
「自治体・公共Week 2026」の講演に登壇する徳島県美波町 総務課デジタル自治推進室主査の大地辰弥氏
日本全国で人口が減少する中、存続の危機に立たされている自治体も少なくない。そうした中で、職員数が限られる小規模自治体では、AI活用を「生存戦略」に位置付け、積極的に取り入れる動きも見られるようになってきた。
そのひとつが、徳島県の南部に位置する人口約5400人(2026年時点)の美波町だ。アカウミガメの産卵地である大浜海岸があることでも知られる同町では、「全職員によるAI活用」を生存戦略として位置付け、特別なスキルがない職員でも「当たり前」に使いこなせる体制や教育活動に力を入れている。
2026年5月13日〜15日に、東京ビッグサイト(東京都江東区)で「自治体・公共Week 2026」が開催された。その中で、徳島県美波町 総務課デジタル自治推進室主査の大地辰弥氏が登壇し、「『弱者』の生存戦略〜全職員が当たり前にAIを使いこなす『仕組みづくり』〜」と題した講演を行った。
同町では具体的にどのような取り組みを進め、どのような効果が出ているのか。大地氏の講演に足を運んだ。
講演の冒頭で大地氏は「55万人」という数を提示した。これは2024年の1年間、日本で減少した人口(総務省統計局2025年4月14日公表)で「鳥取県民の人口よりも多く、政令指定都市レベル」に達しているという。こうした急激な人口減少が起こる中では、「AIなど破壊的な技術を大胆に取り入れないと、(人材不足に悩む小規模自治体などは)存続できなくなる」と危機感を示した。
さらに、大地氏は美波町のDX推進企画として作成したひとつのグラフも提示する。このグラフによると、「一切デジタル化をしなかった場合」には、2034年には行政サービスを維持できなくなる。「DXは進めるが人材育成をしなかった場合」や、「役場のみDXを進めた場合」も、2040年前後に基準スコアを下回るとした。しかし「役場の職員と住民が(たとえば観光業などで)ともにDXを進めていった場合」には「行政持続可能性」は維持されるとし、「今後は住民を巻き込んだ形でDXを進めていく必要がある」と述べた。こうした背景のもと、まずは役場の事務作業などをDXで効率化する取り組みを進めているとのことだ。
大地氏によると、大きな転換点のひとつが、2024年に実施したマイクロソフト社の「Azure OpenAI Service」の導入だ。
「それ以前から生成AIの有用性には注目していたのですが、機密情報漏洩のリスクがありました。そうした中でAzure OpenAIは、閉じた環境(マイクロソフト社のクラウド基盤『Azure』上)で生成AIを扱えるようになるということで注目していたところ、世田谷区役所がサポート会社(株式会社クラウドネイティブ)の支援を受けながら、Azure OpenAIを活用して内製で(生成AIを使える環境を)構築したというニュースを聞きました。我々もさっそくそのサポート会社に連絡を取り、システムを構築したという経緯になります」
これをもとに、美波町では職員が普段使っているチャットツールのTeams内で、ChatGPTを使える仕組みを内製した。その際「直感的かつ感情的な判断を行うAI」や「論理的かつ客観的なアプローチをするAI」など複数の性格を持たせ、職員がアイデアの壁打ちをする時などに「一度のプロンプトで複数の回答を得られる」よう工夫したという。さらに、当時はなかったPDFやExcelのデータを読み込めるようにし、業務の効率化を図った。
このほかにも美波町では、マイクロソフト社のAIアシスタント「Copilot」を全職員が使えるようにしたほか、行政特化型AIサービス「QommonsAI」も各課に導入。さらに、グーグルの「Gemini」や「NotebookLM」の活用も進めている。
「Geminiの活用例としては、スライドの自動作成などで、政策推進課や産業振興課から『ものすごく仕事が速く終わるようになった』と。また、NotebookLMは(専門)情報を学ばせるとハルシネーション(事実と異なる情報の出力)を減らせるので、条例などを学ばせて専門性を高めています」
そのほかにも、AIに町史のデータを学習させ、町のブランディングプロジェクトに活用したり、アプリを自作したりするなど、さまざまな試みが進められているとのことだ。
美波町の職員はさまざまなAIを目的に合わせてマルチに使いこなしているように感じられる。しかし「決して(全員の)リテラシーが高い」わけではなく、「あまり意識せず(知らず知らずのうちに)使っている」という。なぜそのような環境を生み出せたのか。そのポイントは「全て連携できる仕組みを最初に設計した」ことにあると大地氏は説明する。
2019年に美波町では、マイクロソフト社の「Microsoft 365」を全庁導入した。この時に、すでに一部導入していたGoogle WorkspaceやiPadなども統合し、職員のアカウントをクラウド上で一元管理できるよう認証基盤を整えたという。
「これが全てで活かされています。複数の生成AIを同じアカウントで使うことができるので、職員は別のAIサービスを使う時も、別のアカウントやパスワードを入れるといった手間もなく使える仕組みが実現できているのです」
「ちなみに小規模自治体の場合、こういう仕組みを導入しないと、3つ4つとAIサービスを入れて、一人の情報システム担当者が管理するのは無理です。そういう意味でも認証基盤の整備は必要不可欠だと考えています」
仕組みの構築だけでなく、取り組みへの理解を深めてもらうことも重要だという。大地氏らは、庁内報や町民向けの広報誌の中で毎号DXの取り組みについて紹介するページを設けている。さらに、職員が自宅でスマートフォンを使って、AIなどについて学べる仕組みを導入したほか、企業が一定期間社員を派遣し、専門知識を学ぶ機会を提供する「地域活性化起業人制度」を使って勉強会を開くなど、職員が学べる環境も積極的に整えているとのことだ。
行政サービスが縮小すれば、住民の生活の質も下がってしまう。この先も人材不足を補うためのAI活用は積極的に進めていくべき取り組みと言えるだろう。自治体におけるAI導入を引き続き注視したい。