【AFP=時事】英国で、生身の教師不在で人工知能(AI)によって学習指導を行う初の試みが行われている。専門家は「異質な存在」であるAIを教育に導入する政府の取り組みについて、潜在的な利点とリスクを示していると指摘している。
ロンドン中心部にある私立学校デービッド・ゲーム・カレッジでは、16歳の生徒が受ける義務教育修了時の全国統一試験(GCSE)の主要科目をAIプラットフォームで指導するシステムが6か月近く前から試験的に導入されている。
共同校長のジョン・ダルトン氏は「AIによって授業も教育も変わっていく。これは間違いないし、AIがすたれることもない」と述べ、「速やかに採用」するべきだと主張した。
同校ではAIシステムが生徒の教材への反応を「モニタリング」し、「学習習慣に関する情報を学校側にフィードバック」するために活用されている。
キア・スターマー首相は今月、英国を「AI超大国」にする方針を表明。AIは授業計画の立案や添削にも役立ち得るとの考えに基づき、政府主導の下で、ナショナル・カリキュラムに沿ったAIティーチングアシスタント「Aila」が開発された。
デービッド・ゲーム・カレッジで教師の代わりに用意されているのは、生身の「学習コーチ」だ。教員資格はあるが、必ずしも対象科目の内容を把握しているわけではなく、AIシステムを使って生徒を指導する他、ディベートや金融リテラシーなどのソフトスキルも指導する。
試験的に導入されているこのプログラムには現在7人の生徒が参加。予定ではコーチ1人が配置される。プログラムの導入については「思い切った決断」が必要だったとダルトン氏は認めた。生物教師でもあるダルトン氏は、AIプラットフォームを使えば「平均的な教師よりはるかに高い精度で」生徒の知識を評価し、より個別化された指導が可能になるとAFPに説明。「AIは教師を補い、役割そのものも変えるだろう」と話した。
■生徒は歓迎
一方、教育へのAI導入を研究しているユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのローズ・ラッキン教授は、「異質な存在」のAI導入で英国教育の未来がどうなっていくかは不透明だと主張する。
AIによって教師の役割が変わっていくという点には同意しつつも、今後、教師の役割がどのようなものになっていくか予測するのは「不可能」だと指摘。「過度に否定的にはなりたくないが。試してみなければ、AIがどんな働きをするかは分からない」とAFPに語った。
デービッド・ゲーム・カレッジで、コンピュータを前にして回転椅子に座っていた女子生徒の一人(15)は、AI学習を支持する考えを示した。「最初は不安だったけれど、実際にずっと使っていると、成果を目にできる」昔ながら従来の教室が懐かしく思うことはないかとの質問には「そうでもない」と答え、むしろ教室という概念に対して「センチメンタルに」こだわり過ぎているのではないかと付け加えた。「ちゃんと勉強したいと思うなら、こっち(AI学習)の方がずっと効率的」だと続けた。
■「誰でも公平にアクセスできる環境にはない」
英国の二大教員組合の一つ、全英教員組合(NEU)は先週、「政府がデジタルツールの活用について教師の研修を重視している点を評価する」と表明した。一方で、NEU代表のダニエル・ケベデ氏は、政府がこうした目標を打ち出すなら「各学校のテクノロジーとITインフラに大規模な投資を行う」必要があると警告した。
ラッキン氏も、「こうしたAI教師がどれほど効果的か」は疑問だとし、試験的なプログラムでAIが生徒らにどれほどプラス、あるいはマイナスの影響を与えているかについて「確固たる証拠」を示してほしいと主張。さらに、生徒らが他者と接することで得られる「社会的学習の時間をしっかり」持てているかどうかについても懸念を示した。
この問題についてデービッド・ゲーム・カレッジ側は、クラスメートと過ごす時間は十分にあると説明している。ダルトン校長は、AIプログラムにより生徒の知識の偏りを特定しやすいと主張する。
だが、同校のAIプログラムの年間受講料は2万7000ポンド(約520万円)と高額だ。英国の平均的な私立学校の年間授業料を1万ポンド(約190万円)も上回る。
このAIプログラムのモデルは「エリート」用だとラッキン氏は主張する。さらに同氏は、テクノロジーやデータのインフラに誰でも公平にアクセスできる環境にはない点についても懸念を示した。
デービッド・ゲーム・カレッジがうたっている「コーチによる個別サポートの手厚さ」も「どこでも再現できるわけではない」と指摘。「こうした実例から学ぶ必要はあるが、これがあらゆる人の未来を示しているとは思わない」と述べた。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件