
「東京eスポーツフェスタ2026」JESUパネルディスカッション「eスポーツ×高齢者福祉の現在地〜ゲーマー世代が後期高齢者になる未来へ向けて〜」の様子
近年「eスポーツ」は、国内外でプロ選手やプロチームによる大会も開催され、市場規模は右肩上がりで拡大している。「参加者は若年層中心」というイメージがあるが、実は健康や認知機能の維持、社会参加といった観点から、高齢者福祉とも強い親和性があると言われている。実際にeスポーツと高齢者福祉を掛け合わせ、認知症やフレイル(虚弱)予防に活用するイベントも盛んに行われているようだ。
具体的にどのような取り組みが行われ、どういった成果が見られるのか。2026年1月9日に「東京eスポーツフェスタ2026」(開催地:東京ビッグサイト)内で行われたJESU(一般社団法人 日本eスポーツ協会)パネルディスカッション「eスポーツ×高齢者福祉の現在地〜ゲーマー世代が後期高齢者になる未来へ向けて〜」において関係者が取り組みを報告した。
登壇したのは、株式会社セガ グローバルeスポーツ推進部 正廣康伸氏と、シニアプロゲーミングチーム「 MATAGI SNIPERS(マタギスナイパーズ)」のmark25氏、神奈川工科大学 情報メディア学科教授の鈴木浩氏、eSocial Cue株式会社(秋田県eスポーツ連合パートナー団体)代表取締役/社会福祉法人北杜 作業療法士の若狭利伸氏だ。モデレーターは、神奈川県文化スポーツ観光局 非常勤顧問 eスポーツアドバイザーの澤紫臣氏が務めた。
最初に取り組みを紹介したのは、セガの正廣氏だ。同社のeスポーツ活動では、30年以上にわたって人気のアクションパズルゲーム「ぷよぷよ」をeスポーツ推進用にカスタマイズした「ぷよぷよeスポーツ」が用いられている。
もともと「ぷよぷよ」というゲームは、画面上部から落ちてくる「ぷよ」という物体を回転させ、同色の「ぷよ」をつなげて消すという単純明快なルールで、コントローラーの操作もシンプル、誰でも簡単に楽しめるものだ。さらに同社では、プレーヤー以外の人もゲームの様子が観戦できるようオンライン観戦機能を付けるともに、「ぷよ」の落下スピードをコントロールできるようにしたり、色覚多様性に対応したりするなど、より幅広いシニアが参加し、楽しめるような工夫を施した。
「ぷよぷよeスポーツ」は、セガの公式大会や同社のIPを用いた許諾大会などさまざまな大会が開催されており、高齢者向けの「ぷよぷよ×シニアeスポーツ活動」の開催も増えつつある。「世代間の交流ツール」や「フレイル防止」の一環として行われることも多く、特に2022年をから開催が急増し、2024年には「ぷよぷよ×シニアeスポーツ活動」の実施に関する問い合わせが500件を超えたとのことだ。
「実際に役に立つのだろうかということで、先生(研究者)に頼んで実証実験をしてもらいました。すると、高齢者の認知機能の低下予防に可能性があることに加え、特に対戦ゲームの場合は、ドーパミンやアドレナリンが出ることによってより効果が大きくなるといった結果が出ました」(正廣氏)
近年では兵庫県神戸市にシニア専用のeスポーツ施設ができたり、自治体同士をつないでオンライン対戦し、双方の特産品を景品として贈りあったりするなど地域ぐるみの新しい展開も複数見られるという。
学術的な見地から、認知症予防につながるeスポーツを開発する取り組みも進んでいる。それが、神奈川工科大学教授で、インタラクションデザインやxRを専門とする鈴木氏が、認知症予防に有効とされる「脳トレ」「適度な運動」「コミュニケーション」の3要素を取り込んだeスポーツとして開発したビンゴ型ゲーム「サンコロビンゴ」だ。
これは、3つ並ぶサイコロをオブジェクトデバイス(コントローラー)として用いるもので、左端のサイコロが7〜12、右端が1〜6の数字が並び、真ん中には「+」「−」など四則演算の演算子が並ぶ。通常のビンゴは、司会が引いた数字に該当するビンゴカード上の数字に穴を開けて、縦横斜めをそろえるが、「サンコロビンゴ」では、この数字を自分で数式を考えて(自分のペースで)開けていくという方式になる。つまり、計算式を自分で考える「脳トレ」になっているというわけだ。
加えて、対戦型となっており、対戦相手とビンゴの早さを競う。このため戦略を練る必要があり、相手との「コミュニケーション」も発生する。また、サイコロ型コントローラーは体を使って回すため「適度な運動」も行えるとのことだ。

「ゲームができて3年ほどなのですが、福岡市、川崎市、厚木市、それに神奈川県と一緒に、いろいろな施設に設置いただき、イベントなどを展開している最中です」(鈴木氏)
ではこうしたシニア向けeスポーツに参加する高齢者側は、どういった印象を抱いているのだろう。講演では、70歳のプロゲーマー・mark25氏が自身の体験を語った。
mark25氏が所属するMATAGI SNIPERSは、秋田県秋田市にある株式会社エスツーが運営する、60歳以上のプレイヤーで構成されたシニアプロゲーミングチームだ。最年長が77歳、一番下が60歳で構成されている。もともとmark25氏は65歳で定年退職したが、その頃メンバー募集があり、ゲーム未経験だったが興味を惹かれ参加したという。
主な活動内容は、FPS(First-Person Shooter)いわゆるシューティングゲームへの参加で、現在は米国ライアットゲームズが開発した「VALORANT(ヴァロラント)」を中心に活動している。具体的には月曜から金曜まで、午前は個人練習、午後は毎日チーム内で練習を行い、夜は交代で配信活動を行っている。「時には土日も練習している」とのことだ。
「大変そうですね、と言われることもありますが。楽しんでやっているので、苦とは感じていません」(mark25氏)
また、定年退職後、家でゴロゴロしていた時期もあったが、MATAGI SNIPERSに入ったあとは毎日練習があり「規則正しく過ごせている」という。午前の個人練習についても、「サボってしまうと午後の(チームでの)練習で恥をかくということもあり、手が抜けない」と笑う。
ゲームそのものについても「非常におもしろい」と感想を述べる。キャラクターのコントロール能力が必要なことに加え、「VALORANT」では5人対5人の団体戦となるため、チームメンバーとのコミュニケーションが欠かせない。皆で力を合わせることや、同じ目標に向かって切磋琢磨することに大きなやりがいを感じているとのことだ。
mark25氏のようにプロゲーマーとして活動せずとも、地域の公民館など、より身近な場所でeスポーツを楽しむイベントも開催されている。mark25氏と同じく、高齢化が進むエリアである秋田県でシニア向けeスポーツに取り組むのが、eSocial Cue(秋田県eスポーツ連合パートナー団体)の若狭氏だ。
若狭氏は、報道でeスポーツの存在を知った秋田県のとある町内会の会長から要請を受けて、町内会館を利用したeスポーツの取り組みを開始。そのエリアの町内会同士をつなげ、シニア向けeスポーツクラブの設立に漕ぎ着けた。
また、それとは別に地域に根付く社会福祉施設を会場にしたシニア向けeスポーツクラブも結成。シニアが慣れ親しんだ場所、馴染みのメンバーでプレイすることで、介護予防の取り組みとしてeスポーツを根付かせることに成功したとのことだ。
若狭氏らもeスポーツが高齢者の認知機能と運動機能にどのような影響を及ぼすのか、実証実験で検証している。それによると、eスポーツを3ヶ月間継続した高齢者は、歩行速度、言語記憶、課題処理速度、うつのスコア(老年期うつの検査、GDS-15)の向上に加え、コミュニケーション機会が増えたことによる社会的フレイル傾向に改善が見られたという。一方、eスポーツを実施しなかった高齢者には、認知機能などの変化は見られず、うつのスコアも悪化したとのことだ。
こうした結果からも、eスポーツが高齢者の身心の健康に及ぼす影響は少なくないとし、地域に根付いたシニア向けeスポーツの取り組みを継続することの重要性を訴えた。
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筆者は、小学生の時分にファミリーコンピューターが大流行した、いわゆる「ファミコン世代」だ。そして、この世代はあと十数年すれば高齢者の仲間入りとなる。
日本のボリューム世代である「団塊ジュニア」とも重なる「ファミコン世代」が高齢者となった時にどのように生きがいを見つけ、健康寿命を延ばしていくべきなのか。今広まりつつある「eスポーツ×高齢者福祉」の取り組みが、そのヒント(あるいは救い)のひとつになるのではないかと、大真面目に考えさせられる講演であった。