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激しい核融合発電の開発競争 スタートアップが「ヘリカル型」開発に賭ける理由とは

株式会社Helical Fusionでは、ヘリカル型核融合発電の研究開発を行なっている(画像提供:Helical Fusion)

株式会社Helical Fusionでは、ヘリカル型核融合発電の研究開発を行なっている(画像提供:Helical Fusion)

 核融合発電を現実のものとする試みが盛んだ。核融合発電とは、太陽のエネルギーの源である核融合反応を、地球上でも再現し発電に用いるもので、地球上に無尽蔵にある水(水素)を燃料に、膨大なエネルギーを生み出せるとされる “夢のエネルギー”だ。温暖化ガスや高レベルの放射線廃棄物を排出しないことから、脱炭素社会を実現するクリーンエネルギーとしても大きな注目を集めている。

田口昂哉氏(画像提供:Helical Fusion)

 現在、核融合発電は、欧州、米国、日本などが参加する国際研究プロジェクト「ITER計画」において実験(原型)炉の建設が進められている他、核融合関連のスタートアップへの投資も活発化しており、日本国内でも複数のスタートアップが開発競争にしのぎを削っている。

 今回は、そうした国内スタートアップのひとつである株式会社Helical Fusion(本社・東京都中央区)の共同創業者兼代表 田口昂哉氏に、核融合発電の研究開発の現状を、同社の事業状況と合わせてうかがった。

原子力発電との違いは?

「核融合発電」とは、どういった特徴のある発電方法なのか。同じ核反応を利用するものとして、よく比較されるのが、原子力発電だ。こちらは、ウランなどの重い原子を核分裂させて膨大なエネルギーを取り出し、発電に利用するものだが、放射能が何万年も出続けてしまうような高レベルの放射性廃棄物が出ることや、連鎖反応が起こりやすく、制御が難しいことなどが課題に挙げられる。

 これに対し、核融合発電は、水素などの軽い原子を、ぶつけ合わせる(融合させる)ことで大きなエネルギーを生み出すものだ。田口氏によると、ウランを核分裂させた後のような高レベルの放射線廃棄物は残らない。放射線廃棄物自体は出るものの、「数十年から、長くて百年ぐらいの間で放射が収まるもの」になる。また、核融合は反応を起こすこと自体が難しいため、核分裂における連鎖反応のようなことは起こらず、例えば「(発電所の)電源が落ちれば、すぐに反応が収まるため、安全」だという。

 なお、核融合によって発生したエネルギーを電気に変える仕組みは、まず核融合反応が起こると、中性子がものすごいスピードで飛び出してくるので、これをクッション材(ブランケット)で受け止める。その衝突によって熱に変換されたエネルギーを用いて、タービンを回し、発電するというものだ。

「核融合で発生するエネルギー量としてよく使われるのが、『わずか1グラムの燃料(水素の同位体)から、石油8トン分ものエネルギーが取り出せる』という表現です。火力発電などの化学反応とはエネルギー密度が全く違うため、ものすごい量のエネルギーを作り出せます」(田口氏)

キーワードは「プラズマ」

 では核融合は、どのようにすれば起こせるのだろう。その鍵のひとつとなるのが「プラズマ」だ。

 物質において、分子や原子の活動量が最も少ないのが固体の状態だ。これに熱が加わると、もう少し流動的な液体となる。さらに熱が加わると、分子や原子が活発に動き回る気体となる。この気体にさらに熱を加えていくと、原子核と、そのまわりを回っている電子が離れ出す「プラズマ」と呼ばれる状態になる。

 田口氏によると、核融合とは、「このプラズマ状態となった原子核同士が合体(融合)することで起こる」という。

「ただし、この原子核は、磁石でいうプラスの電荷が付いているため、通常は反発し合います。そのため、プラズマ状態にしたうえで、さらに温度を上げて原子核の活動量を上げ、密度を高くしていきます。1億度ぐらいまで温度が上がると、原子核同士が我慢できなくなって、ついにはくっつき合う(融合)のですね。これが核融合反応です。一般的に、核融合を起こすために必要な条件として挙げられているのは、『超高温』と『高密度』、そして一定時間エネルギーを逃がさない『エネルギー閉じ込め時間』の3つです。これらが、それぞれ一定水準まで達すれば、連続的に核融合を起こせるようになると考えられています」

核融合発電の3つの方式

 現在、核融合発電の方式は「トカマク」「ヘリカル」「レーザー」の3つに大別されている。核融合発電では、人工的に発生させたプラズマを一定時間、閉じ込めておくことで、連続的に核融合を起こすが、このプラズマの閉じ込め方に3つの方式があるというわけだ。

 このうちのレーザーは「慣性閉じ込め方式」とも呼ばれるもので、小さな燃料の粒にレーザーを四方八方から同時に打ち、高密度に圧縮して、核融合反応を起こす。ただ、現時点では、このレーザーを連続して打ち続けることは難しく、この方式はむしろ「半導体加工など発電以外の用途として期待が高まっている」という。

 トカマクとヘリカルは、プラズマを強烈な磁力で閉じ込める「磁場閉じ込め方式」を採用したものだ。この2つは、発電用途に向いているとして、大きな期待を集めている。ちなみに、田口氏らが研究開発に取り組むのは、このうちのヘリカル方式となる。

「トカマク」方式と「ヘリカル」方式の違い(画像提供:Helical Fusion)

 2つの方式の違いを上図で見ていこう。まず図の中のドーナツ型のオレンジの部分がプラズマを表している。「プラズマが直線上になっていると、端から逃げてしまうので、ドーナツ型に閉じることで、逃がさないようにしている」とのこと。これは両方の方式に共通する発想だ。

「ただし、長年の研究で単にプラズマをドーナツ型に閉じ込めるだけではうまくいかないことがわかりました」(田口氏)

 ドーナツを上から見ると、ドーナツの内側は小さい円になっており、外側は大きな円になっている。このため、ドーナツの外側と内側を回るプラズマ粒子に不均衡が生じ、バランスが悪くなるため、プラズマを長時間保つことができないという。

 そこで、ドーナツをねじり鉢巻きのように捻ることで、これを解消しようという発想が生まれた。ドーナツが捻れていると、捻れに沿って、内側にいる粒子は、自然と外側に移動する。逆に、円の外側にある粒子は自然と内側に移動する。これにより、プラズマ内の粒子のバランスがよくなり、プラズマ状態を長く保てるというわけだ。

 そして、トカマクとプラズマの主な違いは、「このドーナツの捻り方にある」と田口氏は説明する。

 まずトカマク方式では、コイル(図の緑色の部分)をずらりと並べ、ドーナツ型のプラズマの流れを作る。さらに、そのプラズマ内に、大電流のビームを垂直方向に打ち込むことで、捻れた磁場を発生させているとのこと。

「ただし、この大電力のビームは、長時間連続して打ち続けることが難しい。このためトカマク方式では、長時間運転することは難しいのではないかという声が多数あがりはじめています」(田口氏)

 一方、ヘリカル方式の構造はシンプルだ。コイルそのものを二重螺旋状に捻ることで、捻れた磁場を発生させる。

「磁場を発生させるコイル自体を捻っておけば、ドーナツも捻れるだろうというのがヘリカルの考え方です。この方式だと、最初から捻れたプラズマが発生するため、安定的かつ長時間の運転が可能になります」(田口氏)

2034年の初号機実現へ

 Helical Fusion社が研究開発しているのは、ヘリカル方式の核融合発電だ。ヘリカル方式は、安定的かつ長時間の運転が可能なことに加え、「実用化に向け、致命的な欠点がない」ことが大きな強みだと田口氏は強調する。

大型ヘリカル装置(LHD)全景(Photo by 核融合科学研究所(2014) : CC BY 4.0)

「核融合発電を実用化するためには、プラズマの性能がどうか、連続運転できるかどうか、稼働率がどうか、メンテナンスできるかどうかなど、いくつかの技術的障壁をクリアしなければいけません。しかし、レーザー方式やトカマク方式は、“連続運転の壁”をクリアするのが相当難しい。つまり致命的な壁があるわけです。一方、ヘリカル方式にはこうした致命的な欠点がありません。言わば、実用化までの道のりが、最も明確に見えている方式なのです」

 では同社は、現在どういった開発状況にあり、この先どのような展開を目指しているのか。田口氏らが最も重要なマイルストーンとしているのは、「2034年に世界初のヘリカル型の核融合発電(初号機)の実現を目指す」ことだ。この初号機がうまくいけば、2号機、3号機と開発し、本格的な商用化に入る予定とのこと。

 田口氏は、2034年の初号機の実現に向け、まずは2026年から28年頃を目処に、核融合反応を起こさない模擬的な実験炉を作成し、「高温超伝導」や「(中性子を受け止める)ブランケット」など、現在課題となっている技術の実装および実験を行うという。

「そこに向け、現在は、高温超伝導やブランケットなどの技術力を個別に高めているところです」

 現時点では実験炉などを作ってはいないのかと聞くと、田口氏からは「そこが当社の特徴であり、強みだ」との答えが返ってきた。

 Helical Fusion社の立ち上げメンバーには、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所にある世界最大級の大型ヘリカル装置(LHD)で四半世紀にわたりプラズマ実験をしてきた研究者が複数参画している。

「このLHDを使った長年の研究により、どうしたらヘリカル方式での核融合発電に十分なプラズマの性能を担保できるかといった法則が見つかっています。つまり、今自社で大きな装置を作らなくても、プラズマについては必要な知見が蓄積されているわけです。その分、プラズマ以外の、世界的に見ても、成熟度の高くない高温超伝導などの技術の性能を高めることに注力できます。そこが当社の大きな強みのひとつです」

 現在、田口氏らは2026年から28年頃の実験炉の実現に向け、「国内外の投資家と資金調達の交渉も鋭意行っている」とのことだ。

「世界初の核融合、つまり地球上で人工太陽を作るというのは、他では考えられない大きな仕事です。技術的にもビジネス的にも、前人未到のことを多々やり遂げないといけません。だからこそ、おもしろいとも言えるのですが。まずは2034年に初号機を実現できるよう、チーム全員で最善を尽くしていきたいと思います」

 核融合発電の実現は、脱炭素社会の実現に寄与するとともに、世界的なエネルギー不足の問題を解決し、地域紛争の解消にもつながる可能性があると言われている。この先、まだいくつものハードルが待ち構えているだろうが、 “夢のエネルギー”の1日も早い実用化を期待したい。

Helical Fusion社関連リンク(プレスリリース)

東北大学金属材料研究所と共同で核融合炉用の新規金属材料を開発(2024年1月10日)

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