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フード業界のロボット導入・自動化は生産性の向上チャンスにも

インテック大阪にて

インテック大阪にて

「第3回フードテックWeek大阪」(主催:RX Japan株式会社)が13日〜15日に、インテックス大阪でされた。

 食品製造・飲食業界の課題もやはり人手不足。食品製造工場の人員、レストランの調理人、フロア係……。ロボットやICTにより業務効率化、自動化をいかに進めるか。出展者からの提案もそこに集中していた。

 人手不足への対策としてまず思いつくのはロボットだ。

細かな進化を続ける配膳ロボット

Pangolin Robotの配膳ロボット
Pangolin Robotの配膳ロボット

 飲食店で配膳ロボットを見かけるようなったが、この業界は中国のメーカーが存在感を示している。今回も会場には中国の2社が出展していた。ディスプレイがパンダ顔のロボットは、中国江蘇省蘇州市の穿山甲機器人(Pangolin Robot パンゴリン・ロボット)だ。ChatGPT搭載で接客もスムーズというところで、他社の配膳ロボットとの差別化を図っているとのこと。

 もう1社は、上海市のKEENON Robotics株式会社だ。配膳ロボットの大手企業で、ソフトバンクやアイリスオーヤマと提携関係にあるので、日本でも同社のロボットを見かける機会は多い。展示会場で対応してくれた、シニア・セールスマネジャーの汪亜威さんによると、中国での普及は進んだので、昨年からは韓国、日本での販売活動に重点をおいているとのこと。新型ロボットのT10は、席に座った客とのコミュニケーションを考慮し、正面に大型ディスプレイを備えている。さらに左右にカメラを配置したことで、周辺の環境認識精度が上がり、狭い場所でも活動できるようになった点が従来機から進化している。

KEENON RoboticsのT10
KEENON RoboticsのT10

 配膳ロボットは、簡単な仕組みのように見えるが、品質向上のため、きめ細かな改造を何度も繰り返しているという。走行時の安定性の向上や、故障が少なくなるよう改良をするなど目に見えない部分も大事とのこと。「お客様の要望に応じて、素早く製品を改良してます。それが当社の強みです」(汪さん)

 配膳ロボットは最大40kgまで積み込むことができる。飲食店での配膳のほか、工場での部品の配送などにも使われている。価格は200万円前後のものが多かった。

ロボットで調理はどこまで可能?

円筒形の鍋の中でチャーハンを調理中
円筒形の鍋の中でチャーハンを調理中

 人手不足解消ということで、人の代わりに調理をしてくれるロボットはないか探してみたところ、回転する円筒形のフライパンでチャーハンを作り、作り終わったら自動で洗浄する調理マシンを見つけた。こちらはTech Magic株式会社(本社・東京都江東区)が開発した調理ロボットの「I-Robo」だ。鍋のあおりやかき混ぜ方など、中華の料理人の鍋さばきを学習し、それを再現している。実演で作られたチャーハンを試食してみたが、上手く出来上がっていた。具材の投入タイミングや量などは回転鍋横のディスプレイに表示されるので、それに従って調理をすれば、誰にでも調理ができる。

ドリップコーヒーを入れるロボットアーム
ドリップコーヒーを入れるロボットアーム

 より自動化されたものとしては、韓国水原市のスタートアップCobotsys Co.,Ltd(コボシス)のドリップコーヒーを入れるロボットアームの展示があった。専用アプリからの注文で、水をポットに入れお湯を沸かすところから、コーヒーを淹れてカップでサーブ(配膳)するところまで自動でこなしてくれる。

 同社はバリスタロボットの専業というわけではなく、ロボットアームを使ったスマートソリューションの一例としてのバリスタロボットということらしい。同社のロボットアームは製造ロボットとして工場のラインでも活用されているとのこと。

自動化・ロボット導入に必要な思考

 会場内でのカンファレンスで、東海地区で食品スーパーを展開するマックスバリュ東海株式会社が、自動調理ロボットなどを手掛けるスタートアップ、コネクテッドロボティクス株式会社(本社・東京都小金井市)などと協業し、惣菜工場でのロボット導入事例を紹介していた。

 パックに入った惣菜の盛り付けを、ロボットで自動化することは簡単なように思えるが、水分を含み、形状も様々な惣菜を扱うのはたいそう難しいなど、多くの課題がありこれまで自動化は無理だと考えられてきた。確かに、工業製品のように整然と並んだ形ある部品をつかんで組み立てるのとは異なり、ポテトサラダをロボットアームでつかんで、容器からはみ出さないように、見栄よくパックに収めるのは大変そうだ。

コネクテッドロボティクスの代表取締役 沢登哲也
コネクテッドロボティクスの代表取締役 沢登哲也

 食品製造・飲食業界で自動化を進めるにあたって、大事なポイントになるのではないかと思えるエピソードを講演の中でコネクテッドロボティクスの代表取締役 沢登哲也さんが、披露していた。

 ロボットの導入や自動化にあたって、これまでの業務プロセスや商習慣の変更を決断することが導入する側に求められることがある。そうすることで自動化、ロボット化の課題が解决する。今回の例では惣菜に「不定貫」を取り入れることがその決断のひとつだった。

「不定貫」とは、食肉などのように形状が異なる商品のことで、こうした商品は重量によって値段が決まる。一方、食品スーパーでの惣菜販売は量り売りではなく、容器の大小によって「大は398円。小は198円」などと決まっていることが多い。そうすると、内容量のばらつきがあっては困るので、同じサイズの容器には同じ量の惣菜を盛り付ける必要がある。これが自動化には厄介なプロセスであることは容易に想像できる。

 惣菜を不定貫の商品とすれば、盛り付けで細かな容量調整が不要になり、ロボット導入のハードルが下がる。利用する側が不定貫の文化を受け入れれば、食品製造現場の人手不足問題の解決への道が拓けるというわけだ。

 従来、人手でやってきたことがそっくりそのままできる「高機能、高性能の夢のロボット」の開発を待つのではなく、現状入手可能な技術を上手く活かして対応を進めることが肝心。技術は進歩するので、最初は多少いびつなサービスであっても寛容さを持って受け入れる。これが「ロボットフレンドリー」という概念だ。

 事務作業をDX化するときにも、同様の決断を求められる事があるが、旧来のやりかたをなにもかもそのままということでは、自動化してもコストパフォーマンスは上がらず、生産性も低いままになってしまう。DXやロボット導入による自動化は人手不足解消とともに日本のもう一つの課題、生産性の低さを見直す環境整備のきっかけにもなりそうだ。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。