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プラスチックでCO2吸収「日常を回収スポット」に 国内スタートアップの挑戦

株式会社ベホマルが提供する「バイオマスCO2吸収材『美環(びのわ)』」の利用イメージと製品例(以下、全ての画像提供:ベホマル)

株式会社ベホマルが提供する「バイオマスCO2吸収材『美環(びのわ)』」の利用イメージと製品例(以下、全ての画像提供:ベホマル)

 温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を実質ゼロに抑えるカーボンニュートラルを目指すさまざまな取り組みがはじまって久しい。カーボンニュートラルの実現といえば「二酸化炭素(以下、CO2)の排出量を減らす」取り組みがこれまで注目されてきたが、実はもうひとつ、大気中の「CO2を回収・除去する」アプローチも必要になる。

 この「回収」には、CO2を回収するための大型プラント装置の設置や森林の植樹が用いられていたが、巨額の資金や時間がかかることがネックとなっていた。

 こうした大掛かりものではなく、誰もが参加できるような取り組みとして「CO2を吸収するプラスチックを日常生活に取り入れる」ことを提唱するスタートアップがある。それが、大手電子部品メーカーで材料開発に携わった経験を持つ西原麻友子氏が、2022年に設立した株式会社ベホマル(滋賀県草津市)だ。同社が手掛けているのは、CO2を吸収するプラスチックを生み出す添加材「バイオマスCO2吸収材『美環(びのわ)®』」の開発・製造だ。その特徴や事業状況について、代表取締役社長の西原氏に聞いた。

「日常をCO2回収スポット」にしたい

 美環とはどういったものか。西原氏によると、美環はプラスチックに混ぜることでその性能を向上させる「機能性フィラー(充填材)」の一種であり、これをプラスチックに混ぜることで、CO2を吸収するプラスチック「DACプラ®※」を作ることができる。

※DAC=Direct Air Capture:大気中からCO2を回収する技術

 この「DACプラ」を日常生活に広く取り入れてもらい、「『塵も積もれば山となる』という考え方で、CO2を回収していく」ことが西原氏らの狙いだ。

 なお、昨年(2025年)京都大学 特別教授の北川進氏が、さまざまな気体を貯蔵できるMOF(金属有機構造体)材料の開発でノーベル化学賞を受賞したが、美環はこのMOF材料の一種でもある。もともと発明したのは、米国ノースウェスタン大学のジェームズ・フレイザー・ストッダート教授(2016年ノーベル化学賞受賞)で、ベホマルはこのフレイザー教授から独占ライセンス権を獲得し、美環の開発・製造・販売を行っている。

「CO2吸収能力」と「安全性」を両立

 美環の強みのひとつが「CO2を吸収する能力」と「安全性」の2つを高いレベルで持ち合わせていることだと西原氏は強調する。

ベホマル代表取締役社長 西原氏

 基本的にCO2を回収するプラント装置で使われる素材は「性能は良くとも、毒性や危険なものが多い」という。たとえば、最もCO2の除去能力が高い「アミン系吸収液」の場合、人が吸ってしまうと呼吸困難に陥る可能性が高く、この液が蒸発したガスすらも回収する必要がある。

 それに対して美環は、ジャガイモやトウモロコシのデンプンから作られているため、口に入れても問題ないほど安全性が高く、簡単に日常生活に取り入れることができる。加えて、一般に安全だと言われているCO2吸収素材の活性炭に比べて「8倍から10倍(美環の添加量3〜20%の場合)ものCO2吸収能力」があるとのことだ。

 さらに美環は「一般的な環境配慮型素材が導入において抱える課題もクリアしている」という。リサイクル樹脂や生分解性樹脂(微生物によって分解され自然に還るプラスチック)、バイオマス素材を入れた樹脂など環境配慮型素材と呼ばれているものは、環境には良いものの「機能や物性面で問題が生じるケースが非常に多い」とのことだ。

「そもそも脆いとか、折れやすいといった機械強度が足りないものや、異物混入により(加工の際に)金型が痛んでしまう素材も少なくありません。そのほかにも、臭いが発生してしまったり、着色できなかったりする、といった問題が起き、コスト以前に機能や物性面の課題によって導入に至らないケースが多いのです」

 一方、美環は「こうした機能や物性面での問題が生じにくいことが、最近の開発でわかってきた」という。さらに少量添加(3〜20%)でも機能を発揮するため、「コスト面の負担が少ないことも大きなアドバンテージ」だと西原氏は自信をのぞかせた。

美環は「CO2吸収能力」と「安全性」を兼ね備えている

「機能」アピールへの転換も視野に

 ベホマルのビジネスモデルは「粉の美環」「ペレット状の美環」、美環を添加した「DACプラ」を販売していくというものだ。

 ビジネス上の強みとしては、まず「さまざまなプラスチックに入れることができるため、(顧客となる企業にとって)材料変更のコストがかかりにくい」ことが挙げられるという。また「主に日用品を対象にしているため(DACプラを使ったものが)一般の人の目につきやすい」ことも強みとなる。なぜなら現時点では、企業が環境商材を導入する際には、広報やブランディングが目的であることが多いからだ。

「加えて、私たちベホマルとしても『単一材料を作る』ことに専念できるため、非常にスケール(事業拡大)しやすいというメリットがあります」

 こうした利点もあり、ベホマルの環境商材は、アウトドア商品や建材資材・内装材、企業のノベルティなどで評価、導入が広まりつつある。

 しかし「『環境に良い』というだけでは、なかなか導入が進まない」ことが課題のひとつだという。

「(素材を使う)企業にとっては、まず『コスト』『機能』があって、その何番目か後に『環境』が入る。つまり『環境』は優先順位が低いのです。そのため『環境』を売りにしていると、なかなか事業が拡大していきません」

 そこで西原氏は、企業などに売り込む際に「入り口を『環境』ではなく、『機能』をアピールする」方向に転換しようとしている。

「つまり(先述した)機能や物性面での強みをまず打ち出していこうと。また、最近では(美環を入れることで)物性が上がる可能性も見えてきたので、そうした利点を前面に出しつつ、プラスαで環境にも良いと訴える。そういったストーリーに変更しようかと思案しているところです」

 なお、商社や商品開発メーカーなどとの協業についても「積極的に進めていきたい」とのことだ。

 西原氏らが目指しているのは、身の回りのプラスチックを使ってCO2を回収することだ。しかし、これは一時的な閉じ込めでしかなく、プラスチックが燃やされてしまうと全て大気中に出ていってしまうことになる。

 そのため、将来的には閉じ込めたCO2自体を除去する技術が必要になるが、「DACプラを広く使ってもらうことで、そうしたことを考えるきっかけになれば」と話す。

「要は、タイムカプセルのイメージを持ってもらえればと思います。今すぐCO2を除去する技術はまだできていませんが、おそらく10年、20年すればできるだろうと。しかし、ただ10年、20年待っているのではなく、その間も少しでも大気中のCO2をタイムカプセルに閉じ込めていき、新しい技術ができたら、すぐに除去していこうと。そうした新しいエコシステムを作りたいと考えておりますので、協業いただける企業様がいらっしゃったら、ぜひお声がけいただければと思います」

 西原氏らの取り組みが、広く社会に浸透していくことを願う。

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