【AFP=時事】カナダ・モントリオールを拠点に活動する美術作家のオードリーイブ・グーレさんは、AI搭載のロボットアームが自身の作品を再現するのを見て最初は不安を覚えたが、最終的な結果には「思わず感心した」と言う。
モントリオールの企業「アクリル・ロボティクス」が開発したこのロボットアームは、アーティストが自身の作品の高品質なレプリカを作成し、収益を得られるよう支援することを目指している。
筆を掴んで絵の具に浸し、一筆一筆丁寧に作品を再現する様子を見守っていたグーレさんは、「良い意味で驚いた」と言い、アクリル・ロボティクスとの協力に同意した。
同社の創設者、クロエ・ライアン氏はAFPに対し、自身の収入の現実を目の当たりにして、このアイデアが生まれたと語った。14歳で初めて絵を売り始めたが、各作品を完成させるのに数週間、時には数か月もかかることにフラストレーションを感じていた。「ざっと計算してみたら『時給2ドル(約300円)しか稼げていない』ということに気がついた」のだという。
ライアン氏はモントリオールのマギル大学で機械ロボティクスを学んだ。自身の作品を再現するためにロボットがどのように役立つかを考えるようになり、その後、アーティストが世界中でこの技術を利用できるようにするための会社を立ち上げた。
■「最後の層」
グーレさんは、ロボットの作業プロセスを確認しながら、「本当に私の作品のように見える」とし、「筆跡が見えるのが良い。筆がどう動いたか、どんな形を描いたかが本当にわかる」と述べた。しかし、ロボットが制作したバージョンには「自身の作品ほどの深みがない」ことも指摘する。「最終的な作品は、完成までに5回ほど大きく変化(アイデアの変更や塗り直しなど)しているかもしれないが、ロボットアームは『最後の層』しか見えない」と話した。
この点についてライアン氏は、ストロークの順序を再現することで、同社のレプリカが「写真プリントでは決して捉えられない作品のオーラを捉えることができる」と説明した。
グーレさんの作品を再現するためにアクリル・ロボティクスの専門家がロボットを動かすための指示を入力する。作品は、デジタルの筆遣いと顔料で仕上げられていく。ライアン氏は、将来的には技術を進化させ、アーティストが画像を直接アップロードできるようにしたいと考えている。好みのアーティストのスタイルで犬の肖像画を制作するなど、好きなようにリクエストできるオンデマンド市場の計画だ。
■「順番待ち」
ライアン氏は、生成AIに対する芸術コミュニティの懸念を理解していると言い、そして自身の会社がアーティストが求める「3つのC」(同意〈Consent〉、クレジット〈Credit〉、報酬〈Compensation〉)に基づいていることを強調した。
「多くの人は、私たちが手掛けているものを理解する前に、絵を描くロボットを見て『なんてことだ、これは最悪だ』と考える」とAFPに語った。しかしライアン氏は、アクリル・ロボティクスでは、特に一流のギャラリーでの取り扱いがないアーティストの収入を増やすことに焦点を当てていると説明し、「毎月末にあなたの銀行口座にお金を振り込むだけです」と言うと、アーティストからは「より温かい反応が返ってくる」と話した。
アーティストにアプローチする際には、すでに完成した作品の資料を参考用に送るよう提案することもあるという。レプリカの価格は数百ドルから千ドル程度で変動し、収益分配も変動する。価値が限られる作品の写真をアップロードするだけの新進アーティストは、販売価格の5%を得るかもしれないが、購入希望者の多い著名なアーティストの場合、その数字は50%に上昇する可能性がある。現在、約500人のアーティストが順番待ちの状態だとライアン氏は述べた。
しかし、ペンシルベニア大学のマイケル・カーン教授(コンピュータ情報科学)は、この技術によって最終的に作品の価値が下がる可能性も考えられると話した。
アマゾンの奨学金プログラムの一環として、技術的な課題に取り組む学者を支援しているカーン氏は、「多くの人が(アートで)まともな生活を送れるようにする」取り組みの意義は理解しているという。ただ、「希少だったものが、容易に手にできるようになると、その価値に対する人々の認識は変わることになる」と注意を促した。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件