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宇宙空間での「溶接」技術開発 スタートアップが挑戦

株式会社Space Quarters代表取締役CEO 大西正悟氏

株式会社Space Quarters代表取締役CEO 大西正悟氏

 米国のスペースX社による宇宙輸送サービスの登場などにより、宇宙開発のスピードは加速している。しかし、この先人類が宇宙空間で豊かな経済圏・生活圏を築くには、インフラの整備が必要になる。それには宇宙構造物の「大型化」が欠かせないが、現時点では地上で「完成品」を組み立てたうえで打ち上げることが多く、そのためサイズ・形状に大きな制限があるのが現状だ。

 この課題を、新たな宇宙建築システムを開発することで解決しようとするスタートアップがある。それが、株式会社Space Quarters(本社:東京都渋谷区)だ。2022年に会社を立ち上げた代表取締役CEO大西正悟氏は、株式会社IHI(本社:東京都江東区)や株式会社WHILL(日本本社:東京都品川区)で機械開発や設計に携わった経験を持つ。

 同社は、宇宙利用に適した電子ビーム溶接機や独自のロボットシステムを開発し、宇宙空間で大型構造物を製造・組立・修正できる技術プラットフォームを確立しようとしている。大西氏に、取り組み内容や展望を聞いた。

必要なのは「宇宙溶接」と「ロボットシステム」

 同社が想定している宇宙での大型構造物の構築手順は、まずパネル状の建材を宇宙に打ち上げ、それらを宇宙空間で接合して組み立てていく手法だ。そのためには宇宙空間で自動的に動く「ロボットシステム」と、パネルをつなぎ合わせるための「接合技術」が欠かせないという。Space Quartersが注力しているのは、このロボットシステムと接合技術の開発だ。

 ロボットシステムについては、一般的に宇宙開発で用いられるロボットアームシステムとは異なる「新しいもの」だという。

 大西氏によると、宇宙空間に運び込まれた建材を使って構造物を組み立てるためには「建材(パネル)を輸送し、収納物から取り出す」作業と「それらの建材を所定位置に設置する」作業、そして「建材を接合する」作業の3つが欠かせない。同社では、これらの作業を汎用的なひとつのロボットで行うのではなく、特定の作業をする3種類のロボットシステムを使って行うことを想定している。

「ロボティクスというと、高度なセンシングやAIを使うと思われがちですが、私たちは全く違う、ファクトリーオートメーション(工場における生産自動化システム)に近いものを考えています」

Space Quartersが開発するロボットシステムのイメージ(画像提供:Space Quarters 以下の2枚も同様)

 もうひとつの接合技術については、ボルト留めなどさまざまな接合技術を検討した結果、「宇宙空間における接合には『電子ビーム溶接』が最も適している」との考えに至ったという。

 電子ビーム溶接とは、真空(チャンバー)中で加速・収束した熱電子を、金属に衝突させて、溶融・接合する溶接技術だ。「深くて細い溶け込み」と「最小限の熱歪み」が特徴で、高精度な接合技術が求められる自動車や航空機のエンジン部品などに用いられている。

 大西氏によると、たとえば地上で一般的に行われている(工場で面をかぶった職人が火花を散らしている)「アーク溶接」はガスを使うため、真空だと、ガスを狙った箇所に吹き付けることが難しく、宇宙空間ではうまく使えない。一方、電子ビーム溶接は「もともと真空チャンバー内で溶接する “真空ネイティブ”な技術なので、宇宙空間と相性がいい」という。

電子ビーム溶接機のイメージ(画像クリックで拡大)

 他にも真空で使える溶接技術として、レーザー光を使う「レーザー溶接」があるが、これは電気を光に変換していることに加え、金属に入熱する際に光が反射してしまうため、エネルギー効率が低い。これに対して、電子ビーム溶接は、電子の運動エネルギーで入熱することもあり「システム全体のエネルギー効率が80%以上」と非常に効率がいいとのこと。

「こういったメリットを考え、宇宙利用に適した超小型・軽量の電子ビーム溶接機を開発しています」

 現在地上で使われている一般的な電子ビーム溶接機は「100kg以上」と重く大きなシステムだ。しかし同社では現時点で「7kg以下」と大幅な小型・軽量化を実現(最終的には5kg以下を目指す)しており、「自社開発しているロボットシステムや、ロボットアームでの取り回しに適したものが出来上がりつつある」と大西氏は自信をのぞかせる。

「レゴリス(月の砂)」の溶接も可能

 ちなみに、電子ビーム溶接を宇宙空間で用いるアイデアは1980年代の米ソ冷戦時代にもあり、ソ連の宇宙飛行士が実証を行っている。しかし当時はロボティクス技術が未発達で、開発は下火になった。

 現在では、米国のThinkOrbital社がロボットアームを用いた自動溶接技術(電子ビーム溶接)で軌道上に大型構造物を作る技術を開発しているほか、NASA(米国航空宇宙局)も「宇宙溶接がこの先重要になる」と明言し、研究機関に研究を促しているという。

 そうした中で、Space Quartersの強みは「電子ビーム溶接機の小型・軽量化」を実現していることに加え、「ロボットシステムを含めた総合的な宇宙建築システムを自社で開発している」点にあると大西氏は強調する。

「電子ビーム溶接機にしても、どう入熱するかといった根本の技術から始めていますし、その要求仕様に合わせて、電子ビーム銃や電源などを全て社内開発し、それらを組み合わせ、全体最適を行いながらひとつのプロダクトとして作っています。このように全て自分たちの手で、宇宙建築システムとして作り上げられていることが我々の強みです」

 加えて、「レゴリス(月の砂)の溶接ができる」ことも強みとなる。現在、地球から月面に物資を運ぶためには「1kgで1〜2億円かかる」と言われており、月面で基地を作るためには、現地で調達できる材料、すなわちレゴリスの活用が期待されている。

 しかし、レゴリスは熱伝導率が低く、特に真空状態では「外が焼けても内側に熱が入りにくく、溶接が困難」という課題があった。一方、大西氏らの電子ビーム技術を使えば、短時間でレゴリスの一定以上の深さまで入熱でき、溶接可能であることを「1/6Gの月重力模擬環境で実証済み」とのことだ。

大林組より提供の「月面レゴリス焼結体」を対象とした溶接技術の開発・実証に成功(画像提供:Space Quarters)

「レゴリスを溶接する技術自体、世界初となります。我々の技術が(将来の)持続的な月面活動を支える基盤技術になると確信しています」

宇宙開発への思い

 大西氏の学歴とキャリアは「夢のあるものを創りたい」という思いで貫かれている。

 東北大学に入学した大西氏は、ロケットを開発するサークルを自身で立ち上げ、3年後に打ち上げに成功する。その際、“ニュースペース”(民間主導の新しい宇宙開発の動き)の世界に身を投じることを決意したという。

インタビュー中の大西氏

 ただ、そのためには「複数分野の知識を身に付けること」が必要だと考え、まずは大学院で熱流体を学ぶ。博士課程修了後は、専門分野の知見を産業界で活かすためにIHIに入社し、世界初となるアンモニア・都市ガス混焼ガスタービンを開発する。次にものづくりの知見を得るべく、パーソナルモビリティ開発のスタートアップWHILLにて、フラッグシップモデルの設計などを経験。その後、当初の目標であった宇宙スタートアップ、Space Quartersを立ち上げた。

「我々は(大学や大企業の)研究室からのスピンアウトなどではなく、全くの“野良ベンチャー”としてスタートしています。設立当時は東大阪にある実家の町工場の片隅で、ロボットを作り、メンバーの家の中に実験装置を並べるなどし、開発を進めていました。なお、我々の作っているものは新しいものなので、当然経験者はおらず(未知の分野については)『学ぶしかない』というのが、当社のモットーです。新たな知見が必要になるたびに、専門家に話を聞きに行くなど、少数精鋭のメンバーで積極的に知識を吸収しながら開発を進めています」

「2029年の宇宙実証」を目指して

 2026年3月に、Space Quartersは、航空機を用いた試験により、宇宙真空環境および微小重力・月面重力模擬環境での溶接実証試験を行い、金属材料や月面レゴリス建材の溶接に成功したことを発表している。

「これにより、自社開発の電子ビーム溶接機を用いて、宇宙環境で溶接ができることを示せました」

 今後の開発のマイルストーンとしては、「ロボットを含めた全体システムの実証を宇宙空間で行うこと」を想定しているという。

「ロボットを使って軌道上で何かの構造物を組むことは、まだ人類が成功していない大きなチャレンジです。我々は2029年には、この宇宙実証を実現したいと考えています」

 順調に技術開発を進める同社だが、「事業面」の課題は少なくない。まず「宇宙構造物の建築をオートメーション化する」という事業自体が壮大に聞こえるため「夢物語ではないことを理解してもらうことが難しい」という。加えて、大西氏らが顧客とともに建築しようとしている大型の宇宙構造物は人類がはじめて手にするものなので、ほとんどの場合「具体的なユースケース」を顧客と一緒に考えなければならない。

「先頭を走るプレイヤーと一緒にビジョンとマーケットを作っていかないといけません。この点が難しいところであり、やりがいを感じる点でもあります」

 乗り越えるべき課題は多いものの、大西氏は「人類にとって必要な技術ですので、絶対にやり切ります」と決意を示す。今後も力強い歩みを期待したい。

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