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ビジネスと技術 日韓の攻防…オンラインゲーム最前線 【後編】

OLEDゲーミングモニター「オデッセイG9 Odyssey G9」=サムスン電子提供(c)MONEYTODAY

OLEDゲーミングモニター「オデッセイG9 Odyssey G9」=サムスン電子提供(c)MONEYTODAY

【KOREA WAVE】オンラインゲームの進化に伴って発展したテクノロジーがいくつかある。その産物の一部は、すでに社会の中に溶け込み、一部は世間の注目を浴びながら試行錯誤を繰り返している。 

◇チャット

 あるオンラインゲームでの模様を再現する。仮想空間に、ユーザー5~6人がチームを作って、戦う形式のゲームがあり、その中には街がある。

 あるチームでは「今日、モンスターを狩りに行こう。正午、街の中心にある、時計台のあるビルの前で待ち合わせしよう」という会話が交わされる。そうしたやり取りは仮想空間上で数十人、数百人によって、文字を使って交わされる。その会話が「チャット」として切り離された。そしてSNSと合体し、対話アプリ「LINE」などのような形で進化していくことになる。

◇メタバース

 オンラインゲームとは――インターネットを通じて多数のプレイヤーが、同じサーバーにある仮想空間で、それぞれのキャラクターを操るものだ。やがてグラフィック技術やデバイスの進化により、オンラインゲームで「3Dの仮想空間」でのプレイという形式にアップグレードした。さらにVRのゴーグルを使って仮想空間でプレイする「よりリアル」なゲームとして発展を遂げることになる。

 2020年の新型コロナウイルス感染拡大により、オンラインでのミーティングが頻繁に利用されるようになり、仮想空間に多くの人が集まって交流する「現実とは異なる世界=メタバース」が注目されるようになった。オンラインゲームの開発会社には、仮想空間構築のためのノウハウを生かして、メタバース事業を手掛けるところも現れた。

◇ブロックチェーン

 改ざんが非常に困難な「ブロックチェーン」という技術がある。オンラインゲームの中には、この技術を取り入れた「ブロックチェーンゲーム」というものが2017年ごろに登場した。

 ブロックチェーンゲームは「自律分散型システム」で運用されている。あらゆる情報を処理する「メインの大型コンピュータ」を持たないため、すべてのユーザーの端末が自律的に動き、それぞれが最適化することで、全体が柔軟でしなやかなシステムとして稼働する。

 それまでのオンラインゲームでは、運営会社が集中管理システムを使ってユーザーにゲームを提供してきた。時に、第三者によるデータの改ざん、転売という行為がまん延してきた。自律分散型システムでは、こうした行為が不可能となる。

「ニセモノもない。詐欺もない。ブロックチェーンゲームでは(次章で触れるような)ゲームアイテムの所有や移転が認められている。暗号資産(仮想通貨)の取引所を通じて売却し、利益を得ることもできる」川口氏はこう分析している。

◇収益モデル

 ゲームの主流がコンソールゲームからオンラインゲームに移る過程で、制作側を悩ませたもの――それが「収益モデルをどうするか」ということだ。

 オンラインゲームに限らず、「無料コンテンツが主流」とみなされてきたメディア産業の苦悩と通じるものがある。テレビゲームがオンラインでつながるのがオンラインゲーム。この新たな方式がゲーム市場を大きく変えた。

「オンラインゲームがなぜ普及したか? それは無料で遊べたから」。川口氏はこう振り返る。オンラインゲームの認知度を高め、家庭用ゲーム機を操作する手をPCに向かわせるためには、この「一定程度の無料化」はやむを得ない措置だった。ただ、ここで芽生えた「ゲームは無料」という感覚は、その先に見込んでいた「有料化による収益」の大きな妨げとなるというのが、業界における半ば共通認識だった。

 オンラインゲーム業界は収益化の第一歩として「広告・宣伝をいかに取り入れるか」ということを模索した。ともかくゲームユーザーの母数を大きくし、その中から数%でも有料でゲームをする人を見つけ出せないかというものだ。こうして作り出された広告モデルは一時的には注目され、奏功した。だが、その盛り上がりは限定的だった。最大の理由が「広告の表示があることでプレイに支障をきたす」というものだった。「ゲームのための快適な環境を構築できない」というクレームが相次いだのだ。

◇フリー・トゥ・プレイモデル

 もともとオンラインゲームは、サブスクリプション(月額課金)モデルから始まった。だが作品数が増える一方で、売り上げは思うように伸びない。そこで、ユーザー間の差別化を図る方法として韓国で考案されたのが「フリー・トゥ・プレイ(アイテム課金)モデル」。

 基本的にはゲームは無料だが、他のプレイヤーより強くなりたい場合にはお金を払えば武器や防具を購入でき、他者を圧倒する強力なパワーを得られるというものだ。

 ゲームユーザーが切望すること――それはまさに「強くなる」ことだ。誰よりも優れたプレイをして、周囲に称賛されたい。何か賞を取りたい。場合によっては、自身の生業にしたい。「強くなる」手段を得られるという誘い文句がユーザーの心を揺さぶった。

 フリー・トゥ・プレイを取り入れたオンラインゲームでも、ユーザーは自由にゲームにアクセスできる。ただし、キャラクターが強くなったり何かアイテムを購入しようとしたりする場合に制限がある。それを得るには少額決済を使用しなければならない――こんな仕組みが作られた。

 この点を川口氏が解説する。「無料モデルではなかなか強くなれない。例えば、あるレベルに達するまでに1週間かかるよう回り道をさせる。ところが課金した瞬間、1週間かかるものが1分で可能となる。この“一気に強くなる”というモデルがユーザーをひきつける」

 このフリー・トゥ・プレイは2003年12月、日本でも始まり、その後、世界の各地に広まった。一方で、この課金モデルはゲームの運営側にも工夫を求めている。「継続してプレイをしてもらう」ことが不可欠なためだ。コンソールゲームには終わりがある。人間とマシーンの対決であり、何度も同じようなプレイを繰り返すうち利用者は飽きてしまう。ユーザーを飽きさせないためにはゲームそのものを、時間とともに変化させ、ストーリーを終わらせないようにする必要がある。幸い、オンラインゲームでは戦いがユーザー対ユーザーとなるため、「ゲームに接続するたびに異なる面白さを味わうことができる」という利点がある。

◇闇売買

 オンラインゲームが発展するにつれ、韓国ではユーザーの「強くなりたい」という欲求に乗じたイレギュラーな取引が持ち上がってきた。ゲームユーザーが「自分は退会する。だが、自分はこれだけの金をつぎ込んで、キャラはものすごく強くなった」と誇示しながら、彼らが使ってきたゲームのID・パスワードを売買するというものだ。そのID・パスワードを買えば、いきなり強いキャラクターでゲームをプレイできる。

 例えば、ランク1だったのが、突然、ランク100になり、周囲から尊敬されるようになる。このID・パスワード売買は「RMT=リアルマネートレード」と呼ばれるものだ。人気のオンラインゲームでは、一つのアカウントが100万円以上でやりとりされることもある。

 このID・パスワードの売買はあくまでも闇取引で、日本の多くのゲーム運営者は利用規約でRMTを禁止している。だが、売買を仲介する業者まで現れ、闇取引が後を絶たない。「買い取ったID・パスワードが使えない」「強くならない」などの詐欺もまかり通っているそうだ。

◇中国の事情

 日本のオンラインゲームでは現在、韓国のPCオンラインゲームや自国のソーシャルゲームなどで培われたシステムが使われ、バージョンアップされている。そこにはサーバーの技術のほか、アイテム課金などゲームを運用するうえでのビジネスモデルが含まれている。

 2010年以降、韓国のスマホ市場に日本以上のスピードで中国のオンラインゲームが進出した。中には、ゲーム会社に中国の資本が入ったことで徐々にグローバル化が始まった。その背後には中国のオンラインゲーム業者の事情が隠されている。

 日本や韓国などと国情の異なる中国では、オンラインゲームの配信は法的規制による高いハードルがあり、ビジネスも難しい。韓国のビデオゲーム開発企業「ブルーホール」が手掛けたバトルゲーム「PUBG」を例にとる。

 世界的なヒット作で、最大100人のプレイヤーがさまざまな武器を駆使し、生き残りをかけて戦うものだ。一方、中国当局はこのPUBGに対して「残酷すぎる」と批判的な立場を取った。そもそも、子どもや若者の近視を減らすことを目的に未成年者のゲーム利用を制限してきたという背景もあった。

 2017年10月31日の米CNNテレビ(電子版)によると、当時、中国本土では「PUBG」は販売されていないのに、このゲーム全体の4割を中国本土での売り上げが占めるまでになっていた。中国本土でも香港経由で入手できたためだ。中国のインターネット大手、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)が中国でのライセンス獲得に意欲を見せ、暴力的なコンテンツを禁じる中国の厳格な規制に合わせてゲームの内容も修正して公開した。それでも2019年5月8日、騰訊は試験配信を終了すると発表し、SNS上ではユーザーの悲鳴が上がった。

 PUBGの中国人ユーザーは大半が別のゲームに移った。PUBGに似ているものの▽暴力性は抑えられ▽人民解放軍空軍を称揚する内容となり▽対テロ軍事訓練の現場が舞台になっている――という。

◇プレイヤーキル

 国情の違いでいえば、グローバルなオンラインゲーム業界において「日本は特殊だ」という論調で語られることがある。「プレイヤーキル(Player Killing、PK)が流行しない」(川口氏)からだ。

 言葉の説明になるが、オンラインゲームのスタイルにロールプレイングゲーム(RPG=Role-playing game=RPG)というものがある。ゲーム参加者がそれぞれに割り当てられたキャラクターを操作して、冒険や戦闘などを繰り返して目的を達成するもの。少数プレイヤー参加するオンラインRPGを「MORPG」、大規模人数が同時参加するオンラインRPGを「MMORPG」という。MMORPGで、他のプレイヤーを攻撃することを「プレイヤーキル」と呼んでいる。

 eスポーツも含め、欧米を中心に最も流行しているのが、このPKだ。このうち、自分が操作しているキャラクター(First-person)の視点で、ゲーム中で動いて戦うのがシューティングゲーム(FPS =First-person shooter)。実在の武器や戦場などを再現した「リアル系FPS」と称されるジャンルもある。

 このPKについて川口氏に解説してもらった。「早い話が血が出ないだけ。チーム対チームでの殺し合いだ。しかも相手を全滅させるゲームが欧米では中心になっている。2000年代前半のPCオンラインゲームでは、撃ち合い、殺し合いは日本だけが流行しなかった。特に1対1で殺し合うオンラインゲームは遠ざけられた。中国や韓国のオンラインゲーム関係者から『なんで日本人はPKが嫌いなんだ』と詰め寄られることもあった」

 川口氏によると、日本では▽コミック系に人気があり▽コミュニケーションを取りながら▽みんなで一緒に進もう――という形式が好まれるそうだ。ただ、それがPKを遠ざける要因になっているのかといえば、「はっきりしない」そうだ。日本でも世代交代が進み、2020年代になってきて、PKゲームも増えた。オンラインゲームでの「殺し合い」がオフラインの世界を刺激しないか。この懸念がいつの時代もつきまとう。

◇「リアル」を超える

 オンラインゲームを進化させるため、さまざまなテクノロジーが生み出され、より高い利便性を求めて模索が続く。その一つが先の章でも触れたメタバースだ。その状況を川口氏は次のように振り返る。

「メタバースといえば、3次元コンピュータグラフィックスで構成された『Second Life(セカンドライフ)』のような仮想空間のシステムがある。オンラインゲームにも同様に、多くの人が集まる街やフィールドなどの仮想空間がある」

 オンラインゲームでは、一つのサーバーで数百人、数万人が一緒にプレイするという形式があった。データのやり取りが速くなれば、よりリアルなゲームができるようになる。その空間の概念が切り離され、『メタバース』という形で進化していった。

 たとえば、球場に行かなくても、実際のように野球をプレイする感覚になるかもしれない。ゲームでは「リアル」を超える、われわれがそれまでに体験しえなかった世界が生み出されるかもしれない。「サッカーは11人対11人でプレーするのが基本だが、今後はオンライン上で『200人サッカー』も可能になるだろう。試合の方法・ルールを模索するうち、形を変えたeスポーツが生まれる可能性もある」加えて、手足を動かすデバイスの進化が見込まれるため、身体能力、年齢、性別に関係なく、そうしたオンラインゲーム内で高いパフォーマンスを発揮できるようになるかもしれない。体を動かさなくてもスポーツができるということになれば、障害者にも多様な機会が生まれる。実際、障害者のためのデバイスの開発が持ち上がり、さまざまな実証実験が進められている。

◇教育用シミュレーター

 韓国ではメタバースを使ったシミュレーションがさかんだ。手術から消防訓練まで、さまざまな場面を想定した訓練に転用されている。人間が入り、そこで移動するという仕組み――それはオンラインゲームから始まっている。

 川口氏によると、オランダでは10年ほど前から、社員教育などに「シリアスゲーム」(娯楽性だけでなく社会問題の解決を目的とするゲーム)を使う企業が増えている。日本でも「電車でGO」「フライトシミュレーター」が鉄道や航空各社の社員教育に使われ、上場前の企業が監査役にシミュレーションゲームを思わせるような試験を施すなどの例はあるという。ただ、「ゲーム」ということで、その仕組み自体が軽視され、普及は限定的だという。

◇AIによる代替

 オンラインゲームの製作を費用面で見てみる。川口氏によると、そのプロセスは▽プログラム▽グラフィック▽ゲームシナリオ進行▽音楽――などのセクションに分かれ、それぞれを統括するディレクターが配置される。各セクションの業務は、専門企業が独立して手掛けることになる。最も費用がかかるのは、プログラムとグラフィックだ。「デバイスの性能が向上すると、よりリアルなグラフィック制作が求められる。キャラクターの髪が風になびくとか……。ハリウッドの映画と全く同じだ。それがあるからこそ、没入感が生まれる。しかし、これまで以上に人手がかかる」

 製作費でみれば、「大作」と呼ばれるゲームがある。開発に30億円以上がかかり、プロモーションにも10億円以上を費やす。つまり、30億~40億円を投じなければ勝負できないという業界になっている。

「開発会社はプログラマーやグラフィックで多くの人材を抱えている。そのコストはプログラマー1人で月70万~80万円。数十人くらいかかえて製作することになるため、それだけで何十億円の経費になる」

 日本の映画製作の規模を飛び越し、ハリウッド映画並みの資金が求められる。川口氏は「世界展開する場合、そこまでかけないと、競合する海外のゲーム会社に勝てない」と考えている。

 一方で、オンラインゲームの製作現場でも、人工知能(AI)を活用した経費削減、効率化、低コスト化が多くの企業で検討されている。特に韓国ではAIを多用し、作画や色、アニメーションの作業を次々にAIで代替し、技術者を減らしているという。

 川口氏は「コスト軽減だけでなく、AIに任せた方が早く作り上げることができる。10億円、20億円といわれた大作も、半分ぐらいのコストできる可能性がある。そのうちオンラインゲームのプログラムの大部分もAIが作ってしまうかもしれない。事業活動の合理化を考えている経営者として最も関心のあるところ」と見通す。(おわり)(c)KOREA WAVE/AFPBB News|使用条件

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