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コロナ移住で生まれた草取り自動化ロボット 有機農業を後押し

「ミズニゴール」(画像提供:ハタケホットケ)

「ミズニゴール」(画像提供:ハタケホットケ)

 2021年農林水産省は、持続可能な食料システムの構築に向け「みどりの食料システム戦略」を掲げた。その中で、2050年までに有機農業の耕地面積を100万ヘクタールまで拡大するとしたが、今のところ、その歩みは順調とはいえない。

 有機農業の耕地面積が広がらない原因のひとつは、生産性が必ずしも高くないことだ。化学肥料や農薬を使わずに有機農業を行う場合、雑草が多くなり、病気や害虫被害も出やすく、通常の農法と比べ、手間や労力がかかり、生産量も減ってしまうのだ。

 こうした課題に対して、雑草対策ロボットを開発・提供することで解決に寄与しようとするスタートアップが登場した。それが、2021年10月に長野県塩尻市で設立された株式会社ハタケホットケだ。

 同社は、田んぼの中にロボットを走らせることで、水をかき混ぜ、泥でにごらせることで雑草の成長を抑える「ミズニゴール」を開発。農家と実証実験を繰り返しながら、除草作業の自動化に取り組んでいる。ミズニゴール開発の経緯や狙い、今後の展望について、代表取締役の日吉有為(ひよし・ゆうい)氏に聞いた。

草取りを自動化するロボット

代表取締役の日吉氏(画像提供:ハタケホットケ)

 ミズニゴールとはどのようなロボットか。日吉氏によると、除草剤を使わずに米を育てようとすると、田植え後に、稲の間から雑草が生えてきて影を作り、稲の生育が遅れてしまう。このため、草取りが大事になるが、田植えの時期から数ヶ月ほど、数日おきに行わなければならず、大変な重労働だという。この除草の負担を減らしてくれるのが、ミズニゴールだ。

 その使い方はこうだ。まずミズニゴールを、水を張った田んぼに入れ、ラジコン操作などで駆け巡らせる。すると、本体前部についたブラシが泥をかき混ぜ、水をにごらせる。これにより、水面下にある雑草の光合成を邪魔して生育を抑えられるほか、小さな雑草であれば、除草もできるという。

 動力源はバッテリーで、1反(1000平方メートル)の田んぼであれば、約15分で作業が済む。バッテリーを替えながらであれば、1日で約3ヘクタール(30反)の広さをカバーできるという。

「除草剤を使う農家であれば、50ヘクタールから100ヘクタールほどを手がけている場合もありますが、除草剤を使わない農家さんの田んぼは、広くても1ヘクタールから3ヘクタールほど。つまり(ミズニゴールは)相当広くやっている(有機)農家さんの田んぼも、一台でカバーできるということになります」(日吉氏)

 実は、広範囲の除草作業を自動化することは、「有機農家の耕地拡大に寄与する可能性が高い」と日吉氏はいう。

「田植えや稲刈りは大型の機械があって、効率化されていますが、草取りはいまだに有効なソリューションがなく、このことが、有機農家の耕作拡大を阻む要因のひとつになっています。草取りを楽にしてくれるミズニゴールの普及は、日本の有機農業や食に関する、さまざまな課題解決につながる可能性が高いと私は考えています」

事の発端は、コロナ禍での移住

 日吉氏らは、どのような経緯でミズニゴールを開発したのだろう。事の発端は、2020年に起こったコロナ禍にある。当時、東京で建築やインテリアのグラフィック制作会社を運営していた日吉氏は、ロックダウンを避けるため、仕事仲間らと長野県塩尻市に移住した。そこで、米づくりを体験したことが転機となる。

「2反(約0.2ヘクタール)の田んぼを皆で手伝いました。そこが除草剤を使わない有機農業をしていて、草取りがものすごく大変だったのです」

 初年度は新鮮さもあり手作業で乗り越えたが、2年目からは、近所の農家に草取り手法を聞くなどし、効率化を試みた。その中で可能性を感じたのが、「チェーン除草」という手法だったという。これは、40センチほどの鎖を短冊状につないだ棒を持って、人が田んぼの中を歩き回るというもの。泥で水をにごらせることで、雑草の光合成を邪魔することができる。

「ただし、鎖をつないだ棒はかなりの重みがあり、2反の田んぼを回ると3時間ほどかかります。これを数日おきに真夏の炎天下でするのは、なかなかの苦行だと思いました。何か代替案がないかと考えた末、ラジコンを走らせて水をにごらせればいいではないかと思いついたことが、ミズニゴール開発のきっかけです」

 日吉氏は、以前から交流のあった発明家ケンジ・ホフマン氏にラジコンの製作を依頼。3日後、ラジコン本体にベビーカーのタイヤを取り付けた試作機ができあがる。さっそく田んぼで試してみると、泥を攪拌し、水をにごらせることができた。

稼働中のミズニゴール(画像提供:ハタケホットケ)

「このことを、塩尻市が運営するコワーキングスペース『スナバ』で話したところ、スナバの運営スタッフから『県の補助金がおりそうだ』と言われ、試しに応募してみることに。すると、開発に補助金を出していただけることになり、新たに会社を設立し、ミズニゴール開発に本腰を入れたというのが、当初の流れです」

GPS搭載「完全自動化型」の開発も

 2021年10月、日吉氏は、グラフィック制作会社との二足の草鞋で、ハタケホットケ社の運営にのりだす。まずは、ミズニゴールの除草効果などを調べる実証実験に参加する農家をクラウドファンディングで募集。2022年に、約10カ所の田んぼで実証実験を実施した。

 その結果、7割の田んぼで雑草を抑えることに成功。しかし、モーターの故障が相次いだため、2023年からは、国内外のモーターを試しながら動力性能の向上に努めているという。

「今シーズン(2024年)は、ある国産の高性能モーターを利用することを決めました。かなりオーバースペックのものを選んでいるので、モーターが壊れることはほぼなくなるでしょう」

 もう一点、注力しているのが、GPSを搭載した完全自動(自動運転)型ミズニゴールの開発だ。

「従来型ミズニゴールを使った農家さんからは、除草効果については『うまくいった』という声が多いです。ただ、ラジコン操作なので、ずっと田んぼにいなければならず、実感としては『時間が取られてしまう』印象を持つ人が多いです。そこで今シーズンは、モーターの性能向上に加え、完全自動型ミズニゴールを開発し、農家の『こうあってほしい』を全てかなえたものを提供しようと考えています」

「米の出口」を整え、有機転換を促す

 今後の展望をたずねると、日吉氏からは、「私たちが目指すビジョンは単純明快。『自分たちがやりたくない農作業を全て自動化したい』です」との答えが返ってきた。

 ミズニゴールを開発する一方で、日吉氏自身も有機農業に携わる当事者だ。米や野菜を作る中で直面するさまざまな“面倒な作業”を、AIやIoT、ロボティクスなどの技術を使って自動化し、農家の負担を軽減していきたいという。

「まずは田んぼの土手の草取りを自動化し、その後は畑の草取りも自動化していきたいですね」

 ただ、ロボットなどハードウェア開発には、膨大な資金が必要になることも実感しており、「今後は資金調達にも力を入れたい」とも語る。

「すでにいくつかのベンチャーキャピタルとお話させてもらっています。ただ、我々は自分たちがやりたくない農作業を自動化しようと起業したので、上場や売却を優先していません。そのあたりをご理解いただいたうえで、乗船いただける方がいらっしゃれば。あと、事業会社さんで、良い相乗効果を得られるところがありましたら、ぜひ事業連携していただきたいと考えています」

 もうひとつ、日吉氏らが力を入れているのが「米の出口」の整備だ。日吉氏によると、現在、国は有機農業に携わる農家を増やそうとしているが、労力に見合った見返りが得られないため、有機栽培に踏み切れない農家が多いという。

「農薬不使用や有機栽培にすると、どうしても労力が増えます。それは我々などが自動化に努めていても、避けられない部分があります。そんな中で農家に有機の方を見てもらうには、やはり増えた労力を米の値段に転化できる仕組みが必要です。そこで、ミズニゴールを使って農薬不使用や有機栽培に転換してくださった農家さんが作ったお米を我々が買い取り、『ミズニゴール米』としてWebサイトで販売する仕組みを構築しました」

 日吉氏は、ミズニゴール米に「オーガニック」としての付加価値を付けるため、自分たちはもちろん、ミズニゴールを使う農家にも有機JASの認証を受けてもらい、海外展開することも視野に入れているとのことだ。

「農家が農薬不使用や有機栽培に切り替えていきやすいよう、道具だけでなく、ノウハウや“出口”の部分もトータルで支援していきたい」と話す日吉氏。その目は、日本の農業の未来に、一筋の光明を見出しているように感じられた。

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