子どもの貧困や地方の過疎化、気候変動など、世の中にはさまざまな社会課題が山積している。真正面からその解決に取り組む団体には、主に寄付や補助金などで運営されるNPO法人などが多い。なぜなら、一般企業が社会課題の解決で利益を上げ、継続的に成長していくことが難しいケースが多いからだ。
こうした中、あえて「株式会社」として社会課題の解決に取り組むスタートアップがある。商社やコンサルティング会社で経験を積んだ木戸優起氏が、2022年に立ち上げたネッスー株式会社(本社:東京都世田谷区)だ。
「こどもの機会格差の解消」をビジョンに掲げる同社では、子ども・子育て支援、地域創生、食品ロス、資源循環などの領域で社会課題解決型の事業を生み出し、それぞれが「ビジネスとして自走しながら成長していくこと」を目指している。
代表取締役の木戸氏に、主要事業のビジネスモデルや、株式会社として社会課題に取り組む狙いを聞いた。
ネッスーが取り組む3つの事業
木戸氏によると、現在ネッスーが主に取り組んでいるのは、「サーキュラーエコノミー事業」「食と子育て支援事業」「地域創生事業」という3つの事業だ。
まず「サーキュラーエコノミー事業」とは、次世代に豊かな環境を残すため、廃棄物を捨てることなく有効活用する循環モデルを構築するものだ。具体的には、工場や店舗などから排出される古紙やプラスチックなどを預かり、それを原料にして段ボールやプラスチック容器などを作り、販売する。
排出資源を出した工場や店舗にリサイクルしたものを戻したり(販売)、リサイクル率などを管理できるシステムを提供したりすることで、各社に循環状況を把握してもらいながら、最適なサプライチェーンで資源が循環する仕組みを作ろうとしている。
「食と子育て支援事業」は、食品メーカーや食品卸業者などが抱える未利用食品を、地域の子ども食堂や生活に困難を抱える子育て家庭に、手に入れやすい価格で提供する取り組みだ。
たとえば、バレンタインのチョコレートなど、キャンペーン用に作った食品は、イベント時期が終わってしまうと、まだ賞味期限が残っていても販売が難しくなる。ネッスーは食品メーカーや食品卸業者などと連携しながら、こうした未利用食品を通常の流通に混載(積み合わせ)したり、一元管理したりする仕組みを構築し、子ども食堂や困難を抱える子育て家庭などに届くようにしている。
さらに別の取り組みとして、スーパーマーケットなど小売店で出た残存賞味期限が少ない生鮮食品や日配品を、地域の子育て家庭に届けるための食品マッチングアプリ「ステナス」も開発し、都内の4店舗で実証実験を行なっている。
子ども支援と地域産業を同時に
3つ目の「地域創生事業」は、地方自治体と連携し、ふるさと納税の仕組みを活用しながら、地域の特産品や体験を、子ども食堂や困難を抱えた子育て家庭に無償で提供するものだ。
具体的には「こどもふるさと便」というふるさと納税サイトを運営している。このサイトでは、ふるさと納税の寄付者は、寄付金の使い道を「ネッスーと地方自治体が行っている子ども支援のプロジェクト」に指定することができる。すると、寄付者は通常通り返礼品を受け取ることができ、同時に上記のような子どもへの支援も実施される。
ネッスーと北海道旭川市の連携事例をもとに「こどもふるさと便」の利用イメージを紹介しよう。旭川市はコメの一大産地だが、うまくブランディングができていなかった。そこで、旭川市とネッスーは、ブランディングを行うために、旭川産のコメを子ども食堂やひとり親家庭に無償で送り、ファンや知名度を拡大するプロジェクトを立ち上げた。
「ただ、お米を買い取る必要があり、その財源をどうするのかという問題がありました。そこで、この取り組みをふるさと納税とくっつけたのです。ふるさと納税(『こどもふるさと便』)で寄付金を募り、それを財源としてお米を買い、子どもたちに無償提供したというわけです」
この仕組みであれば、まず寄付者はこれまで通り、返礼品や減税を享受できるうえ、地域事業者は特産品の知名度が上がり、子どもたちもコメを無償で受け取れる。つまり「三方よし」の仕組みというわけだ。
「株式会社」にこだわる理由
木戸氏は、幼いころから「生まれた環境によって、子どもたちの得られる機会が変わる」状況をたくさん目にしてきた。これが子どもの機会格差の解消を目指すネッスーの立ち上げにつながったという。
「私自身は比較的恵まれた環境でしたが、そうではない人もたくさんいることを目にしてきて、そこにすごくモヤモヤを感じてきました。そんな思いから、子どもの格差を解消する取り組みに人生を使いたいと考えるようになりました」
ではなぜNPO法人ではなく、株式会社だったのか。木戸氏は「課題の解決量を増やすためには、その事業(取り組み)そのものも成長させる仕組みが必要」と考えたと説明する。
「今も社会課題として世の中に存在しているものは、ビジネスとして解決することが難しいからこそ残っているのだと思います。つまり経済合理性を持たせにくい。だからこそ、寄付や助成金でその領域に取り組むアプローチも正しいと思っています。しかし、それだと事業が成長していくイメージが描きづらいのも事実です。成長していくとは、すなわち解決される課題の量が増えていくことです。私たちは、成長を前提としたビジネスで社会課題を解決していこうと考え、株式会社を選んだのです」
ちなみに「サーキュラーエコノミー事業」と「食と子育て支援事業」における収益は、ものや食品を買い取り、それらを販売した差額から。「地域創生事業」は、自治体からの委託事業となっており、ふるさと納税の寄付金の一部が、ネッスーの収益源(委託費の原資)となる。
3つの事業はすべて、事業の成長と社会課題解決の量が連動しており、スケール(事業拡大)すればするほど、課題解決も進むよう設計されているとのことだ。
共感してくれる味方が必要
経済合理性が低い社会課題の解決にビジネスを持ち込むのは、並大抵の苦労ではないようだ。「複雑なビジネスモデルの構築」に加え、その社会実装のために「多くの人を巻き込む労力が必要」と木戸氏はいう。
「たとえば、未利用食品の活用でいうと、我々はいろんな食品メーカーや食品卸業者に横串を差して、データを一元管理できる情報プラットフォームを開発しようとしていますが、当然、複数企業の担当者からの合意が必要になります」
また未利用食品の買い取りに際しても「相手の会社の意思決定が、総務部、営業部、物流部門、商品開発など複数の事業部にまたがるケースが多く、各部門にKPI的に意味があることを理解してもらわないといけないため、膨大なエネルギーが必要になる」とのことだ。
「ただ、子どもの支援や子どもの体験格差をなくす取り組み自体には多くの人が共感してくれる」と木戸氏は前向きな姿勢も示す。
また、特に子どもがいる人は、自分ごととして感じて協力してくれる人も多く、「(自分が)転職してまで、こうした取り組みに関わるのは無理だけど、今の会社にいたままで関われるのであれば、『ちょっと一肌脱ぐわ』と言ってくださる人も少なくない。そういう方々がいるからこそ、私たちの取り組みが成立しているのです」
今後は、自らが掲げるミッション・ビジョンは堅持したうえで「10年以内に1000億円程度の売り上げに成長していきたい」と木戸氏は意気込む。さらに現在取り組んでいる3つの事業に加え、生活に困難を抱える子どもたちが教育を受けられるような支援事業も構築していきたいという。
なお同社は「IPOもM&Aも目指さない」が、今年中に資金調達は計画しており、「きちんとリターンを得られる形で設計しているので、ご興味がある方はぜひ」とのこと。
ネッスーの取り組みが社会に広まり、子どもの機会格差が存在しない社会が生まれることを期待したい。
