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地域や社会の課題解決を目指すスタートアップが集結〜Open Network Lab HOKKAIDO 7th Batch DemoDay

審査員と登壇者の面々

審査員と登壇者の面々

「Open Network Lab HOKKAIDO 7th Batch DemoDay」(主催:株式会社D2 Garage 以下、オンラボ北海道)が、札幌市中央区の札幌市民交流プラザ・クリエイティブスタジオで12月10日に開催された。

 明治期に開拓者が集った北海道は、その苦労の記憶が残るためか安定志向が強く、起業が盛んな土地柄とは言えなかった。そこで起業家の芽を見つけ、それを育てようと2018年に始まったのがオンラボ北海道だ。地元企業のサポートを得ながら、回を重ねて今回で7度目となった。約5ヶ月間の育成プログラムを経て迎えたこの日は、地域や社会課題の解決に挑む5チームが登壇し、各々の取り組みについてピッチを行った。

持続可能な地域づくり支援

 最初に登壇したのは、北海道の中央部、大雪山の麓に位置する東川町に本社を構えるRamps株式会社のCFO道上雅大氏だ。同社が運営する「ensembles(アンサンブルズ)」では、持続可能な地域づくりを支援するための活動やイベントを実施する。東川町は地方の自治体には珍しく、人口が30年連続で増加している。道上氏によると東川町は、過密でも過疎でもない「適疎(てきそ)」な状態にあるという。この適疎状態が暮らしやすさを生んでいる。同社の取り組みは、この適疎な状態が、今後過疎に至らないよう、東川町以外にもいろいろな地域につながりをもっている関係人口を増やし、そこから新しい力を呼び込む仕組みを作ることだ。そのための仕組みの一つが宿泊予約システム「tomarin」で、これによって宿泊者のデータを特定の施設が占有するのではなく、東川町を訪れた関係人口の動向を分析し、事業者間でより有効に活用することを目指している。関係人口の創出、誘致、さらには訪問客向けのイベントなどトータルで手掛ける同社ならではの地域戦略だ。

Ramps株式会社のCFO道上雅大氏
Ramps株式会社のCFO道上雅大氏

訪日観光客向けの託児サービス

 続いて登壇したのが株式会社Simpleeの代表取締役 諏訪実奈未氏だ。同社が展開する「Simplee(シンプリー)」のターゲットは、年間3000万人を超える規模になった訪日観光客だ。その中には「30%〜40%のファミリー層が含まれる」という。子どもを連れ来日したものの、体験型の観光やビジネス活動の時間帯は子どもと一緒というわけにはいかない。母国なら気軽に利用できる託児制度があるかもしれないが、来日時にはそれがない。そこで役立つのが、訪日観光客向けの託児ITソリューション「Simplee」だ。アプリからの多言語対応予約、決済システムにより、訪日観光客が簡単に利用できる。 ユニークなのは、託児中の子どもを対象に、日本文化のキッズプログラムを提供しており、そこで日本文化に触れる体験ができ、親子共に日本滞在を楽しめるようになっている。

 今まであまりケアされていなかったのが不思議なほどの訪日観光客の託児問題。先鞭をつけ、世界最大のITトラベルケア企業を目指すという諏訪氏の意気込みも高く評価され、今回の最優秀賞「Best Team Award」を獲得した。

株式会社Simpleeの代表取締役 諏訪実奈未氏
株式会社Simpleeの代表取締役 諏訪実奈未氏

夫婦起業で乗り越える越境物流の壁

 3番目に登壇したのはPetrichor株式会社CEO芦澤望氏と同社CTOであるDaniel Dyrnes氏だ。2人は夫婦で、Dyrnes氏はノルウェー出身。ノルウェーの実家宛に日本の様々な産品をプレゼントとして届ける機会が多いのだが、その際に手間がかかるのが越境宅配のための関税や書類記入などの事務処理だ。そもそも、貿易に関する条約や申告手続きが、個人や小規模の事業者が国境を超え、モノを送るということを前提にしていないため必要な情報が整理されておらず、専門業者以外には極めてわかりにくくなっている。手続きが面倒なだけでなく、書類の不備などで荷物が相手に届かないこともしばしばだという。

 関税の申告書は、すべての商品について原産国、数量などを記入し、さらに、約9000もあるHSコードの中からその商品に該当する番号を探し出し、記入するなど煩雑極まりない。そこで同社が開発したのが、中小規模の越境ECツールとして国際発送を支援するサービス「Ship Mate(シップメイト)」だ。送付する商品名入力をすればHSコードは自動生成される。国によっては送付できない商品があるが、それらについては送付先の国を入力すれば自動判別し除外してくれる。さらに関税に係る計算、送料なども勘案して、複数ある宅配業者から最適な配送方法を提案してくれる。

 利用者としては、中小の越境EC事業者や個人だけではなく、訪日観光客も視野に入れているという。現在は、旅行中に日本で購入したものを越境宅配で海外の自宅に送りたいと思っても、滞在中に個人で手続きを完結するのは難しい。「Ship Mate」を店舗販売と組み合わせ、店での購入と国際配送をセットにできれば、スーツケースに詰め込める以上のショッピングが可能になる。EC以外にも用途は広がりそうだ。

Petrichor株式会社CEO芦澤望氏とCTOであるDaniel Dyrnes氏
Petrichor株式会社CEO芦澤望氏とCTOであるDaniel Dyrnes氏

お酒に関わる情報の一元管理

 FERM株式会社の代表取締役CEO藤原敬弘氏はじめ主要メンバーは、新潟県の佐渡島でクラフトビールをつくってきた。その経験を通して、自ら必要との感じたのが、酒蔵・酒屋、飲食店のお酒に関わる情報の一元管理を支援するサービスだ。小規模なワイナリー、クラフトビールやクラフトジンなどを醸造する施設は日本でも増えてきている。こうした小規模生産の酒類を流通・販売するには、製造元はもちろん小売、飲食店も受発注や在庫管理に何種類ものシステムやアプリを使い分ける必要がある。その状況をこの日のピッチでは藤原氏が「デジタル化の弊害」といっていたが、まさに個別DXが進んだことで発生したこの煩雑さを同社が開発したスマホアプリ「FERM(ファーム)」は情報の一元管理で解決してくれる。利用料は月額5000円から。新規に創業した事業者には1年間の無償利用提供も行っている。「ローカルの小さな商いを応援する。そのために起業したのがFERM株式会社です」と、藤原氏はピッチを締めくくった。

FERM株式会社の代表取締役CEO藤原敬弘氏
FERM株式会社の代表取締役CEO藤原敬弘氏

スタートアップ投資管理のプラットフォーム

 最後に登壇したのは、ファンドキー株式会社の代表取締役CEO坂入翔一朗氏だ。同社は、VCなどからファンド管理業務代行サービスを請け負う。今後日本でスタートアップへの投資が増えるということは、VCやCVCのファンド組成の規模や件数が増えるということだ。ファンド運営者にはファンドごとに書類作成や届け出業務など事務作業が必要となり、バックオフィスの業務が重くのしかかる。事務作業をする時間のために、出資者や投資先とのコミュニケーションの時間が削られてしまっては、本末転倒だ。ファンド運営者をそうした事務作業から解放し、本業に集中できる環境を作るのが同社のミッションだ。

 CEO坂入氏を含め、創業メンバーの3人は経験豊富な公認会計士。スタートアップ・エコシステムの基盤には、本来こういった役割を果たす企業が必要で、同社の活躍の余地はすでに十分にある。また、北海道・札幌市は今年6月にGX金融・資産運用特区に指定されており、今後投資家の集積も期待されるため、今回の札幌での登壇は、投資管理のプラットフォームを目指す同社にとっては絶好のお目見えの機会になったはずだ。

ファンドキー株式会社の代表取締役CEO坂入翔一朗氏
ファンドキー株式会社の代表取締役CEO坂入翔一朗氏

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 ピッチ終了後の審査の結果、国際発送を支援するサービスを提供するPetrichor株式会社が、観客の投票による「Audience Award」を受賞した。また、最優秀賞「Best Team Award」は、訪日観光客向けの託児サービスを提供する株式会社Simplee受賞。さらに今回はオンラボ北海道に協賛する企業からも協賛社賞の提供があり、株式会社日本M&AセンターからはFERM株式会社。株式会社H B AはPetrichor株式会社に。そして株式会社サッポロドラッグストアーからは株式会社Simpleeにそれぞれ協賛社賞が授与された。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。