
深センのロボット6Sショップの展示
“Well known, well misunderstand” 2025年、「ヒューマノイドロボット」という単語は、一気に広く知られる言葉となった。同時にそれは大きな誤解をともなった言葉でもある。派手な宣伝文句や短い動画だけで“わかった気になる”が、実際に触ってみるとそこで見えてくる景色はまるで違う——これが筆者の実感だ。
市場から見てもヒューマノイドは、夢を描いてそこに投資を集めたスタートアップが集う舞台にはなっているが、実際の投資対効果を語るフェーズには入っていない。一方で研究開発が盛り上がっているのは事実で、今年8月に北京で開かれた世界ヒューマノイドロボット運動会(以下、WHRG)は、来年さらに拡大して行われるだろう。
こうした2025年のヒューマノイドロボットの状況については、先に寄稿した記事にまとめたので、ここではこれ以上触れない。記事では2026年の展望を述べる。
2026年は、「多くの人に見せる」ことを目的とした大規模な実験が広がるだろう。WHRGは、完成品の見本市ではなく、未完成を見せる公開実験だった。標準機体を使い、自己位置推定・認識・戦術など上位ソフトの差で競う。同じロボット素体でもモーションの違いで100m走の結果に差が出る。ロボットの自律サッカーは競技として成立してはいるが、接触・転倒・再開の運用で摩擦が残ることなどがWHRGの会場では見てわかった。こうした“現時点での到達点”を観客と共有し、社会全体のロボットを見る目をアップデートすることにWHRGは貢献している。2026年は、こうした公開の場がさらに大規模になり、公開される技術の粒度もさらに細かくなるとみている。結果よりも過程と測り方が重視され、研究の歩みは速く、深くなる。
WHRGでの100m走。同じ筐体でもモーションの違いで速度が大きく違う
2025年は、ヒューマノイドロボット関連分野への新規参入とPoC(概念実証)が量的に増えた。その結果、実際の経験値が高まることで、2026年はロボットの能力、運用、実施可能なサービスについて、地に足のついた評価が可能になるだろう。現時点で、ロボット企業のプレスリリースで語られる性能と実際のそれとの差は大きく、そのことを正しく理解している人は少ない。2026年はそれが知れ渡る年になりそうだ。
深センのロボット・ディスプレイスペースを見て歩くと、「ただ置いただけ」の展示会場ではすでに閑古鳥が鳴いている。「触って」「試して」比較できない場所は続かない。一方で、大学や開発者イベントのワークショップには着実に人が集まり、手を動かす人が増えている。触ってわかることが共有されるほど、こうした選別は進むだろう。
大規模な資金調達に成功したロボット企業が、その資金でデータ工場を作るアプローチが注目されている、それは「数あるアプローチの一つ」に過ぎず、誰もが追随するものにはなっていない。
さらにそうした工場で、ロボットが学習する様子をニュースなどで見て「作業の動画を多数学習させれば、それでロボットが動く」と誤解している人も多い。実際は画像以外のモーション/3Dの時系列、接触、失敗ログデータなどを実機で積み上げる必要がある。
また、積み上げたデータもサイズや駆動方式が違うロボットにも適応ができるかどうかは、まだ研究段階だ。この分野の進歩は日進月歩だが、さまざまな業務に耐えうる性能になるのは何年後になるのかわからない。
人間は人の形をした「人型ロボット」に特別な感情と注意を向ける。だから、見せることを目的にしたヒューマノイドは価値がある。受付や案内、イベント、教育、ブランド体験のように、まず視線を集めて会話や体験に入ってもらう場では、人型であることが重要だ。しかも、現場で得られる操作ログや失敗の記録、視線や導線、音声のデータは、そのままUI/UXの見直しや学習用の素材として回収できる。教育の場でも「人の形だから伝わる」効果は強く、公開実験やワークショップの理解の入口を広げやすい。人間に見せる場面で「人型のロボットは有効である」という結論はすでに出ている。
一方で、人が見ないバックヤードや閉域の業務では、評価軸がまったく違う。ここで求められるのは、速度、安定性、電費、保守性、安全設計といった機械的・経済的な合理性である。移動なら二足歩行より車輪が有利になりやすく、同じ重量制約の中では「台車+アーム」の構成が可搬重量と稼働時間で優位を取りやすい。安全や責任分界の面でも、移動範囲や速度制限、停止系が単純な構成ほど運用が楽になる。こうした物差しで見ると、用途特化の非人型(協働ロボ、搬送ロボ、台車+アーム)の方がマルチタスクの人型より先に合格点を出すことが多い。実際、店舗や物流では搬送ロボット「Pudu」のような非人型が、稼働時間と信頼性の面で成果を積み上げている。
表面は人型で惹きつけて理解を促し、背面は非人型で止まることなく効率よく回す。現時点ではその区別が上手くできおらず、混在している「ロボットと仕事」について、2026年は、この「見せる人型/働く非人型」という理解が進んでいくのではないだろうか。
中国の事業家たちは過剰とリセッションの波に慣れている。スマホ、メイカームーブメント、ドローン、EV、AI——中国のビジネスは「過熱→選別→再成長」を繰り返してきた。今回も投資先行でブームが進んでいるため、派手に資金を使った企業の倒産は今後いくつか出るだろう。そのたびに「ヒューマノイド冬の時代」といった見出しが紙面を賑わすかもしれない。
一方で、多くの起業家はそれを理解したうえで波に乗っている。そして混乱と淘汰の只中から、現場で使えるサービスは生まれる。なぜなら中国には開発拠点や共同実験場、デベロッパーイベント、そしてWHRGのような公開競技まで、実機に触れて学ぶ機会が恒常的に用意されているからだ。
ここで重要なのは、いまの“人型ブーム”への投資が、協働ロボット(非人型)の現場にも直結する成果を多数生むという点である。関節ユニット、QDD系モーター、エンコーダー、制御基板、センサーフュージョン、ログ設計、遠隔支援の運用——これらは形状を問わず横展開でき、台車+アーム型のロボットや搬送用ロボットを含めて、ロボット性能の可用性を引き上げるだろう。したがって、何に資金が投じられ、実際に誰が何にお金を払っているのかを引き続き具体的に追うべきである。人型の見栄えに注目が集まるほど、裏側では協働ロボに効く部品・ソフト・運用手順が静かに成熟していくというのが筆者の見立てだ。
「いまやるべきこと」の提案はシンプルだ。まず、自分の手を動かす。セットアップの面倒くささも含めて、ロボットとデータの関係を体で覚える。今、ブームの追い風のおかげで、ロボット作りが初めてであっても2〜3日あれば基本動作まで到達できる環境がある(開発キット、教材、コミュニティ、評価スクリプト)。
そのうえで、中国のロボット企業や部品・サプライチェーンも含めて「自分たちに何が可能か」を考え、日本側の仕様策定・安全・制度適合・インテグレーションで現場に落とす。こうしたやり方は、2026年も有効だ。実際に触れる・記録できる・比べられるPoCは価値を持つ。
結論は簡単である。研究は深まる。実用化はなお遠い。だからこそ、手を動かして学ぶ、矛盾する複数の要素を実際に体感して考えられるチームが生き残っていく。
以上をもって、2026年のヒューマノイドの見通しとしたい。