【東方新報】中国で有名漫才師が完璧な英語で漫才を披露し、米国の人気歌手テイラー・スウィフト(Taylor Swift)さんが流ちょうな中国語でインタビューに答える……。最新の人工知能(AI)を使った合成動画がインターネットで流れ、中国で物議をかもしている。
最近、中国トップ漫才師の1人、郭徳綱(Guo Degang)さんが相方の于謙(Yu Qian)さんと英語で漫才を繰り広げる動画がネットでアップされ、瞬く間に数百万回再生された。声は本人のもので、口の形も英語の言葉と整合している。
「郭徳綱はいつの間に英語をマスターしたんだ?」と驚きの反応があったが、サイトをよく見ると、「このビデオはAIの合成技術を使っています」と小さな文字でおことわりが。昨年公開されたAIソフト「HeyGen」を利用したものだった。
HeyGenは短い画像と音声データさえあれば、その音声から口の形を推定し、顔を動かしながら自由に話をさせることができる。特別な技術や編集経験がなくても簡単に作成でき、短時間で高い精度の仕上げができるとして、世界各国に広まっている。肖像画「モナリザ(Mona Lisa)」を表情豊かにしゃべらせたり、今は亡き家族の写真を使って動画で歌うビデオを作ったりする人もいる。さらに言語を選択すれば、口元を自然に修正してその人物が外国語を話しているようにできる。
郭徳綱さんの英語漫才動画が広まると、次々に同じような作品がネット上に流れた。中国で「コントの王様」といわれる趙本山(Zhao Benshan)さんが巧みな英語を使う動画も登場。さらに、テイラー・スウィフトさんや、映画『ハリー・ポッター(Harry Potter)』シリーズなどで有名な女優エマ・ワトソン(Emma Watson)さんが、中国語でインタビューに答える動画が広まった。
こうしたブームに対し、著作権問題に詳しい北京の趙虎(Zhao Hu)弁護士は「音声を勝手に翻訳する行為は著作権法違反に当たる。外国文学を中国語に翻訳する際に原作者の許可を得るのと同じ」と指摘。また、動画の使用は民法上の肖像権侵害にあたることも考えられる。
ネットではブームを楽しむ声の一方、「何が本物か分からなくなる」「犯罪に使われないか心配だ」という戸惑いも広がっている。
日本では最近、岸田文雄(Fumio Kishida)首相がひわいな発言を連発するフェイク動画がニュースとなった。米国では10月末、AIを使った動画に「電子すかし」を入れることを義務づけるなどAIの規制を強める大統領令が発表されている。あまりのスピードで進化する技術に、世界各国が驚いたり対応を迫られたりする状況が続いており、中国の「ニセ外国語動画」もその象徴の一つと言える。【翻訳編集】東方新報/AFPBB News|使用条件