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AIの進出は自動車・医療・セキュリティから文学まで〜【三里河中国経済観察】DeepSeekが世界席巻 中国が拓くAI新時代

2024年デジタルテクノロジーエコシステム大会の会場(2024年12月3日撮影、資料写真)。(c)CNS:陳楚紅

2024年デジタルテクノロジーエコシステム大会の会場(2024年12月3日撮影、資料写真)。(c)CNS:陳楚紅

【CNS】中国外交部の林剣(Lin Jian)報道官は7日、習近平(Xi Jinping)国家主席の特別代表として、中共中央政治局委員であり国務院の張国清(Zheng Guoqing)副総理が、9日から12日までフランスで開催される「人工知能(AI)アクションサミット」に出席すると発表した。

 このサミットは、中国のオープンソースAI大規模モデル「深度求索(DeepSeek)」が世界的に注目される中で開催される。DeepSeekの台頭により、中国のイノベーション能力が改めて世界に認識されることとなった。

 中国科学技術大学(University of Science and Technology of China)の教授であり、中国人工知能学会の人工知能倫理・ガバナンス委員会の主任を務める陳小平(Chen Xiaoping)氏は、「DeepSeekの登場は、中国のAI工学における革新が新たな段階に達したことを示している。これまでのAI技術とは異なり、DeepSeekの革新性が世界中のAI研究者から注目され、再現され、認められている点が特筆すべきだ」と指摘する。

 DeepSeekは「トレーニングコスト1/18、開発チームの規模1/10、それでいてトップレベルのAIと並ぶ性能」を実現し、シリコンバレーの技術界に衝撃を与えた。

 陳小平氏は、これまでのAIモデル開発はオープンソースからクローズドソースへと移行し、そのコストも高騰し続けていたと説明する。一方、DeepSeekが示した「低コスト+オープンソース」のアプローチは、新たな可能性をもたらし、世界のAI発展の構図を変えるものであり、中国がAI分野において世界に提供する重要な貢献の一つだという。

 また、面壁智能(Model Best)の最高科学者であり、清華大学(Tsinghua University)コンピュータサイエンス・テクノロジー学部の劉知遠(Liu Zhiyuan)副教授は、「DeepSeekは、限られた計算資源の中で優れたアルゴリズム革新により、計算力の制約を突破した。これにより、膨大な計算力を持たずとも世界トップクラスのAIモデルを開発できる可能性を示した」と評価する。

 こうした中国のAI技術の躍進は、国家としての戦略的な支援と投資があってこそ実現された。2024年には、「人工知能+(AI+)」という構想が初めて政府活動報告に記載され、年末の中央経済工作会議では「AI+」を具体的に推進し、未来産業を育成する方針が示された。

 また、2023年10月には、習近平国家主席が「グローバル人工知能ガバナンス構想」を発表し、AIの未来について中国独自の視点を提示した。

 中国のAI技術は世界のトップレベルに並びつつあり、さらに次の段階へと加速している。AIは今、多くの産業分野でエコシステムを再構築しつつある。海外メディアは、「DeepSeekのオープンソース化によって、AI技術の門戸が広がり、今後コストが大幅に下がることで、さまざまな業界でのAI活用と革新が一気に進むだろう」と予測する。

 陳小平氏は、中国の次なるAIの課題として、「産業への大規模なAI導入をいかに実現するか」が鍵になると指摘する。中国の高品質な経済成長には、AI技術の活用が不可欠であり、DeepSeekの「低コスト+オープンソース」のアプローチが、その推進力となる可能性が高い。

 例えば、自動車産業では、AIの導入が不可逆的なトレンドとなっている。小鵬汽車(XPeng)の何小鵬(He Xiaopeng)董事長兼CEOは、「今後10年でAIは自動車産業に大きな変革をもたらし、ハードウェアやソフトウェアの進化を加速させるだろう。将来的には、自動運転技術が一部の高級車に限らず、より多くの消費者にとって標準装備となる」と語る。

 また、オンライン文学の分野では、作家がAIを活用して文章を洗練させることが可能になった。中国最大のオンライン文学プラットフォームである閲文集団(China Literature)では、DeepSeek-R1モデルを導入し、作品のプロット展開やストーリーの流れを補助するシステムを開発している。

 医療分野では、中国国内の約1万5000の医療機関が「千帆(Qianfan)」と呼ばれる大規模AIモデルを導入し、診断書の自動生成を可能にした。これにより、医師の診察効率が45〜50%向上したという。 また、安全分野では、インターネット・モバイル分野で中国有数のセキュリティ製品・サービスプロバイダの「360」のAIモデルが企業のセキュリティ監視システムに活用され、1日あたり1000件以上の警告を自動分析し、その精度は85パーセント以上に達している。

 劉知遠氏は、「たとえシンプルな装備しかなくとも、私たちは大きな成果を上げることができる。人類は今、極めて重要かつ歴史的なAI革命の時代に突入しようとしている」と述べる。

 一方で、陳小平氏は、「AIの産業応用が進む中で、AIガバナンスの強化も同時に求められる。また、大規模モデルと生成AIの基礎研究をさらに重視すべきだ」と指摘する。

 中国は現在、DeepSeekをはじめとする革新技術を基盤とし、AI発展の新たなパラダイムを世界に向けて打ち立てようとしている。【翻訳編集】CNS/AFPBB News|使用条件