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「AI×家事・育児・介護」急成長 経験からデータへ

広州市の「春暖羊城」家政フェアでの一場面。市民に多様な家政サービスを提供し、求職者支援も行われた=2025年2月20日撮影・資料写真(c)CNS:陳驥旻

広州市の「春暖羊城」家政フェアでの一場面。市民に多様な家政サービスを提供し、求職者支援も行われた=2025年2月20日撮影・資料写真(c)CNS:陳驥旻

【東方新報】中国・安徽省(Anhui)合肥市(Hefei)の家政サービス協会のオフィスでは、会長の張立発(Zhang Lifa)氏が「人工知能(AI)による家政業支援」に関する資料を読み込んでいた。張氏によると、安徽省の家政業界は長年、サービスの標準化が進まず、人材の流動が激しく、需要と供給のマッチング効率が低い上に、管理コストも高止まりしていたという。

 だが今、AI技術の導入によって、こうした構造的な課題が大きく変わり始めている。ここ数年、安徽省は「安徽省汎用人工知能イノベーション発展三年行動計画(2023—2025年)」や「安徽省『人工知能+』推進行動計画」などを次々と発表してきた。政策の後押しを受け、家政分野でのAIの活用は、市場任せの試行段階から、政策に支えられた本格的な発展期へと移行している。

 AIの導入により、安徽省の家政業界では「経験頼み」から「データ重視」へと転換が進んでいる。スマートマッチングによる人材紹介や、個別に最適化されたサービスプランの提供など、AIは家政の形を根本から変えつつある。

 安徽省の総合家政サービス企業「皖嫂家政サービス」は、上海市の復旦大学(Fudan University)と共同で「人工嗅覚」感知技術を開発した。この装置は哺乳瓶や乳首の近くに置くだけで、洗浄の度合いや細菌の繁殖を検知し、再洗浄の必要をデータで判断できる。

 総経理の王成芳(Wang Chengfang)氏は、「乳児用品の安全性を確保でき、保護者の安心にもつながる」と説明する。さらにこの装置では、乳児の排泄やガスのデータを測定し、消化状態を分析して保護者に通知することもできる。こうしたきめ細かな育児サポートは利用者から高く評価され、同社はこれまで13万6000件以上のサービスを提供。登録家政スタッフは約5万人、顧客満足度は70%から98%以上に上昇した。AIは家政スタッフと利用者のマッチングにも革新をもたらしつつある。

 従来、利用者は「信頼できる人を探すのが難しい」「スキルが見えない」といった悩みを抱えていたが、AIを使えばスタッフの技能や評価を可視化でき、より正確な人選が可能になる。

「合肥安心家政サービス」の蔡立芳(Cai Lifang)氏は、「AIが雇用主の家族構成や生活習慣、特別な要望をもとにユーザープロフィールを作成し、スタッフの技能や評価データと照合して最適な人材を推薦します」と語る。情報収集や分析の手間が減り、経験の浅い仲介者でも高精度なマッチングが行えるようになったという。

 従業員300人を超える安徽大海家政集団も、AI研修を導入した。これまでコストのかかった対面研修を、AIによる学習支援システムに切り替えたことで、スタッフのスキル習得とサービス効率が大幅に向上した。

 一方、業界全体では長らくデータの分散が進まず、「情報の孤島」と呼ばれる状態が続いていた。だが、AIの本格導入により、こうした壁も崩れ始めている。「皖嫂家政サービス」では、大規模AIモデル「DeepSeek(深度求索)」を導入し、家政分野に特化したAI「皖嫂智家」を開発した。利用者が「赤ちゃんが泣き止まないのはなぜ?」と尋ねると、「空腹、オムツの汚れ、不快感、疲労、刺激過多、体調不良などが考えられます」と即座に答える。このAIは家庭の悩み相談だけでなく、家政スタッフの学習支援ツールとしても活用されている。

 大海家政集団では、AIを活用して顧客ごとの清掃・管理プランを自動生成し、より精密で個別化されたサービスを提供している。

 「合肥安心家政サービス」の蔡立芳氏は、「AIバーチャル執事」システムの導入も進めており、家庭内のスマート機器と連携して家全体を管理。AIが室内環境の調整や高齢者・子どものケアを指示し、スタッフが実行するという新しい仕組みだと説明した。

 合肥市商務局も「AI+家政」の融合を推進しており、家政・育児・介護の知識や教材を収録したオンライン学習プラットフォームを構築中だ。今後はこのデータをAIに学習させ、家政に特化した「AI専門家」を育成する計画だという。

 王成芳氏は、「AI技術はサービスの質を高めるだけでなく、高齢化や少子化といった社会課題への持続的な解決策にもなる」と話す。心理カウンセリングや法律相談など、新しい分野へと家政サービスの領域が広がりつつある。

 家政サービスの価値観も変化している。張立発氏は、「今後、家政消費は単なる『家事代行』から『ライフサイクル全体を支えるサービス』へと発展するだろう。消費者はより良いサービス体験を求め、資格を持ち、身元の確認された専門スタッフに対しては高い報酬を支払うようになる」と述べる。

 現在、安徽省では767社が国家家政信用情報プラットフォームに登録し、従業員情報は59万件を超える。これが業界のデジタル化・スマート化を支える重要な基盤となっている。政策面でも追い風が吹く。今年4月、中国商務部など9部門が「家政サービス消費の拡大と高度化に関する通知」を発表。家政業のデジタル化促進、AIやビッグデータによるユーザープロファイル構築、ロボットなどの新技術による新たな消費シーンの創出など、12項目の具体策を打ち出した。

 合肥市商務局の趙多佳(Zhao Duojia)氏は、「AI技術の応用事例を共有し、企業間の学び合いの場を作っている。また、成果を上げた企業が大学や研究機関と連携し、AI活用力を高められるよう支援している」と話す。今年3月には、合肥市の指導のもと4社の家政企業が合肥開放大学と連携協定を締結。「学歴+技能向上」型の研修モデルを導入し、8月末までに延べ3万人以上が参加した。また、安徽省商務庁も「集中研修+個別指導」を組み合わせ、5月以降16回の専門研修と35社への現地指導を実施。政府・業界・企業・社会が一体となった信頼性の高い家政サービス体制の構築を進めている。

 張立発氏によれば、AIが家政業にもたらすのは単なるツールの進化ではなく、家政という仕事の本質を問い直す変化だという。政策・技術・市場が連動し、家政サービスの価値は再定義されつつある。機械が手を動かし、人が心を動かす――そんな新しい時代が、すでに始まっている。【翻訳編集】東方新報/AFPBB News|使用条件

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