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「AI大統領」トランプ氏、ディープフェイクで自身を称賛しライバルを中傷

米フロリダ州マイアミのカセヤセンターで開催されたアメリカンビジネスフォーラムで演説後、ステージ上で踊るドナルド・トランプ大統領(2025年11月5日撮影)。(c)Chandan Khanna/AFP

米フロリダ州マイアミのカセヤセンターで開催されたアメリカンビジネスフォーラムで演説後、ステージ上で踊るドナルド・トランプ大統領(2025年11月5日撮影)。(c)Chandan Khanna/AFP

【AFP=時事】パラレルワールドでは、ドナルド・トランプ米大統領が国王、戦闘機パイロット、スーパーマンとして君臨し、その政敵は犯罪者やあざけりの対象として描かれている。現職の米大統領によるAI(人工知能)生成画像の武器化という前例のない行為だ。トランプ氏は2期目就任以来、自身のSNS「トゥルース・ソーシャルでのAI生成コンテンツの利用に力を入れ、超現実的なフェイクコンテンツをコミュニケーション戦略の核として活用した初の政権となっている。

 陰謀論や根拠のない主張を常日頃から口にしているトランプ氏は、特に国民の怒りが高まった時、ソーシャルメディアでの息もつかせぬ連投の中でこうしたコンテンツを活用し、自らを美化し政敵をこきおろしてきた。

 先月にも全米各地で行われた「ノー・キングス」デモで数百万人がトランプ氏に「王様はいらない」と抗議した日、王冠をかぶって「トランプ国王(キング・トランプ)」と書かれた戦闘機を操縦し、抗議デモの参加者らに排せつ物らしきものを投げつける自身を描いた偽動画を投稿した。

 ホワイトハウスは別の投稿で、トランプ氏の健康状態をめぐる臆測がソーシャルメディアで飛び交う中、トランプ氏をスーパーマンに見立て「希望の象徴」「スーパーマン・トランプ」とコメントした。

■現実を歪曲

 トランプ氏やホワイトハウスは、ローマ教皇に扮(ふん)したり、ライオンと並んで咆哮(ほうこう)したり、首都ワシントンの由緒ある芸術複合施設ケネディ・センターでオーケストラを指揮したりするトランプ氏を描いたAI生成画像を投稿している。こうしたAI生成画像はソーシャルメディアユーザーを欺くもので、コメント欄では画像が本物かどうかを疑問視する声も上がっている。

 これらの画像がトランプ氏本人が生成したものか、側近に生成させたものかは不明だ。AFPはこの件についてホワイトハウスにコメントを求めたが、回答は得られていない。

 米誌ワイアードは最近、トランプ氏を「米国初のAI大統領」と評した。独立系メディア、フリー・プレスのノラ・ベナビデス氏はAFPに対し、「トランプ氏は自身のイメージ向上、敵への攻撃、そして世論操作のために、オンラインでもオフラインでも偽情報を流布している」「彼のような人物にとって、規制されていないAIは注目を集め、現実を歪曲(わいきょく)する完璧なツールとなる」と語った。

 トランプ氏は9月、すべての米国民に万能の医療設備「メッドベッド」へのアクセスを約束するフェイク動画を投稿し、その後何の説明もなく削除した。AIで生成されたとみられる動画では、広く否定されている陰謀論に触れており、ネット上で強い反発を招いた。メッドベッドとは、極右陰謀論者の間で広く信じられている架空の未来医療機器で、陰謀論の支持者はぜんそくからがんまであらゆる病気を治すことができると主張している。トランプ大統領の偽動画は、米FOXニュースの番組を装ったもので、次男エリック氏の妻ララ・トランプ氏がホワイトハウスによる「画期的な新医療システム」の導入を宣伝していた。

■荒らし行為による政治運動

「The Conspiracists: Women, Extremism, and the Lure of Belonging(陰謀論者:女性、過激主義、帰属的誘惑)」の著者であるノエル・クック氏は、「権力者に振り回される人々を、どうすれば共通の現実に引き戻すことができるのか?」と問いかける。

 トランプ氏は、最も挑発的なAI投稿をライバルや批判者のために確保し、支持基盤である保守派を鼓舞するために利用してきた。7月には、バラク・オバマ元大統領が大統領執務室で逮捕され、オレンジ色の囚人服を着せられて収監されるAI生成動画を投稿した。その後、黒人であるハキーム・ジェフリーズ民主党下院院内総務がつけひげを着け、ソンブレロ(メキシコや中南米の男性が主に着用する、つばが広く頭頂部が高い民族帽子)をかぶっているAI生成動画を投稿した。

 ジェフリーズ氏はこの動画を人種差別的だと強く非難した。ニューヨーク大学ソーシャルメディア・政治センターのジョシュア・タッカー共同所長はAFPに対し、「米大統領が争いに巻き込まれず、AI生成画像を共有しないことが多くの点で望ましいが、トランプ氏は在任期間をノンストップの政治キャンペーンと認識していることを繰り返し示してきた」と指摘。「彼の行動は、これらの画像が現実を映し出しているという誤った考えを積極的に広めようとしているというよりは、荒らし行為による政治運動だと私は見ている」と付け加えた。

 トランプ氏に倣い、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は4日、民主党が主要な地方選で圧勝した後、AIで生成されたとみられる動画をX(旧ツイッター)に投稿し、意趣返しをした。動画は、民主党の指導者たちの顔が合成されたレスラーたちが、トランプ氏を含む共和党の指導者を倒す様子を描いたものだった。動画には「これがテイクダウンというものだ」とのコメントが添えられていた。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件

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