
第30回「震災対策技術展」のセミナーに登壇した株式会社Spectee代表取締役CEO 村上建治郎氏
大雪による交通網の混乱や暴風雨による洪水、大規模な山火事の発生など、自然災害による被害が苛烈さを増している。
こうした災害が発生した際に、デジタル技術やAIを活用して被害の拡大を防ぐ取り組みは以前から見られたが、最近はAIを用いて災害の発生や被害を予測するシステムの開発も見られるようになった。特にここ数年は、生成AIの登場により、新たなフェイズに入る可能性が出てきたようだ。
2026年2月5日・6日にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて、第30回「震災対策技術展」が開催された。その中で、株式会社Spectee(東京都千代田区)代表取締役CEOの村上建治郎氏が登壇。「AIで変わる防災DXの最新事例 ~ SNS・衛星・AI、Specteeが挑む未来の防災 ~」と題した講演を行い、AI予測の最新状況をレポートした。
村上氏が起業したきっかけは、2011年の東日本大震災でのボランティア経験だ。当時、ネットワーク機器の会社で法人営業をしていた村上氏は、震災でダメージを受けたネットワークインフラの復旧対応のため被災地に入ったが、その凄まじい被害状況にショックを受けた。その後、ボランティアとして被災地を回る中で、避難所に張り出されていた(被災者が困りごとを伝えるための)メッセージボードの情報を、被災地外に発信するシステムを作る。これがSpectee創業の契機になったという。
現在は「危機を可視化する」というミッションを掲げ、自然災害などさまざまな危機をリアルタイムに「見える化」するサービスを開発・提供している。
具体的には、SNS投稿(主に画像・動画)や世界中のニュース、気象データ、衛星データ、交通データ、河川カメラなどからの映像を収集し、AIで解析。さらに専門チームがファクトチェックなどを行ったうえで、顧客に影響が出そうな場合は即座にアラートを飛ばし、状況の可視化や影響分析、予測などを行っている。
「世界中のいろんな(危機)情報をかき集めた、世界トップクラスのプラットフォームがSpecteeのサービスの根幹になっています」(村上氏)
なお、同社のサービスは「34の都道府県(全体の7割以上)」に加え、防衛省、消防庁、国土交通省など国の機関にも導入されているという。また、近年は民間企業でも導入が増えており、全国に店舗を持つ小売チェーンや製造業のサプライチェーンのリスク管理などに活用されているとのことだ。
「2024年からは海外でも事業を展開しています。実際にフィリピンでは、政府や地方自治体など、そういったところで(120ライセンス)導入されています」
こうした「危機の可視化」に努める村上氏が、今特に注目しているのが「AIを活用した災害予測」だ。自然災害の予測といえば地震が話題になることが多い。村上氏は、地震の予測は非常に難しいものの、洪水や天気などの予測についてはAIを活用することで「精度がかなり上がっている」と話す。
「我々も『AI洪水予測』というものを非常に早い段階から進めており、2025年1月に全国ではじめてフルAIで洪水を予測して予報を出すシステムで、気象庁の民間予報の免許(洪水予報業務)を取得しました」
他に村上氏が「興味深い事例」として提示したのが、2025年9月に米国で行われた「台風の進路を予測する」取り組みだ。
これは、昨年9月に発生したハリケーン・イメルダの進路をAIと人が予測したもの。9月25日時点で、Google Weather Lab(Googleの気象ラボ)がAIを使って予測したところ「アメリカ大陸に上陸しない」という予測が出た。その一方で、同時点で人が従来型の気象予報の手法で予測したところ、「アメリカ大陸に上陸する」という結果が出た。つまり、AIと人で全く異なる予測が出たというわけだ。
では実際の進路はどうだったかというと、イメルダはアメリカ大陸に上陸せずに大西洋側に進んで行ったという。
「つまり、正解したのはGoogleだったというわけです。このように、(従来型の)気象予報と比べてもAIの方が精度よく、AIを使っていろんな予報ができるようになってきました。これからAIを使って災害の予測を行うものがどんどん出てくるだろうと、そんな状況です」
ただし、従来のAI予測の精度を上げていくためには、たくさんの因子を考慮し、膨大な過去データを投入する必要がある。
「それをやろうとすると難しくて、全ての因子を考慮(準備)することはなかなかできません。さらに過去データが増えるほど、処理時間に膨大な時間がかかるため、高性能なコンピューターやスーパーコンピューターが必要になります」
このため現時点では、Googleのように「とにかく大量の過去データを集めたもの勝ち」であり、ここが「(従来の)機械学習やニューラルネットワークモデルの限界だった」と村上氏は指摘する。しかし、こうした状況が大きく変わる可能性が出てきた。それが生成AIの登場だ。
村上氏によると、人間は「過去の経験値」と「想像力」の2つを使って未来を予測しており、何かわかっていない要素があったとしても、過去の経験に想像力を加えることで「わからない部分を補いながら予測する能力」が備わっている。
当然ながら、従来のAIにはこの「想像」する能力は備わっていないが、生成AIは「この想像に近いこと(データにないことを補うこと)ができるようになっている」という。
「生成AIは、いろんな過去の情報から新しいものを作り出しましょうという仕組みになっています。このため、人間がやるような想像や試行錯誤の過程などがうまくできるようになっている。こうした生成AIの技術を取り入れることで、予測というものが変わってくるのではないかと思います」
村上氏が調べた限りでは、災害予測に生成AIを活用したモデルでオープンになっているものは今のところない。しかし、研究開発は確実に行われているはずだという。Specteeにおいても状況は同じで「来年もし講演する機会があれば『こんな新しいものができました』と発表できるかもしれない」とのことだ。
なお、予測するのが難しいとされる南海トラフ地震についても「生成AIを使って想像力のようなものを加味できれば、従来とは違う予測ができるかもしれない」と新たな可能性を示唆した。
気候変動などもあり、今後ますます自然災害は増えていくことが予想される。そうした中で、災害の発生をより精度高く予測できるようになれば、被害の大幅な低減にもつなげられるだろう。防災分野における生成AI活用に期待したい。