【AFP=時事】地球上で最も乾燥した場所とされるチリのアタカマ砂漠。夕暮れの塩原(えんげん)では、リチウムの濃度を測定するため、掘削機で塩水を抽出する作業が行われていた。
世界的なクリーンエネルギーへの移行に伴い、リチウムは欠かせない鉱物となっている。地球温暖化を抑制するために各国が化石燃料からの脱却を図る中、近年では電気自動車(EV)のバッテリー用の需要が大幅拡大している。
一方で、環境問題の専門家からは、アタカマ砂漠での掘削が地域の脆弱(ぜいじゃく)な生態系に及ぼす悪影響を懸念する声が上がっている。
アタカマ砂漠には、チリ最大のリチウム鉱床がある。埋蔵量の多さから、チリにアルゼンチンとボリビアを加え、南米の「リチウム・トライアングル」と呼ばれている。中でもチリは、2016年にオーストラリアに抜かれた「リチウム生産世界1位」の座の奪還を目指している。
アルトアンディノス砂漠地帯にある標高3400メートルのアギラール塩原と、4400メートルのラ・イスラ塩原では、塩水のサンプルを抽出する作業が急ピッチで進められていた。サンプルは、リチウム含有量を測定するため、研究所に送られる。
チリの国営鉱山会社ENAMIのエグゼクティブバイスプレジデント、イバン・ムリナルツ氏は「昼夜を問わず掘削を続けている」と説明した。同社はアギラール塩原とラ・イスラ塩原、さらにグランデ塩原で、年間6万トンのリチウムの採掘を見込んでいる。チリでのリチウム生産は、塩原の下からくみ上げた塩水を池やプールで蒸発させ、リチウムを濃縮する方法が採られている。
しかし専門家は、地球上で最も乾燥した場所の一つであるこの地で大量の水が失われることで、数種の動植物が危険にさらされていると指摘する。
リチウムの採掘は、先住民コジャの約2万人の生活も脅かしている。地域の水源が縮小しているため、昔から牧畜業を営んできたコジャの人々は山から都市部への移住を余儀なくされ、家畜の世話も自立もできなくなっている。
「塩原が干上がれば、雨も雪も降らなくなり、生物多様性も後退する」と、コジャの代表を務めるクリストフェル・カスティジョ氏(25)はAFPに話した。「私たちに残されているわずかな生物多様性も完全に失われてしまう」 【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件