6月12~14日の3日間、幕張メッセで開催されたInterop 2024は、今年で日本開催31年目を迎えるインターネット技術の展示会だ。
会場のインターネット環境構築を自らの手で
Interopでは、展示やカンファレンスのほか、会場全体のインターネット網を、参加各社と一般募集されたボランティアで構築する「ShowNet」という取り組みが行われていることをご存じだろうか?大規模なインターネットの構築技術を様々な立場の人が体験でき、結果が公開される取り組みだ。
1986年、カリフォルニアで開催されたTCP/IPのベンダーワークショップに端を発すこの取り組みでは、“I know it works because I saw it at interop(そのシステムが動くことは、インターロップで動いているところを見たからわかる)”をスローガンに、会場限定のインターネット接続を、ゼロから構築して会期後ゼロに戻す大規模な実験サービスを行っている。
今回も、出展各社からの参加と、公募で集まったエンジニア(コントリビューター)たちがボランティアで大規模なネットワークを構築した。ShowNet事務局は「最新のネットワーク技術・ネットワーク機器などを相互に接続し、『5年後、10年後に必要となるネットワークの姿』を示すというビジョンのもとに構築するコンセプトネットワーク」とその主旨を述べている。
ひとことで「インターネット」といっても、その範囲は毎年拡大している。無線接続、スマホ、リモートアクセス、負荷分散、セキュリティ、バックアップ……。下記のShowNetビデオ内で紹介されているように、今年は18のラックが並んだ。
Interop 2024ShowNetの紹介動画
ゼロから始まり、ゼロに戻す
Interop全体でShowNetが敷設したUTPケーブルは24.3km,光ファイバーは8kmに及ぶ。イベント2週間前の5月31日に何も無い状態から設営を開始し、6月12日~14日の3日間、出展各社から提供された約2300にのぼる最新の機器を用いて、2Tbpsのインターネット接続、リモート接続、インターネットによるテレビ放送サポートなどのサービスを提供した。これらをイベント終了後、数時間で撤収を完了させて通常の幕張メッセホールに戻す。
これらすべてが、全体を設計する31名のNOC(Network Operation Center)チームと、一般募集で集められ構築に協力する34名のSTM(ShowNet Team Member)、各ベンダーからの581名のコントリビュータの協力で実施されている。構築作業だけでなく、ドキュメントのまとめや広報活動含めたすべてを、有志で集まったチームが担当している。
ShowNetで構築されたネットワークは、インターネット技術に関心のある人たちのために公開されている。会場で見られるだけでなく、公式サイト(リンク)には概要をまとめた冊子や多くのYouTubeビデオへのリンクがあり、会期中には1時間ごとに全体を紹介するツアーが行われる。筆者もツアーに参加したが、毎回満員で、募集開始時にはいつも行列ができていた。
また対応しているスマートフィンは少ないが、会場ではWiFi7も提供されていた。筆者が中国で使っているHonor Magic V2は対応端末のため、WiFiが飛んでいるのを見ることができた。
会場内ツアー参加時に希望すると、会場内に期間限定で構築した5G基地局からのローカル5Gを体験できる。説明するスタッフのすぐそばで、撮影スタッフがスマホで撮影し、ツアーメンバーはインカムのほかに貸与された5G端末で説明をきき、拡大動画を見ることができる。筆者が試したところ、一部映像/音声が途切れるところはあったが、全体的には問題なく配信されていた。こうした実験的なサービスでも人目に触れる状態に持っていくことには大きな価値がある。
セキュリティ脅威の自動検出など最新の技術も
ShowNetは各ベンダーから提供される最新機器使った公開実証を行っている。最近話題のセキュリティについても様々な対策が行われている。
外部攻撃に対しては、脅威検出、DDoS攻撃検知、トラフィックアラートの可視化、ネットワークフォレンジックそれぞれで各ベンダーが機器を提供している。ネットワーク内にデコイ(侵入者向けの攻撃対象)を設けて、デコイを様々な製品で監視することで攻撃パターンを事前に検知し、深刻なものはオペレータに連絡して、本体が攻撃される前に設定を是正する。また、どの機器やOSに向けてどのような攻撃が行われたかも可視化しレポートする。
通信の暗号化についても、異なる機器を用いて、これまでの暗号化よりも複雑なPQC方式(量子コンピュータによる暗号解読にも耐えられる強度の暗号化)での相互接続実験を行うなど、様々な分野で実証を重ねている。
ShowNetは継承の場
音楽やビデオコンテンツなどがインターネットで配信されるのが当たり前になるなど、既存の通信・放送技術はインターネットに置きかわってきた。インターネットの果たす役割は年々大きくなり、不可欠なものになっている。
インターネット草創期は、なんでも自分でやる必要があったが、技術が高度化するに従って、分野ごとの専門化が進み、熟練者と初心者の垣根も高くなった。こうした現状では初心者が、大規模なネットワーク構築に関わる機会はあまりない。
そんな昨今においてShowNetは貴重な機会だ。各界から集められたNOCチームのベテランエンジニアと、一般公募されたSTMが2週間にわたって同じ場所で、一緒になって集中的に手を動かす。こうした機会が提供されることで、単なる知識だけでなく様々な経験も伝承されていく。
インターネットはボトムアップで構築されたシステムで、要素技術のほとんどは公開されており、分散型で民主的なものだ。発祥の地アメリカではもう行われなくなったという、ShowNetの大規模でボランタリーな取り組みが、日本では今も成立している。次の世代へインターネットとは何かを伝え、新しいエンジニアを育成していく視点からもこの取り組みは非常に大事で、今後も維持・拡大されていくことを期待したい。