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盛る必要なし メタバースを使った恋愛マッチングなら「内面を重視」に

株式会社Flamersの代表取締役CEO 佐藤航智氏(ロゴ画像提供:Flamers)

株式会社Flamersの代表取締役CEO 佐藤航智氏(ロゴ画像提供:Flamers)

 こども家庭庁が、10代から30代を対象に今年(2024年)7月に実施したアンケートによると、既婚者の出会いのきっかけは、マッチングアプリが最も多く約25%にのぼる。若い世代を中心にマッチングアプリの利用が進んでいることが伺える。

 しかし、マッチングアプリでは、顔写真や経済力、職業、学籍などの限られた情報から相手を探すことになる。このため、いわゆる“スペックが高い人”に人気が集中し、“盛った写真“を掲載するなど「素の自分」を隠そうとするユーザーが増え、結果としてマッチング率が低くなる。また、自分を偽り続けることで”マッチングアプリ疲れ”に陥るユーザーも少なくない。

 こうした中で、内面を重視し、アバターを使い顔出し無しで利用できるマッチングアプリが登場している。そのひとつが、2019年創業のスタートアップ、株式会社Flamers(東京都目黒区)が開発・提供しているメタバース・マッチングアプリ「Memotia(メモティア)」だ。

 同社の代表取締役CEOで、「Memotia」の発案者でもある佐藤航智(こうち)氏は、自身もメタバース空間でパートナーを見つけ結婚した経験を持つ。佐藤氏に「Memotia」の特徴や立ち上げの狙い、今後の展望などを聞いた。

「内面から始まる恋愛」を提供したい

「Memotia」は、アバターによる出会い・交流の場を提供する恋愛特化型メタバースだ。利用者は、自分で選んだアバターでメタバース空間に入り、マッチングを行う。

 利用の流れはこうだ。最初に、AIが推薦してくれた相手と30分間(2024年8月末時点での設定で近日中に変更予定)の“お試し”マッチングを行う。互いに「もう一度会いたい」と感じたら、次からは自分たちで「Memotia」内に用意されているメタバース空間で自由にデートを重ね、最終的にはリアルな場で会う。

「Memotia」の最大の特徴は、「外見や年収を気にせず、相手の内面を見ながら恋愛ができること」だと佐藤氏は強調する。

「Memotia」について説明する佐藤氏
「Memotia」について説明する佐藤氏

「既存のマッチングアプリは、相手の顔写真やプロフィールを見てメッセージを送り、実際に会う流れになっています。このため、モテる人に人気が集中しやすいので、皆が自分をよく見せようとしがちで、ギラギラした独特の雰囲気に疲れてしまう人もいます。一方、『Memotia』では、顔写真やプロフィールを提示する必要はありません。アバター同士で話してみて、『話していて楽しいな』『趣味が合うな』と感じたら次のステップに進みます。外見や年収ではなく、純粋に相手の内面を見つめながら恋愛を始められることが一番の特徴となっています」

 こうした特徴を有するため、「Memotia」のユーザーには「恋愛が得意な人」より「恋愛があまり得意ではなく、少しおとなしめな人」が多いという。

「例えば、既存のマッチングアプリを使ったけれど『独特の雰囲気に疲れてしまった』とか、そもそも『使う勇気が出ない』という人が、顔出しもなく、部屋からも気軽に参加できるということで、ハードル低く(『Memotia』を)利用してくれています」

メタバース空間がもたらす自己開示効果

 サービスを開始してから1年ほど経った時点で、運営側が把握しているだけで、婚約に至ったカップルが6組、お付き合いに至ったカップルは30組いるという。佐藤氏は、「Memotia」のユーザーの傾向として「結婚に至るカップルが多いこと」を挙げる。その理由として、「メタバースで一定期間、時間を過ごすことが大きな要因になっているのではないか」との持論を展開した。

「多くの方が、1.5カ月ほど『Memotia』のメタバース空間でデートを繰り返してからリアルで会っています。メタバースで過ごす間にお互いの内面をかなり深く知ることになります。そのうえで『リアルでも会いたい』となった場合、本質的には内面が合っている人同士なので、(リアルで会った後も)多くの人がお付き合いを続けており、結婚に至るケースも多いと考えられます」

 ではメタバース空間で過ごすことは、なぜ「内面を深く知ること」につながるのか。佐藤氏は、メタバース空間では「リアルで会うよりも話しやすい」感覚があるという。

「Memotia」では「間違い探し」「BBQ」などのイベントも楽しめる(画像提供:Flamers)
「Memotia」では「間違い探し」「BBQ」などのイベントも楽しめる(画像提供:Flamers)

「私の感覚では、アバターを使ってメタバースに入ることは、リアルな人間関係から切り離されるようで、海外旅行のような開放感があります。普段おとなしいけれど、旅行先ではじける人がいるように、アバターになると、素の自分や自然体で話せる人が多いように見受けられます。そうした自己開示しやすいメタバース空間でデートを繰り返すことが、互いの内面を深く知ることにつながっているのだと考えられます」

 実際に、東京都市大学などが行った共同研究でも「アバターを用いる方が自己開示につながりやすい」ことが示される。こうした自己開示の効果がマッチングに良い影響を与えているのかもしれない。

きっかけは自身の体験

「Memotia」はどのような経緯で開発されたのだろう。「Memotia」を開発する以前、Flamersではすでに長期インターンのマッチングサービスを展開していたが、佐藤氏はそれとは別の新たな事業の“タネ”を探していたという。その中で思い付いたのが、メタバース利用した恋愛マッチングサービスだ。

 もともと佐藤氏はVRに興味があり、VRChatを利用し、メタバース上で過ごすことを趣味にしていた。あるときVRChat内で女性と知り合った。そして、そのまま「お付き合いをし、結婚するに至った」のだ。

「私にとってそれは衝撃的な経験でした。それまで女性を好きになる際には、見た目が可愛いといった外見がきっかけになることがほとんどでした。しかし、妻とはメタバース上で、実際の外見がわからないアバター状態で付き合いました。純粋に互いの内面を知ることで、恋愛に発展することもあるのだと驚いたのです」

 その体験をもとに、VRChat内で恋愛マッチングイベントを企画・実施。すると、キャパシティの20倍という想定以上の応募があり、実際にイベントをきっかけに付き合う男女も現れたという。

 この経験から、メタバース上での恋愛マッチングサービスは「ありえる」のではないかと考えた。VRChat内で恋愛イベントを数回開催して実績を重ねたうえで、投資家から約1億円の資金を集め、「Memotia」(当初のサービス名は「Memoria(メモリア)」)の開発にこぎつけた。

「サービス開始時には、VRChatの恋愛イベントに参加してくれた仲間がこぞって利用してくれて、最初から熱量高く始めることができました。その後、パソコン版やスマートフォン版を開発して間口を広げたうえで、SNS上で広告を打ったことで、利用者の大幅な増加につながりました」

 現在、佐藤氏らは、京都市など自治体と連携し街コンを開催するほか、メタバース婚活の普及を推進する「メタバース婚活普及推進協会」を設立するなどして、サービスの認知拡大や利用者増に努めている。

 今後の成長戦略、資金需要については、「現在少額で広告を回しながら効果を検証中」であり、広告効果が出ると確信が持てた段階で「思い切りアクセルを踏む」ためにマーケティング資金を調達しようと考えていると話す。そのタイミングは「来年(2025年)の春夏頃になる」とのこと。

 さらにアバターの服装やメタバース・ワールド内でお金を使えるような仕組みも作りたいという。「例えば、(リアルな服を買う代わりに)メタバースの中でアバターの服を買って、その服でデートに行っていただくとか。そういったところに注力し、ユーザーの皆さんに、『Memotia』の世界をより楽しんでいただけるようにしていきたいと考えています」

 恋愛があまり得意でないという人にとって、出会いや交流の手段が広がることは大いに歓迎すべきことだろう。メタバース型マッチングアプリが今後どう普及するのか、その広がりを注視したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。