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起業家も投資家も国境を超え日本の外へ 〜グローバルVCイベント「Accelerate」

「Accelerate」イベントでのパネルディスカッションの様子

「Accelerate」イベントでのパネルディスカッションの様子

 これまでにスペースXやオンライ決済大手のStripe(ストライプ)、エピックゲームなどに投資してきた米国ニューヨーク市に拠点を置く有力ベンチャーキャピタル(VC) 、HOF CapitalとDG Daiwa Ventures(以下、DGDV)が共催するグローバルVCイベント「Accelerate」が8日、渋谷パルコDGビルで開催された。

 当日は生成AIなど近年の技術トレンドや、大企業とスタートアップとの共創、海外スタートアップ、VCから見た日本市場の可能性や日本での事業展開の手法など、スタートアップに関する広範な話題が展開された。

日本により多くの起業家を

 日本経済再生に向けて、スタートアップへの期待は大きい。政府もスタートアップ5カ年計画として、2030年までに100社のユニコーンを生み出すことを目標に掲げている。ユニコーンとは、企業価値が10億ドル以上の未上場企業だ。数だけでなく、「規模も」ということだが、規模を追うにしても裾野を広げ、これまで以上に起業家を生み出す必要がある。

ユーグレナの出雲氏
ユーグレナの出雲氏

 基調講演を行った株式会社ユーグレナ代表取締役の出雲充氏も話題として取り上げていたが、日本で起業家が少ない主な理由の3つは「失敗への恐怖」、「身近な起業家の不在」、「学校教育」(2020年に経済産業省がスタートアップに対して行ったアンケートの回答より)だという。他にも安定志向、制度上の問題などがあるが、まずこれらの課題を改善しなければならない。

 さらにユニコーンとなるスタートアップ育成を考えたときに必要な条件は、日本国内に留まらないグローバルな事業展開だ。ただ、グローバル化すべきは起業家だけではない。起業家育成や投資をする側も世界標準に適応し、日本のスタートアップ・エコシステムそのものを全世界規模にしていくことが求められている。

 グローバル化については、日本の投資家と起業家にはそれぞれに課題がある。

 投資家は、これまで経験のない海外スタートアップへのクロスボーダー投資をどのように実行するのか。起業家も企業規模の拡大のためには、創業当初から世界市場を視野にと言われているが、では実際にどのようにして海外へ進出すればいいのかなどだ。

 有望な海外マーケットへの投資への誘いと、スタートアップがグローバル化する道筋を示すことは、どちらもこの日のイベントの目的のひとつ。さまざまなパネルディスカッションが行われたが、登壇者のコメントから、こうした点のアドバイスやヒントになる発言を拾ってみた。

成長する米中以外の国々 例えばインドは…

 海外のVCから見ても、日本の企業は健全なバランスシートと投資可能な豊富な資金を持っている。企業価値の向上、イノベーションの拡大のために海外での投資を積極的に行うべき時期に来ているというのが、登壇した海外の創業者、投資家たちの見方だ。

 さらに、ここ数年「イノベーション民主化」で、先端技術を使ったサービスや製品の開発は先進国だけのものではなくなった。その結果、投資先となりうる有望なスタートアップは米国、中国だけでなく、インドやアジア、中東、アフリカなどにも存在している。

スクリーンの人物がBlume VenturesのKunal Bajaj氏 右端がDGDV揖斐氏
スクリーンの人物がBlume VenturesのKunal Bajaj氏 右端がDGDV揖斐氏

 例えばインドだが、推計値で人口が中国を上回り世界一となったことで注目されているが、それだけではない。パネルディスカッションの一つに登壇したインドのVC、Blume VenturesのKunal Bajaj氏によると、「インドは経済成長しており、それにともない収入も増えている。(インドと言えばこれまで製品を作る側だったが)インド人が買う側になってきた」と消費市場としても有望であると指摘した。

 また、国が豊かになると、現在の古いインフラの更新が求められる。巨大消費市場が立ち上がり、古いインフラの更新というビジネスチャンスもある。さらにイノベーションの民主化で、IT化・DXにおいてはある意味“先進国”であるインドでは、本人確認や支払いシステムのデジタル化などでは、かなり先に進んでいる。こうしたことから、インドはスタートアップが成功するチャンス・環境が整っていると言える。

現地パートナーの重要性

 有望な成長市場であるインドでの投資に興味がある投資家は、日本にも多いことだろう。しかし、大半の投資家にとっては、インドでの投資は経験もなければ有効な情報を集めることも難しい。そこで考えられるのは、現地にパートナーを持つことだ。

 インド側から見ても、現地のパートナーの存在は重要で、例えば日本のCVCとのつながりができても、担当者が変わってしまうと関係性をまたゼロから作り直さなければならない。しかし、現地パートナーも加わって進めてきた案件であれば、その心配はない。同じパネルに登壇していたDGDVシニアプリンシパルの揖斐真も「海外のマーケットの正確な理解は難しい。ローカルなパートナーを持つことは大事」とこれまでの経験を踏まえて話した。

 ところで、インドに限らず、米中以外の国で有望な投資先があったとしても、日本からではパートナーを見つけることすらも簡単ではない。DGDVではローカルのパートナーを見つけることもサポートしており、クロスボーダー投資を検討するなら相談してほしいとのこと。ただし、良いパートナーがいたとしても海外投資で100%の成功を求めるのは無理。投資家も失敗を恐れず、我慢強く、試行錯誤を続けることが大切であり、日本の企業に欠けているのは、「失敗を恐れるあまり決断ができないことだ」というのは、登壇者が異口同音に指摘した課題だ。

創業当初から世界を目指せ

 では、スタートアップの海外進出について、この日のイベントではどんな話題があったのか。最後のセッションに登壇した世界有数のアクセラレータープログラムを持つAlchemist Accelerator, LLC ジャパンオフィスのマネージングデレクターである眞鍋亮子氏と、医療データの利活用支援ベンチャーである株式会社YuimediのCFO村岡和彦氏、この両人のエピソードは興味深く、示唆に富んだものだった。

Alchemist の眞鍋氏
Alchemist の眞鍋氏

 まず、起業家育成の経験豊富な眞鍋氏によると、言語や規制で参入障壁のある日本の国内消費者向けの製品・サービスを手掛けるスタートアップはまだしも、それ以外のビジネス、特に企業向けのビジネスを想定するなら、欧米への進出、グローバル化を前提に起業すべきだという。

 なぜなのか。その理由としては、スタートアップへの投資額全体から見ると、日本での投資額は微々たるものであるということ。さらによりわかりやすい理由として「途中からコミュニケーションを英語に変えるのは難しい。早くから海外に行くことにしておくと(起業当初から)海外メンバーがいるので、コミュニケーションが英語になる」さらに「会社の大小にかかわらず、作り上げる努力はあまり変わらない」ということも。

 さらに、スタートアップの側でも途中から海外展開をするとなると、すでにその段階では従業員や既存株主がいるので「結構いろんな議論が起きて、大きくなれば大きくなるほど、米国に行くという意思決定をするのが大変になるのです」(村岡氏)

 また、村岡氏が自信周辺の話をきいたところ、グローバル展開でうまくいっている日本のスタートアップ創業者はやはり、起業時かそれ以前から海外へ行くことを決めていたという。

Yuimediの村岡氏
Yuimediの村岡氏

 とはいうものの、投資家の海外進出と同様に起業家の世界進出も難しいことには変わりない。身軽なうちに海外進出を決断した起業家はまず何をすべきか。その問いに対して村岡氏は「私はとりあえず行くことだと思います」とまずは単身・短期間でもいいのでその国にでかけてみることを勧める。

「行ってみて、お客さん候補の人たちにLinkedInなどでアポイント取って、なんとか繋がった人たちに意見を聞いてみて、そこで初めてわかることはむちゃくちゃ多いです」(村岡氏)

 海外での人材確保、市場開拓、資金集めなど事業開始までには課題が多いが、そこを心配するより「まずはその国に出向き、そしてその国の人の話を聞く」。

* * *

 この日のイベントの別のセッションに登壇したグローバルで成功した著名な創業者たちも語っていたことだが、アグレッシブで事業の継続・拡大に努力を惜しまない起業家だけが、困難を乗り越え成功にたどり着けるという。

 グローバル化を求められる日本の起業家にとってアグレッシブに「世界中どこへでも、まずは行ってみる」の心得は、成功への最初の一歩になるはずだ。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。