【東方新報】「浮脈は押さえると弱く、軽く触れると強い」「滑脈は真珠が転がるような感触」「渋脈は竹を削る刃物のようにざらつく」――。こうした脈の状態は、言葉だけではなかなか理解しにくい。しかし、人工知能(AI)を活用することで、患者の脈の状態が画面上に可視化され、さらにAIが分析して、中国医学と西洋医学を組み合わせた個別の健康管理プランを提供できるようになった。
広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)にある健康診断センター「美年健康」では、中医AI健診が導入されている。ここでは、伝統的な中国医学(中医)の診察と並行して、AIによる診断が行われ、診断結果をもとに中医の専門家が補完・検証する仕組みになっている。特に中高年層の患者が多く、AIによる可視化が診断の理解を助けている。
舌診、顔診、脈診は中医学における重要な診断方法だが、患者にとっては抽象的で分かりにくいことが多い。美年健康の「中医四診AI診断システム」は、患者の脈の状態をリアルタイムで可視化し、画面上に表示することで、より分かりやすい診断を可能にしている。
診断には、舌診・顔診用の「望診機」と、脈診用の「脈診機」が使われる。望診機はカメラを内蔵し、舌や顔の情報を取得する。脈診機には脈拍センサーが搭載され、患者の脈の特性を検出する。「中医四診AI診断システム」は、12以上の専門分野、数百人の中医専門家による医学知識グラフを活用している。さらに、AI技術には華為技術(ファーウェイ、Huawei)のクラウド技術が採用されており、高精度な診断が可能になっている。
脈診では、患者が腕を脈診機に置き、加圧された状態で脈拍が測定される。測定は1〜2分間行われ、抽象的な脈の動きが波形データとして画面に表示される。浮脈、沈脈、長脈など27種類の脈象を識別し、それぞれ左右の手で異なる特徴を判別できる。
AIは脈のリズムや強さ、波形の特徴を数学モデルで解析し、脈象を標準化・デジタル化する。例えば、脈の跳動頻度やリズムの乱れを分析し、正常な脈象と異常な脈象を識別する。また、舌診・顔診では、舌の色、顔の肌ツヤ、瞳孔の大きさなどを分析し、健康状態を推測する。
AIは、こうした中医学の診断と西洋医学の健診データを組み合わせ、個別の健康管理プランを提供する。診療ガイドラインの提案、中医食養(食事療法)、現代栄養学に基づいたアドバイスなどが含まれ、より総合的な健康管理が可能になった。
AIと医療の融合は、近年加速している。中国政府は、AI、クラウドコンピューティング、5Gなどの技術を医療分野に統合する方針を打ち出しており、医療機関でもAI活用が進んでいる。
美年健康の広州都市圏総経理・劉輝(Liu Hui)氏は、「AIは企業の効率向上や製品革新に不可欠なツールであり、企業成長の基盤となる」と述べる。
現在の中医AI健診は、伝統的な診療を補完する役割を果たしており、完全に代替するものではない。しかし、AIを活用することで診断の客観性が向上し、精度が高まるだけでなく、診断プロセスの効率も大幅に向上している。
AIの導入によるコスト削減も進んでいる。データ収集の自動化、診断支援システムの導入により、診察時間の短縮や人的リソースの最適化が可能になった。
中国では高齢化が進み、「銀髪経済(シルバーエコノミー)」の市場規模が急速に拡大している。2024年の時点で市場規模は7.1兆元(約152兆円)に達し、2028年には12.3兆元(約263兆円)に成長すると予測されている。
この市場ニーズに応え、美年健康では中高年向けの健康管理製品やプログラムを開発している。例えば、減量プログラム、睡眠改善、中医療法、腸内環境調整などが提供されており、今後さらに高齢者向けのサービスを拡充する予定だ。
AIを活用した中医健診は、今後ますます普及し、個別化・精密化された健康管理の新たな潮流となるだろう。【翻訳編集】東方新報/AFPBB News|使用条件