サイバーエージェントによる国内動画広告の市場調査によれば、2023年は6,253億円だった国内動画広告の市場規模は、2027年には1兆228億円に達する見込みだ。特に、縦型画面の動画広告の市場規模は2023年の526億円から2027年に1942億円に達すると予測される。このデータからも分かるように、スマホの縦型画面に対応したショート動画コンテンツの視聴時間が増加傾向にある。なかでも「縦型ショートドラマ」が人気だ。
studio15株式会社は、2019年1月の設立、TikTokを中心としたショートムービー領域で広告代理店事業・プロダクション(事務所)事業を展開する。同社 マネージャーの高橋奨真氏によると「現在、所属クリエイター数が約180組、総フォロワー数約6,000万人を擁している」とのこと。
studio15が得意とするのが、「縦型ショートドラマ」だ。これは、1〜3分程度の短尺で、ドラマ仕立ての縦型動画コンテンツを指す。
縦型ショートドラマの特徴として、高橋氏は、「視聴維持率」の高さをあげる。これは視聴者がコンテンツをどれだけ長く見続けるかという「没入度」を測る指標だ。縦型ショートドラマは、ドラマ仕立てであるため、カット数が多く、物語の場面展開が早いため、視聴を維持しやすい特徴がある。こうした特性から「広告コンテンツとして最後まで視聴してもらえる、1コンテンツ再生における顧客認知の単価が低減できると評価されている」と高橋氏は話す。
縦型ショートドラマの主なプラットフォーム「TikTok」の視聴者層はいわゆるZ世代(1990年代後半から2000年代に生まれた世代)が中心だ。広告主はこの「次なる購買世代」にアピールし、この年代が成長した際に自社の製品やサービスが購買対象として想起されることを期待している。こうした企業の思惑を背景に同社は、TikTokを中心に、2023年には年間で600件以上の企業PRショート動画を制作するまでに成長した。
縦型ショートドラマの制作現場とは
1本のショートドラマが制作、配信されるまでには、「まず、プロデューサーが企画の大枠を考えます。そして企画会議には、脚本家や監督も参加し、企画が固まったら脚本家がストーリーを考え、字コンテ(ストーリー展開などをテキストで書いたもの)に落とし込みます」(高橋氏)。
高橋氏によれば、出演する俳優を含め「1本のショートドラマに携わるのは5〜6人程度のケースが多い」。これはテレビドラマの制作の現場から比べると、かなり小規模な撮影スタイルだ。
また、高橋氏は縦型ショートドラマの特性として、「横型に比べて背景の映り込みが少ない」点を挙げる。大がかりなセットで背景を作り込む必要がないため、小回りよく撮影ができる利点がある反面、「少ない余白で、そのシーンでストーリーや出演者の感情の動きを表現していく難しさがある」という。
脚本家や監督は、TikTokで制作、配信を行うTikTokクリエイター(TikTokアプリ内でオリジナル動画を投稿している人たち)が務めることが多いそうだ。高橋氏は「映像の速度やテンポなどが視聴者の視聴スタイルに合致している」と話す。
また、社長室広報の吉田拓哉氏によれば、最近は有名な映画監督が、TikTokで監督を務めてショートドラマを制作する事例もあるそうで、「映像のテンポや画面の使い方、カット割りなどは、映画のノウハウとはまったく異なると感じる」(吉田氏)。どちらがよいということでなく、配信先のメディアや視聴者の視聴スタイルに応じて「独自のノウハウがある」ということだ。ただ、TikTokの場合、視聴者はつまらないと感じたらすぐスワイプできてしまうため「毎秒、映像にフックがあるようなテンポでないと、なかなか最後まで視聴されない」(吉田氏)。
studio15は、こうしたショートドラマ制作や映像のエフェクト作成からTikTok広告のアカウント運用までワンストップで担うことができる。さらにTikTokやYouTubeなどで自社メディア『ドラマみたいだ』というアカウントも運用しており、こちらは2023年3月の公開以来の累計再生数が約3億回を上回っている。
法人向け、個人向けの両輪で成長を
2024年4月には、株式会社indentと事業提携し、同社が運営する創作プラットフォーム「Nola(ノラ)」から発掘された小説をショートドラマとして映像化することを発表した。第1弾の取り組みは、「15〜20話で構成される、計60分ほどのショートドラマになる予定」(高橋氏)で、ショートドラマ配信アプリ「BUMP(バンプ)」を通して配信する。indentも制作費を負担し、その比率に応じて課金収益をレベニューシェアする。
このビジネスは、1話単位で課金するビジネスモデルとなる。これまでの法人向け事業とは異なり、個人向け事業を強化する協業として位置づけられる。
高橋氏は、「ショートドラマのキャスティングから制作までトータルにカバーできる弊社の強みが生かせる」ことに加え、「『原作の映像化に時間やコストもかかる』という従来の課題を解決し、新たなショートドラマ市場を創造する可能性が期待される」とした。
今後のビジョンとして、高橋氏は「ショートドラマやショート動画に関わるクリエイターが安定的に稼げる収益の仕組みづくりに取り組みたい」と話す。吉田氏によれば同社の成長戦略も、その仕組みづくりをベースに「縦型ショートドラマといえばstudio15」というブランドを確立し、グローバル市場に進出することを視野に入れているそうだ。
米国では、TikTokへの逆風が強まっており今後の事業拡大に不安もあるが、高橋氏は「海外では、縦型ショートドラマのプラットフォームが続々と出現しており、日本もこの流れに追随することは間違いない。TikTok以外のプラットフォームも押さえていく」と先の見通しを語った。
また、高橋氏は前述のindentとの協業について、「まずは20作品を制作していく」ことを目標に掲げる。1作品は20話程度で構成されるため、400話程度の制作が目標となる。
そのために制作陣のさらなる強化も今後のテーマの一つだ。「人材獲得、育成については継続的に投資を行っており、競合他社とは一線を画す、クオリティの高いショートドラマコンテンツ制作を今後も続けていきたい」と高橋氏は締めくくった。