【AFP=時事】脳の特定の領域に電気刺激を与えることで、脊髄を損傷した患者の歩行が改善する可能性があるとする研究論文が2日、学術誌ネイチャー・メディシンに発表された。研究を行ったスイスのチームはこれまでにも、脊髄への電気刺激を用いて、複数のまひ患者の歩行を回復するなどの研究を先導してきた。
新技術は、脳と脊髄の神経経路が完全に遮断されておらず、足をいくらか動かせる脊髄損傷患者を対象としている。
研究チームは今回、脊髄損傷からの回復に最も関与している脳の領域を特定するために、3Dイメージング技術を用いて脊髄を損傷したマウスの脳活動をマッピングし、「全脳アトラス(全脳地図)」と呼ばれるものを作製。探していた領域が、覚醒や摂食、動機付けの調整を担う視床下部外側野にあることを新たに発見した。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校の神経科学者グレゴワール・クルティーヌ氏は、この領域の特定のニューロン群が「脊髄損傷後の歩行回復に関与していると思われる」とAFPに語った。次にチームは、パーキンソン病患者の運動障害の治療法として一般的な脳深部刺激療法(DBS)を用い、これらのニューロンからの信号を増幅しようと試みた。
これは脳の該当する領域に電極を埋め込み、それを患者の胸に埋め込まれた装置に接続する手術を伴う。装置を起動すると、電気パルスが脳に送られる。
ラットとマウスを用いた検証では「即座に」歩行能力が改善されたという。神経外科医のジョセリン・ブロッホ氏によると、2022年に最初に被験者となった女性患者は、装置のスイッチが入った途端に「足を感じる」と語った。
初期試験に参加したもう1人の患者、ウォルフガング・イェーガーさん(54)もすぐに「大きな違い」があったと述べた。イェーガーさんは論文と同時に公開された動画で「今では数段の階段を見ても、自分で対処できるとわかる」と語った。装置がオンになると「階段の上り下りが問題なくできた」と言う。さらに使用を重ねるにつれ、歩行が「速くなり」、装置がオフのときでも「長く歩けるようになった」と話した。
しかし、神経科学者のクルティーヌ氏は、今後さらなる研究が必要だとし、この技術がすべての患者に有効とは限らないと強調した。研究チームは、将来的に脊髄損傷からの回復には、脊髄と視床下部外側野の両方を刺激することが最良の選択肢となる可能性があるとしている。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件