
2025年国際博覧会(大阪・関西万博)がいよいよ来週13日(日)に開幕する。万博は近未来の技術やコンセプトを紹介する場でもあるので、当媒体の読者も興味があるのではないだろうか。4月2日に人材サービス大手パソナグループのパビリオン「PASONA NATUREVERSE」を内覧する機会があったので、その模様や万博会場の様子を少しお伝えしたい。
万博会場にはメインゲートが2つある。地下鉄舞洲駅があるのは東ゲート。主にシャトルバスで到着するのは西ゲートになる。西ゲートを入り、左手に見える大屋根リングを目指して歩くと正面にミャクミャク、左にガンダム、そして右側には屋根に鉄腕アトムがちょこんと座ったパビリオンがある。これがパソナのグループの「PASONA NATUREVERSE」だ。
完成披露内覧会のオープニングはこのアンモナイト形状を模した建物の前で行われた。
パビリオンのコンセプトは「いのち、ありがとう」。パビリオン内は「からだ:医療/食」、「こころ:生きがい/思いやり」、「きずな:働く/互助」の3つのエリアに分類されている。
ここでの注目展示は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)で作製した「iPS心臓」だ。
ご存知のようにiPS細胞は、2006年に京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めて作製に成功した。iPS細胞は、皮膚や髪の毛から脳や心臓まで人の身体のいろいろな生体組織に変化でき、再生医療を飛躍的に進化させることが期待されている。すでに目の角膜の再生に利用されるなど実用例もある。心臓に関して言えば、2020年に大阪大学名誉教授の澤芳樹氏が最高技術責任者を務めるクオリプス株式会社が、心臓に移植することができるiPS心筋細胞シートの開発に成功している。
今回展示されている「iPS心臓」はその心筋細胞シートを活用し、小さな心臓のような形を作り出している。本物の心臓のように血液を循環させる機能は持たないが、培養液の中で小さく拍動する様子を見ることができる。澤氏は完成披露の挨拶の中で「動いている心臓は、私のような心臓外科医以外は見ることがないので、動いている姿を見て命を感じてほしい」と話した。
このパソナグループのパビリオン内には、他にも当媒体の読者の興味を引きそうなものがいくつかある。
パビリオンに入ると最初にある「生命進化の樹」だ。これは複雑系・人工生命の研究で著名なメディアアーティストでもある東京大学大学院教授の池上高志氏が監修した作品だ。赤い樹の内部は下から過去、現在、未来への11層で構成されている。真ん中あたり、多くのスマホが貼り付けられているのが6層目で現在の情報社会を表しているという。1970年大阪万博の太陽の塔の内部と共通した印象を感じるが、池上氏は「万博には行きましたけど太陽の塔の内部は見ていないのです」とのこと。
「未来の眠り」のエリアには慶応大学医学部名誉教授の三村將氏が監修し、ミネベアミツミ株式会社のセンサーが搭載されたコンセプトベッドが2台設置されている。こちらはいわゆるスリープテック分野の展示だ。
「心臓の病気や認知症など多くの病気の予防には、質の良い眠りが必要」(三村氏)であり、それを実現するための機能がこのコンセプトベットには備わっている。人の眠りの状況に合わせたマットレスの動き、振動、光や音、香りなどで睡眠環境を整える。技術の要は、ベッドに備わったセンサーだ。ほんの僅かな身体の変化も捉える事ができ、非侵襲・非接触でありながら心拍数や呼吸数などのバイタルデータも測定できる。こうしたスリープテックの技術は「快眠」に役立つだけでなく、見守り・介護の分野でも有効であるため今後ますます重要な技術になるだろう。
さらにパビリオン内の別のコーナーには「装着型サイボーグ HAL」を開発したことで知られるCYBERDYNE株式会社が出展。HALの実演の他にも、器具(マスターディバイス)を装着した人の動きが遠隔地にいるロボットなどのリモートディバイスで再現できる「マスター・リモートシステム」や、造影剤無しでも着装するだけで血管の状態を可視化できる技術「Acoustic X」などを展示・紹介していた。
* * *
事前の紹介記事などで、今回の万博全体の中で目玉展示と言われているのは「iPS心臓」の他、日本館の「火星の石」(南極で発見された火星由来の隕石)や実物大のガンダムなど。目玉の一つとなると思われた「空飛ぶクルマ」は展示やデモフライトは予定されているようだが、当初計画されていた商用飛行には至らなかった。
70年の万博とは時代が異なるので、観客が殺到するような目玉展示を期待するのは無理がある。だが、今回の万博ではJAXAが日本初の月面着陸を達成した無人探査機「SLIM(スリム)」の4分の1サイズの模型などを展示するほか、NTTIの次世代通信基盤「IOWN」を活用した「3D空間伝送」、パナソニックのガラス型ペロブスカイト太陽電池のアート作品、さらに大阪大学教授の石黒浩氏プロデュースのシグネチャーパビリオン「いのちの未来」のアンドロイドなど当媒体でも取り上げてきた技術なども万博会場では実際に目にすることができる。機会があれば訪れてみてもいいかもしれない。