2026年3月10日から13日、東京ビッグサイト(東京都江東区)にて「FOODEX JAPAN2026」が開催された。半世紀以上の歴史を持つ国際食品・飲食展だが、近年はスタートアップの参加も多い。
「START UPステージ」では、食にまつわるさまざまな分野のスタートアップが登壇。その中でも、株式会社CULTA(本社:東京都小金井市) 代表取締役CEOの野秋収平氏の「次世代フルーツ品種で挑む日本発グローバル農産物生産・流通モデル」と題した講演が会場の注目を集めていた。
同社は、気候変動が農作物に悪影響をもたらす中で、「新品種」を高速に開発する独自技術によって課題を解決しようとしている農業領域のディープテックスタートアップだ。
独自技術で「新品種」を高速開発
「最近、こんなニュースをよく見かけませんか?」と野秋氏は口火を切った。モニターには、暑さによって焦げたような色になったブドウや、胴割れ(ヒビ割れ)を起こしたリンゴなどが映し出され、「気候変動によって農作物が大きな被害を受けている」ことが報告された。また、近年コーヒー豆やカカオ豆など嗜好作物の値段が高騰しているが、これも気候変動で収量が減っていることが主な要因のひとつだという。
「実際に精度の高い予測も出てきていて『2050年頃にはコーヒーの生産面積が半減する』だとか、日本国内でも『30年後には長野でリンゴは作れなくなる』とも言われています。東京にいるとなかなか気づかないのですが、夏の暑さや、気候変動は農業分野にかなりの影響を与えているのです」
こうした状況を改善するために、野秋氏が提案するのが「気候変動に打ち勝つ新品種の開発」だ。
野秋氏によると、たとえば温暖化した暑い環境下でブドウを栽培しようとする場合、まず思いつくのが冷房ハウスを建設することだが、これには数千万から数億円の設備投資が必要になる。しかし、CULTAが提供するような耐暑性品種を導入すると、1本2千円ほどの苗を購入するだけで簡単に気候変動対策ができるという。「端的に言えば、品種(による対策)は非常にコストパフォーマンスが高いということです」
ところが品種開発にはひとつ難題がある。それが「品種開発に長い時間がかかってしまうこと」だ。たとえば「野菜だと10年、果物だと30年もの時間が当たり前のようにかかってくる」という。
これに対して同社では独自の「高速品種開発」技術(特許出願中)を開発している。これにより、気候変動に打ち勝つような新品種を「これまでの約5倍速」で開発できるとのことだ。
同社の技術を簡単に説明すると以下のようになる。まず使用しているのは、農作物のゲノム情報をベースにした「育種AIモデル」だ。これを使うことで従来の手法よりも確度高く品種改良を進めることができるという。また一般的に品種改良では、植物を育てて花を咲かせて、交配をするというプロセスを何度も繰り返さないといけないが、同社では、通常は生産のために使う植物工場を、品種改良のために使うという新しいアプローチにより、幅広い気候帯で高品質・高収量を実現する品種を高速で開発できるという。
なお、同社の技術は「ゲノム編集」や「遺伝子組み換え」とは異なる。「人類が約150年続けてきた『交配育種』という伝統的な手法を高速化したもの」であり、流通上の規制とも無縁だ。
「気候変動に強く」「硬い」イチゴ
野秋氏らはこの「高速品種開発」技術を使って、まずはイチゴの品種開発を行い、通常10年ほどかかるところを、わずか2年(約5倍速)で最初の新品種「CULTA-T3L(SAKURA DROPSⓇ)」を開発した。
「CULTA-T3L」の特性のひとつが「気候変動への適応性を持つこと」だ。野秋氏によると、イチゴの出荷期間は12月から6月だが、最近は4月になると30度を超すような暑さに見舞われるため、品質や出荷量の低下につながり、農家の売り上げが減少している。しかし、「CULTA-T3L」は春先の暑さに強く、6月まで出荷することができるという。
「その結果、既存の品種を今の気候変動環境下で栽培したのに比べると、収量は約1.4倍にまでアップすることがわかっており、気候変動に十分対応可能な品種を作ることができたと考えています」
ちなみに、農家の売り上げは、簡単に言うと「収量×単価」になるが、CULTAではこの「単価」を上げるための対策も打っている。一般的に、品種開発業界のプレイヤーである種苗会社などは、生産者に種や苗を販売して利益を得るビジネスモデルになっている。しかし同社では、生産者を「顧客」ではなく「パートナー」と位置付け、種や苗を渡して、できあがった農作物を原則「固定単価」で、「全量買取」し、自社ブランドとして販売している。このため、生産者にしてみれば、新規設備投資ゼロで気候変動対策ができるうえ、安定した販路も獲得できるというわけだ。
実際に農家からも好評を得ており、「新品種の普及活動を開始してから約3ヶ月で100件ほどの導入が進んでいる」とのこと。また、同社が開発した品種は、気候変動に強いことに加え、それぞれ「尖った特徴」も有しているという。たとえば「CULTA-T3L」(イチゴ)であれば、日本品種特有の甘さに加え、輸送しても果実が傷まない「硬さ」も合わせ持っている。
これまで日本のイチゴは、味はおいしいものの、柔らかすぎて完熟で出荷すると傷んでしまうため、甘さを少し犠牲にしてでも熟す前の状態で出荷することが多かったという。これに対して「硬さ」を持つ「CULTA-T3L」は、完熟状態で海外などにも出荷できるため「日本のイチゴ狩りで感じるおいしさをそのまま海外にお届けできる」とのことだ。
海外で生産し、海外で販売
現時点では、CULTAは日本生産したものを国内および海外で販売している。しかし、同社の事業の目標は「海外で生産して海外で販売すること」であり、すでに同社はマレーシアでのイチゴ生産に取り掛かっている。
マレーシアと日本の温度差は15度ほどあるが、同社の品種であれば「おいしい日本品質のイチゴが十分現地で生産可能」となる。この強みを活かして現地生産することで、東南アジア市場において低コストで大量輸送できることに加え、日本から農産物が出荷できない時期も含めた通年出荷が可能となる。
さらにマレーシアだけでなく、オーストラリア、ヨーロッパなど12の国と地域から展開依頼が来ており、今後ビジネスが大きく拡大する可能性が高いとのことだ。
また、同社の「高速品種開発」技術は、他のフルーツや嗜好作物にも転用可能であり、すでにブドウやリンゴなどの新品種開発にも着手しているという。
「世界中が欲しがるような『圧倒的な品種』を日本からもう一度創ることを目指す」と締めくくった野秋氏。日本の農業を大きく変える可能性を感じる講演であった。
※株式会社CULTAは株式会社デジタルガレージグループの出資先の一社となります。
