AIの進化が加速する中、データセンターのあり方が変化している。従来のデータセンターは、主に企業の業務やサービスを支えるストレージ施設や通信インフラとしての役割が大きかったが、生成AIの登場後は、LLM(大規模言語モデル)の膨大な処理を行うための計算能力と、それを支えるための電力、冷却設備が求められるようになった。また、このことが電力や通信などさまざまな周辺業界にも変化をもたらしている。
2026年3月24日から25日に、東京都立産業貿易センター浜松町館(東京都港区)にて「Data Center Japan 2026」が行われた。特定非営利活動法人 日本データセンター協会 理事長/さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏による基調講演「AI時代の国家インフラとしてのデータセンター~産業成長・GX・安全保障をどう両立させるか~」から、こうしたデータセンターを取り巻く変化の概況を探ってみたい。
データセンターは国家の重要インフラへ
田中氏は、さくらインターネットを設立してからの約30年間を振り返り、「データセンター(の位置付け)が非常に激しく変化している」と説明した。
まず1990年代の黎明期においては、データセンターは企業のサービス提供の基盤という位置付けであり「コンピューターの置き場所(電算室)程度」の認識だったと振り返る。
これが2000年代のインターネット普及で大きく変わる。企業が保有するサーバーやデータ通信機器を預かり、高速インターネット接続環境を支える「インターネットデータセンター(IDC)」の役割を担うようになる。
そして2020年以降、生成AIの台頭とともに、LLMの膨大な計算処理に対応した施設、いわゆる「AIデータセンター」としての役割を強く求められるようになり「指数関数的に需要が高まって」現在に至る。また、国内産業の発展を左右する重要インフラとしても位置付けられ「国家戦略や安全保障の対象へ転換」しているとのことだ。
「今(イランなどで)戦争が起こっていますが、それもAIがベースでなされている。AI利用の是非についてはここでは申し上げませんが、AIが国の存亡をかけるぐらいの重要なポジションになってきていて、(データセンターも含め)これまでのITの延長線ではなくなっていると、強く申し上げたいと思います」(田中氏)
電力会社との連携が“鍵”になる
最も注目すべき動きのひとつとして田中氏が提示したのが、「ワット・ビット連携」だ。
これは、生成AIの急速な浸透に伴い、電力消費や通信量が急増すると考えられる中で、電力インフラ(ワット:W)と通信インフラ(ビット:bit)を連携させ、効率的に社会基盤を構築する取り組みを指す。簡単にいうと、現状では発電所とデータセンターが離れているケースが多いが、今後は全国各地にある発電所の近くにデータセンターを設け、電力を効率よく供給しながら、データセンターの地域分散も実現していこうという考え方だ。
この「ワット・ビット連携」の実現のために期待されているのが、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network :NTTが提唱する次世代通信インフラ構想)をはじめとする光ファイバーの重点整備だという。
田中氏によると、現在全国に張り巡らされているネットワークは「メッシュ状」になっている。
「メッシュ状ということは、いろんなところに寄り道をしているわけです。要は(車でいう)下道がたくさん走っているようなものです。しかし、IOWNをはじめとする光ファイバーの重点整備がなされていくと、(高速道路のような)直結するような光ファイバーができて、その間のレイテンシー(遅延)も小さくなり通信性能もどんどん上がる。すると、電気を作っている場所にデータセンターを作った方がいいのではないかという話になってくるわけです」
つまり、現状ではデータセンターの立地は東京・大阪周辺に偏っているが、発電所は九州や中国地方、北海道など全国各地にあるため、東京・大阪以外にもデータセンター拠点が分散されてもよいのではないかというわけだ。
「現在ウェルカムゾーンマップというものが電力会社から発表されていますので、今の集中地域以外に、いかにデータセンターを電力網に沿って配置していくか。これが、これから5年ほどでやるべきことだと考えられます」
既存ではなく、新たなインフラ構築を
さらに田中氏は、今後データセンター業界は新たなインフラを構築していくフェイズに入るとし、積極的な投資を来場者に呼びかけた。
田中氏によると、これまでデータセンター業界は「既存のインフラ上で勝負してきた」という。
たとえば、固い地盤と高い電力供給能力を背景に多くのデータセンターが集積する千葉ニュータウン(印西エリア)についても、「ずっと売れ残っていたバブル期に開発された場所が、データセンター建設の立地として注目を浴びた」ものであり、結局は「先人が作ってくれた場所でしかない」と指摘する。
さくらインターネットが、データセンターを置く北海道の石狩や苫小牧などの拠点も同様だ。もともとその場所で事業運営していた企業が手放した場所を入手したものであり、「先人が作ったインフラを安く使える状態をこれまで享受してきた」という。
「これは、発電や送電(のインフラ)も同じです。何しろ2011年の震災以降、消費電力がどんどん減ることを想定して(エネルギー)計画が立てられてきたわけですから」
しかし、2025年2月に発表された「第七次エネルギー基本計画」において、「これからの電力消費はデータセンターに牽引される形で増えていく」ことが示され、これはすなわち「既存の発電所や送電網におんぶに抱っこはできなくなる」ことを意味すると田中氏はいう。
「こうした中で、先人たちが作ってくれたインフラを利用するのではなくて、新たに我々が、50年後、60年後の人たちのために、インフラを作っていく必要が出てきました。(中略)全てのレイヤーで、過去に育成されたもの、作られたものではなく、これから我々が新たに人材を作り、土地を開発し、送電網を作り、新規の投資をしていかなければならない。(今が)こうした転換点にあるということを、力強くお伝えしたいです」
世界の事業者も日本に目を向けている
講演の終盤で、海外のデータセンター事業者も「日本にデータセンターを作りたがっている」ことにも田中氏は言及した。
「これは2つの要因があると思います。ひとつが、世界情勢がきな臭くなっている中で、日本の地政学的な安定性への評価が高まっていることです。もうひとつが、私たち日本人が海外にデータを置きたくないという中で、海外の事業者を選ぶ際に、日本にデータセンターがあるかどうかを重視し始めていることです。つまり、安全保障上、日本人だけでなく他の国の人たちも、この日本という場所をいかに使っていくかが重要になってきているというわけです」
今回会場に足を運んで驚いたのは、ここ数年筆者が取材した展示会の中でも、飛び抜けて多くの来場者が詰めかけていたことだ。ものづくりに長けた日本企業にとっては、AIを支えるインフラやその周辺にこそ、大きなビジネスチャンスを見出せる可能性があるのかもしれない。
