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誰でも自由に貸し切りバスを手配 貸し切りバスの「データプラットフォーム」をめざす

手配が煩雑な貸し切りバス(写真・画像はすべてワンダートランスポートテクノロジーズ提供)

手配が煩雑な貸し切りバス(写真・画像はすべてワンダートランスポートテクノロジーズ提供)

 鉄道や路線バス、タクシーなどは、予約システムや配車アプリが整備されている。一方で、貸し切りバスについては、利用者(需要側)とバス会社(供給側)を結びつけるプロセスは、依然として紙とFAXを駆使し、熟練担当者の勘と経験によって成り立っているのが現状だ。

 この分野にITテクノロジーを用いてデジタル変革をもたらそうと取り組んでいるのが、貸し切りバスのオンデマンドサービス「busket(バスケット)」を手がけるワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社(以下、WTT)だ。

貸し切りバス手配の煩雑さを解消するサービスを作る

代表取締役の西木戸秀和氏
代表取締役の西木戸秀和氏

 同社 代表取締役の西木戸秀和氏は、リクルートHR事業やデジタルマーケティング事業を経て、音楽領域、アート領域でのイベント開発支援などに携わってきた。音楽フェスなどに携わる中で「会場までの移動手段として交通問題に直面したことからこの事業をスタートした」と西木戸氏は話す。

「最初は大型車両としてのバスをもっと自由に動かせないか」という思いからのスタートだった。しかし、イベント主催者がバスを手配して、イベント参加者からお金を取る行為は、旅行業法の規制があり、旅行業者にのみ許されている。

 また、貸し切りバス手配のプロセスの煩雑さも、利用者側のネックとなっていた。バス会社に予約して、人数、行程を伝え、旅行保険への加入や料金の支払い(決済)など「細かい連絡をしなければならないため、そのフロントに立つのが大変」(西木戸氏)。さらに、運転手の長時間労働の是正も社会問題化していた。

 こうした状況に鑑みるに、需要者と供給者のニーズをマッチングして、スムーズに予約、決済できるサービスが必要では──。これが事業創造の起点となった。

需要・供給どちらの「面倒」もデジタルで解消する「busket」

「busket」は、従来からある貸し切りバスの一括見積もりとは異なり、即時見積もり・発注が可能なサービスだ。想定利用者は「10席以上のバスに特化して、従業員の送迎やスクールバス、観光・スポーツ、商業・イベントといったユースケース」だと西木戸氏は話す。

 たとえば、物流拠点で働く従業員に対して、「5人、10人といった従業員で専用の貸し切り送迎バスを手配すると採算が合わない。近隣の事業者と乗り合いは、旅行業の規制でできない。こういった課題を抱える事業者に対して、複数法人でバスをシェアリングする仕組みを提供する」ことや、空港に到着した外国人旅行者が「10人程度で乗車可能なバスを手配するには、これまでは1ヶ月前などの事前予約が必要だったものを、即時予約で近くの車庫にあるバスを手配する」といったニーズに対応する。

 また、最近ではスポーツクラブが、学校の水泳授業を受託することがある。そうした場合の学校とプールのある施設をつなぐ送迎バスとして貸し切りバスが利用される。さらに、企業の展示会や工場視察などで旅行会社が利用するケースも増えているという。

 発注者と受注者間の発注から決済に至る事務手続きをbusket側ですべて引き取り、両者の負担軽減、スムーズな案件マッチングを実現することで、貸し切りバス乗車の自由度を高める機会創出に重点的に取り組んでいる。

「busket」が提供する解決策
「busket」が提供する解決策

3つのサービスメニューで法人顧客の取り込みに注力

 西木戸氏に現在、同社が提供する3つのサービスメニューの内容を聞いた。

「バスマッチングサービス」は、全国どこでも、貸し切りバスのマッチングができるサービスだ。ユーザーが出発地と出発日時を設定すると、「バックエンドにあるリストから、該当する車庫をマッチングし、概算料金を提示するもの」と西木戸氏は話す。

「ツアー販売サービス」は、イベント主催者等が考案したツアー旅行の「持ち込み」が可能になるサービスだ。イベント主催者が自身で貸し切りバスを手配しようとすると、前述したように旅行業法の規制を受ける。そこでイベント主催者は自らのツアー計画をWTTに持ち込む。WTTではその依頼を受けて、計画に合わせた貸し切りバスをbusketで手配する。それをイベントとセットにするとイベント会場への交通手段がついたツアーが出来上がる。この場合、旅行業法上の企画・主催はWTTになる。

「従業員送迎向け乗車予約・管理ツール」については、現状、貸し切りバスは受付や位置情報のツールがまだ発展していないことから、発券・乗車チェックイン機能を提供している。そして、その中で副次的な機能として、「スポーツクラブの合宿などの送迎で、子供たちが乗車したバスの現在地を、ログインすれば閲覧可能にするツール」として切り出して提供している。

 現在、busketに参加しているバス会社は585事業者で、「全国幅広くカバーしている状態だ」(西木戸氏)ということだ。

「busket」のサービスメニュー
「busket」のサービスメニュー

プラットフォーム化に立ちはだかる「在庫の変動」という難しさ

 一方でサービス展開には課題もある。busketが予約プラットフォームとしてさらに成長していくためには「在庫の変動可能性」という難しい壁が存在すると西木戸氏は話した。

「ホテル予約であれば、日付と空き部屋で予約のマッチングがしやすいし、データも統合しやすいのですが、バスの場合は、出発地と目的地、それに出発時刻とあらゆる組み合わせが存在し、その背後にはドライバーさんの労務が存在するため、日々“在庫”が変動するのですね」(西木戸氏)。

 それで、熟練の運行管理者が、紙とペンと携帯電話で緻密なやり取りをしながら配車を行う「人間の処理能力に依存した仕組みが最善」と思われてきたのだが、「バス会社の運行管理者の業務負担をbusketで省力化する」ことで、サービスの地歩を固めているところだ。

 現在は、busketの顧客である旅行会社やバス会社などの業務オペレーションはなるべく変えずに、「アナログベースで進める業務プロセスの省力化、業務負荷軽減をサポートしていくことに軸足を置いてサービス展開している段階だ」と西木戸氏は説明した。

「データ標準化」にも取り組みIPOをめざす

 西木戸氏によると「現状、サービスの趣旨に賛同して参画してくれるバス会社、法人顧客の地盤固めの段階」にあり、現在の事業フェーズを「フェーズ1にある」とする。

 この先の目標は、貸し切りバスだけでなく周辺事業者も統合、連携した「バスのデータプラットフォームになる」ことだ。そのためには、まずは貸し切りバス業界全体で標準化された行程表などのデータ基準、オペレーションのフォーマットの統一が欠かせない。

 西木戸氏は、データ標準化に向けたコンソーシアムを立ち上げたいと抱負を述べる。「我々は特定の事業者の色に持たない中立的な立場として、地方の地盤を担う有力バス会社などにも積極的に声かけを行っていきたい」ということだ。

 そして、2027年には、売上150億円、120名規模に組織を拡大させ、「それをスタートラインとし、IPOをめざしていく」と締めくくった。同社がめざす「移動で世界の自由度を高める」というミッションが実現されることに期待したい。

Written by
阿部欽一 「キットフック」の屋号で活動するフリーランスのライター/ディレクター。社内報編集、編集プロダクション等を経て2008年より現職。「難しいことをカンタンに」伝えることを信条に、「ITソリューション」「セキュリティ」「マーケティング」などをテーマにした解説記事やインタビュー記事等の執筆のほか、動画やクイズ形式の学習コンテンツ、マンガやアニメーションを使ったプロモーションコンテンツなどを企画から制作までワンストップで多数プロデュースしています。