10年目を迎えた「AIサミット・ニューヨーク」が、2025年12月10日と11日の2日間、ニューヨーク市内にあるジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで開催された。2016年に始まったこのカンファレンスには、450人以上のAI関係者が登壇し6500人以上が参加した。今回、特に注目を集めたのが「Agentic AI(AIエージェント)」であった。
「本日、この革新的なサミットが最初に開催されてから10年目を迎えました。2015年に大胆なビジョンをかかげて始動したこのイベントでは、この10年間でAIが新たな技術であるというだけではなく、具体的な商業的結果を出すほどまでに発展してきました」
会場に詰めかけた熱気であふれた参加者を前に、主催者であるInformaのキャロライン・ヒックス氏の言葉でイベントは開幕した。
会場内にはメインである「Headliners Stage(ヘッドライナーズ・ステージ)」以外にも、「生成AI」や「AIサイバーセキュリティー」、「スタートアップと投資家」など、10以上のテーマに沿ったステージが設置され、2日間で計150以上のセッションが行われた。
また、グーグルやIBMなど大手IT企業以外にも、数多くのAI系スタートアップ企業など160社以上の展示ブースが会場を埋め尽くした。
そのなかでも今回のサミットで特に筆者の目を引いたのは、「Agentic AI(英語の発音では「アジェンティックAI」)」や「AI Agent」といったサインを掲げた展示ブースが、例年に比べ圧倒的に多く見られたことである。
東部ニュージャージー州を拠点とするITサービス・コンサルタント会社のAvira DigitalでCTOを務めるラマ・ポチナペディ氏に話を聞くと、「2023年は(AI)モデル、2024年はLLM(大規模言語モデル)、そして2025年はAIエージェントの年となりました」と語った。
自律的に働くAI
2022年末のChatGPTの登場で「生成AI(Generative AI)」が話題となり、その後AIは日進月歩の進化を続けてきた。2025年になってにわかにクローズアップされるようになった「AIエージェント」とはどのようなものなのか。様々な定義があるが、例えばIBMによるとAIエージェントとは「大規模言語モデル(LLM)、機械学習(ML)、自然言語処理(NLP)のデジタル・エコシステムを活用することで、自律的な能力を次のレベルに引き上げ、ユーザーや他のシステムの代わりに自律的なタスクを実行します」と説明している。
さらに、「新しいコンテンツの作成ではなく、意思決定に重点を置いており、人間のプロンプトのみに依存しているわけでも、人間の監視を必要としているわけでもありません」とも。
生成AIが人間の指示(プロンプト)によるテキスト・画像・動画・音声・コーディングなどのコンテンツ作成を主な役割としている一方で、AIエージェントは人間による最小限の関与だけで「自律的な」意思決定が可能である部分が大きな違いであると同社は指摘する。
『エージェント型の時代』と題したセッションで登壇したIBMのリティカ・ガンナー氏によると、2030年までに10億以上のAIアプリケーションが誕生するとみられているが、その内の75%以上は生成AI自身によって作成されていくと予測している。
「今後作られていくアプリケーションはすべてAIエージェントを備えたものになり、それらのエージェントが実際の意思決定をして行くようになるでしょう」とガンナー氏は語った。
さらに、同社が5月に発表した世界6カ国の企業経営者750人を対象にした調査によると、その86%が企業においては、2027年までにAIエージェントによって作業の自動化や成果の自律最適化が可能となり、企業経営がより効果的になると予想している。
「考えるAI」から「行動するAI」へ
『AIエージェントと生成AI:進歩へのパートナーシップ?』と題したパネルディスカッションでは、コンテンツ作成を主とする生成AIと企業などにおける業務の自動化を可能にするAIエージェントとのパートナーシップの重要性が語られた。
Instabaseのジュニー・ディンダ氏は「生成AIが『考える機能を担当する存在』だとしたら、AIエージェントは『実際に行動を起こす存在』と言えるでしょう」と両者を比較して表現した。
DocuSignのスバラオ・パイディコンダラ氏は「AIエージェントによって何が可能になるのか。それは自ら意思決定を行い、その判断に基づいて人間の関与をほとんど必要とせず、物事を進めていくことができます。一方で、生成AIとはコンテンツを深く掘り下げ作り出す能力を持っています」と語り、企業がAIのスケールアップを達成するためには両者の密接な協力が必要だと強調した。
また、別のパネリストであるNiCE Cognigyのダグ・レナー氏は「これまでのChatGPTなどの生成AIはプロンプトを必要としており、質問に対する答えを作成するにとどまっていました。しかし、AIエージェントの広がりにより我々のプラットフォームの各所にAIを導入する事が可能になりました」と語った。
その一例として、車の修理が必要な際に、AIが近所の自動車修理場を見つけ出すだけではなく、修理点検のスケジューリングから支払いまでの作業をAIエージェントが全て自動的にこなすようになると説明した。
このように、フォームの記入や決済が発生する用件をAIエージェントが代行するようになると、その代行作業がスムーズに運ぶよう、個人や法人はAIエージェントに対してあらかじめ多くの個人情報や企業機密、決済や財務に関する情報などを開示しておかなければならない。さらに、本人が望まない選択や判断を避けるため、AIエージェントが判断を下す際の基準についてもあらかじめ明確にしておく必要がある。
パネルディスカッションの中でもTrusted AIのパメラ・グプタ氏は、企業が今後AIエージェントを使いAIのスケールアップを行う際に最も重要なことは、プライバシー侵害や不正アクセス、情報漏洩などを防ぐために、導入時に企業がAIを安全かつ倫理的に利用し、社会からの「信頼」を得るための自主的なルールを定め管理する「AIガバナンス」の構築が不可欠であると強調した。
「自律的なAIエージェントにはまだまだ我々の知らない多くのリスクがあるので、(AI導入時には)それに対するセキュリティーやガバナンスは最初から考慮に入れて計画しなければなりません」(グプタ氏)
AIエージェントの活用例
『エージェント型コマースとAI経済の未来』と題したセッションでは、実際に小売業界におけるAIエージェントの活用事例が紹介された。
AmazonやPayPalでの勤務経験があり、現在は自身のAIスタートアップを経営するジャクリーン・カーリン氏によると、アメリカでホリデーショッピングをする消費者の内、30%以上がAIを使うという最新の調査結果があるとのこと。
カーリン氏は、例えば上着をネットで購入する際に、スタイルや色、サイズ、値段、配達時間、支払い方法など少なくとも8つの項目をオンライン上で検索し、選択する必要があると説明する。
しかし、AIエージェントを使うと、消費者はひとつのプロンプトでAIがすべての作業を行うことが可能になり、今まで商品の検索から購入まで2時間かかっていたものが、2分に短縮される。
具体的には、消費者はAIエージェントに「この写真に写っているジャケットと似た服を探している。青色の女性用サイズ9で、12月20日までに届けてほしい。予算は250ドル以下」といったプロンプトを入れるだけで、自動的にAIが商品の検索から支払いまでをすべて行ってくれる。
カーリン氏は、この工程には3つのステップがあると説明する。はじめに、ユーザーは自分の代わりに用を果たしてくれる「代理人=エージェント」を選び、自分の探している商品などのプロンプトを入力する。つぎに、エージェントはプロンプトに基づき、与えられたタスクをどのように達成するかを論理的に考え、計画を立てる。最後に、そのエージェントは別のエージェントやデータにアクセスし、ユーザーに合った最適な結果を導き出すといった仕組みである。
AIエージェントを使うことにより、我々がこれまで別々に行っていた商品の検索、比較、発注、支払いといった作業をすべて自動化することができるというわけだ。
さらに、AIが利用者の買い物パターンを学習することにより、そのユーザーに合った商品や支払い方法の選択などのパーソナリゼーションが可能になって行くと同氏は予測している。
AIエージェントシフトとビジネスの将来
カーリン氏によると、小売業界ではAIエージェントの導入により4つの大きなシフトが起こるとみている。
ひとつは、「サーチ(検索)」から「インテント(意図)」へのシフト。ただ単に商品の検索(サーチ)をするのではなく、その先の「ユーザーは何をしたいのか」(インテント)までを考慮し企業は対応していかなければならない。
2つ目が、リアルタイムでの在庫数把握やダイナミックプライシングへのシフトだ。買い手のエージェントに対して、販売サイドは在庫数を把握し、需給の変動に合わせて最適な価格を随時、自動的に提示する必要がある。こうした対応が可能なインフラが今後必要とされるだろうとしている。
さらに、消費者からの信頼度をはかる指標へのシフトも必要だ。つまり信頼のおける商品ブランドであっても、そこに介在するAIエージェントの正確性や透明性に問題があると信頼度が低下する。さらに(ミスが起きた際などに)きちんと責任を取るシステムであることも重要視されるだろう。また、ユーザーの個人情報保護も重要な点であるとしている。
最後のひとつは、ビジネスが従来の店舗やウェブサイトといった動くことのない販売・サービス拠点(チャンネル)から、「呼び出し可能なシステム」へシフトする。顧客が特定のチャンネルにアクセスするのではなく、システムがユーザーの要望に応じてパーソナライズされた商品や支払い方法などを呼び出すことで、全体の作業の効率化を図ることができる。
カーリン氏が指摘するAIエージェントによるシフトは、小売業界だけにとどまらない。
今回はじめてAIサミットに参加したというオーストラリアを拠点とするAgenticScale.ai(アジェンティックスケールAI)でチーフ・マーケティング・オフィサーを務めるクリス・ルキアネンコ氏に話を聞くと「我が社がターゲットとしているのはすべての業種です。我々は金融業界から広告代理店、電力会社まで、すべてのビジネスがAIエージェントによって変化を遂げられると信じています」と語った。
2023年に設立された同社は、様々な業種にAIエージェントに関するコンサルタントやAIエージェント導入支援サービスを提供しているが、これからのビジネスに革新的な変化をもたらすだろうとルキアネンコ氏は強調する。
一方で、最近になって懸念が広がる「AIバブルの崩壊」については「心配している」としながらも、AIエージェントの技術は生き残るだろうと同氏は語った。
「バブルの崩壊によって悪影響を受ける技術や企業はあると思います。しかし、この会場に来て分かるように、(AIエージェントに関する)素晴らしいアイディアが今もどんどん生まれている。そして、それはリアルなものであると感じます」(ルキアネンコ氏)
