2024年1月1日の能登半島地震により、未だ多くの人が避難生活を続けている。被災地以外の人にも自然災害は他人事ではないことを改めて思い起こさせた。
災害発生時に必要となる水・食料などの防災備蓄品について、その必要性は理解され、備蓄はすすめられているものの、大都市圏では個人や自治体の備蓄だけでは十分とはいえない。近年、多くの従業員を抱える企業、オフィスビルでも備蓄が進んでいるが、管理の手間や保存スペースなど課題が多い。
そうした課題解決のために、防災備蓄品の新たな管理ソリューション「あんしんストック」を提供するのが株式会社Laspyだ。ソリューションの概要や着想に至った経緯、今後の展望などについて、同社 代表取締役CEOの藪原拓人氏に聞いた。
建物・エリア単位で備蓄インフラを提供
2011年3月の東日本大震災では、首都圏で約515万人の帰宅困難者が生じた(内閣府推計)。その後、対策として東京都は「東京都帰宅困難者対策条例」を策定。条例では、災害発生時に従業員が一斉に帰宅することを抑制することと、会社内に待機する従業員などのために、3日分の水・食料などを備蓄する取り組みを推奨している。しかし、企業にとって、手間のかかる災害備蓄品の管理業務は大きな負担だ。
Laspyの法人向けの防災備蓄品管理ソリューション「あんしんストック」では、備蓄品のライフサイクル全体管理をアウトソーシングできる。備蓄品の用意や配備、棚卸し、賞味期限切れに伴う入れ替え、フードバンク等への寄付などから、管理システムの入力代行まで、備蓄品管理に関わる全ての業務を引き受けてくれる。
藪原氏は、「必要性は認識されているが、管理が煩雑でかつ企業のビジネス活動に直接貢献するものではないため、なかなか進んで行えないといった課題を解決するサブスク型のソリューション」だと説明する。
「あんしんストック」では保管場所は必ずしも自社内に設ける必要はなく、従業員が徒歩でたどりつける場所に、ビル単位、エリア単位で複数の企業分を保管することもできる。導入企業としては、スペースの悩みがなくなり、さらに「ボリュームディスカウントにより、比較的安くサービスを利用することができる」という。
サービスプランは3つに分かれており、
・備蓄品の管理(保管場所、数量、期限など)ができる「フリープラン」
・備蓄品の用意や入れ替えを代行する「マネジメントプラン」
・徒歩圏内に備蓄スペースを用意する「スペースプラン」
の3つがある。
「スペースプラン」については、ビルオーナーや不動産デベロッパーとの協業も進めている。
ビルオーナーや不動産デベロッパーにとっても、建物の機能の一部として備蓄品管理サービスを提供することで、ビル価値の向上に寄与できる。
「自然災害でなくても社会不安に直面すること」を実感
防災備品用品の課題を解決するサービス開発の着想は、Laspy創業前のコロナ禍に遡る。
「2020年4月に最初の緊急事態宣言が出され、学校が休校になったり、オフィスに出社できなくなりました。食品やマスク、トイレットペーパーなどの日用品の買い占めや品不足が報じられ、多くの人にとって、自然災害以外でも社会不安に直面することを実感した経験でした」(藪原氏)
社会インフラとして、多くの人がすぐに備蓄品にアクセスできる仕組みが作れないか……。藪原氏は当時大手通信会社に勤務していたが、社会不安の解決に役立てようと「あんしんストック」というサービスを開発し、2021年2月に起業に至った。
現在、約30社がサービスを利用しているが、「起業して、しばらくは反応も芳しくなかった」という。投資家が集まるピッチイベントに参加しても「どうしても生成AIやVR、Web3などの“映える”テーマと比べて、防災というテーマは地味で、ビジネスとしてスケールしないという評価を受けることもあった」と藪原氏は振り返る。しかし、日本で大きな地震がしばしば発生する。藪原氏は「災害は起きて欲しくないが、実際に自然災害に直面すると、防災備蓄の重要性というのを多くの人が肌で感じる」と話す。
「あんしんストック」は、2023年2月に開催された「The JSSA Tokyo Pitch Award &Meetup Vol.32」(一般社団法人日本スタートアップ支援協会主催)でオーディエンス賞を受賞するなど、着実に地歩を固めている。
さらに同社は、2024年1月、常温で10年保存可能な備蓄食「&mogu(アンドモグ)白粥」「&mogu鮭粥」「&mogu梅粥」を発売した。多くの保存食が5年保存という中で、10年保存可能とすることで、備蓄品の購買頻度の減少とコスト低減をめざしており、これによりフードロスの削減も期待できる。
防災備蓄機能をインフラ化する
今後について、藪原氏は、「防災備蓄機能がインフラ化することをめざしていきたい」すなわち、「生活の中で意識せずとも備蓄に困らない社会」の実現だ。藪原氏は「備蓄品の準備や運用は本来、自分で行うべきものなのですが、個人の防災意識に依存した対策は人によってバラツキが生じ、社会全体でみても不公平につながる」と話す。
そこで、たとえば、町内会費やマンション共益費のように、「生活者が払う社会コストの中に組み込まれ、生活環境の中に備蓄品管理の仕組みが組み込まれる世界の実現が望ましい」という。Laspyの事業ロードマップにも「to B、to Cのソリューション提供の先に、to G(Government:行政向けビジネス)がある」と藪原氏は話す。
地方銀行系のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)からの出資も決まったそうで、防災備蓄を社会インフラ化することで解決したいという、同社の大きな構想への理解が広がりつつあるようだ。