなところが不足している」と指摘した。
眞鍋氏は、発射場としてのインフラ整備に加え、HOSPOが今後、世界中のスタートアップに活用される発射場になるには、「日本の煩雑な手続きを簡略化する仕組みが必要」だと指摘した。例えば、オーストラリアでは、打ち上げの手続きを窓口ひとつで対応してくれるが、日本の場合は、通信関連は総務省へ、保安のことは地元の警察など別々に届け出る必要がある。「こうした煩雑な手続きを一元管理できる窓口やワンストップサービスが欲しいなと常々思っています」(眞鍋氏)
一方、森田氏は、「どのロケットにも打ち上げに必要な共通技術がある」とし、そうした共通技術を発射場に整備すると、スタートアップの負担を大きく減らせると主張する。
「そうした共通技術の代表選手が“電波系”です。例えば(打ち上げた後の)ロケットは、その時々の状態がどうなっているかを、そのロケットから地上の射場に向けて電波で送り、正常性を確認しています。これは、かなりの共通技術であり、アンテナがあって、オペレーションする人がいればできます。これを、いろんなスタートアップごとに自前で用意するのはもったいないので、ぜひ宇宙港側で用意していただきたいと思います。これは特殊な要求ではなく、ノルウェーなどの宇宙センターだと、すでにそうなっています。だから、我々がその射場を利用するときには、ロケットだけを持っていけばいい。同じように、HOSPOもロケットを発射台に立てさえすれば、打てるようになると、すごくいいなと。それがある種、最低限の世界標準じゃないかと思います」(森田氏)
これを受け、クリストファー・レイ氏は、実際にロケット打ち上げのたびに電波系などの周辺機器を日本に輸出するとなると、余計に費用がかかるとし、森田氏が指摘するような共通技術が射場の基本設備として提供されることを強く望むと賛意を表した。
これに加え眞鍋氏は、射場側で共通技術を調べる際に、「日本だけを見るのではなく、海外の情報をぜひ見て欲しい」とコメントした。
「事業者側からすると、ノルウェー、オーストラリア、アメリカ、日本のどこへ行っても共通技術で飛ばせますと言ってもらえると選択肢も増えますし、柔軟に選べるようになる。そうなると、(HOSPOが)より使われやすくなると思います。絶対にガラパゴスにならないでほしいと思います」(眞鍋氏)
* * *
日本が宇宙開発で世界をリードできるかどうかは、「世界に開かれた宇宙港」の整備に大きな鍵があるようだ。
宇宙港に名乗りを上げているのは、日本国内にHOSPO以外にも数か所ある。この日のイベントで語られた、先行するスタートアップの要望を金言として、各自治体や関係者は世界に認められ・選ばれる宇宙港を作り上げてほしい。