現在稼働している国際宇宙ステーション(ISS)は、公的機関が主導して管理・運営が行われてきたが、2030年に退役が予定されている。その後は、民間主導の宇宙ステーションの開発や地球周回低軌道での新たな経済圏の創出が期待されている。
では民間宇宙ステーションは現在どういった開発段階にあり、その実現に伴い創出される新たな経済圏とは具体的にどのようなものなのか。
2026年5月27日〜29日、東京ビッグサイト(東京都江東区)にて「第3回SPEXA-【国際】宇宙ビジネス展-」が開催された。その中で、2025年12月に、民間宇宙ステーション開発を進める米国Vast社の、日本支社ジェネラルマネージャーに就任した山崎直子氏が登壇。「人は宇宙で暮らせるのか-商業宇宙ステーションが拓く新たな経済圏」と題した講演を行った。
有人民間宇宙ステーションの打ち上げは来年!?
山崎氏は、2010年に宇宙飛行士としてスペースシャトル「ディスカバリー号」に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)の組立補給ミッションに参加している。また、旧・宇宙開発事業団(現:JAXA)の筑波宇宙センターで技術職として、ISSの日本実験棟「きぼう」のシステムインテグレート(統合)に携わり、「国内約650社、部品約250万点という、大きなシステムを国内の力を集結して作り上げた」という経験を持つ。
そんな山崎氏が、現在所属するVast社とはどういった企業なのか。創業は2021年。米国カリフォルニア州ロングビーチに本社を構え、民間宇宙ステーションの開発を進める宇宙スタートアップだ。昨年、最初の海外拠点として日本支社を設立し、山崎氏がそのジェネラルマネージャーに就任したが、今後は「欧州にも支社の設立を進めていく」という。
開発状況はどうだろう。同社は、昨年11月に約500kgのデモ機を打ち上げている。その結果、「(宇宙ステーションの)製造から、地上からのミッション管制、姿勢制御や太陽電池パネルの展開、地球大気圏で燃え尽きるまでの一連の実証に成功した」とのことだ。
これを受け、2027年には実際に人が乗る宇宙ステーション「Haven-1(ヘイヴンワン)」を打ち上げるべく、組み立てに入っており、さらにその先にはISSのように人が24時間365日滞在できる後継機「Haven-2」を、2030年までに製造する予定だという。
ちなみに「Haven-1」は、カリフォルニア州モハベで実施した打ち上げ時の圧力耐性試験に「無事パスした」という。現在は本社に戻って「クリーンルームの中で最終確認を行うフェイズまで来ている」とのことだ。
「来年にはこうしたもの(Haven-1)が打ち上がり、人も時々(宇宙へ)行くようになります。なお、人(の輸送)はSpaceX社のクルードラゴン(宇宙船)の利用を想定していて、滞在してまた戻ってくるということを繰り返していく予定です」
ドッキングアダプター「サイズ」に特徴あり
山崎氏によると、Vast社が開発する民間宇宙ステーションのモジュール(「Haven-1」や「Haven-2」)のサイズは、現在のISSモジュールひとつとほぼ同じとのことだ。
その中で人が活動するとともに(これもISS同様に)さまざまな実験ができる区画が設けられており、提携企業が実験などを行えるようになる。現在日本では、有人宇宙システム株式会社(JAMSS 本社・東京都千代田区大手町)がペイロードパートナーとなっている。
もう一点、Vast社が開発する民間宇宙ステーションの特徴は、宇宙船などがドッキングするためのドッキングアダプターが大型であることだ。
現在ISSのドッキングアダプターは「開口部が約0.8メートル」であり、人が丁度一人通れるぐらいの大きさだという。また、ISSにはさまざまなモジュールが連結するためのハッチが設けられているが、このハッチの「開口部は約1.6メートル」とのこと。
それに対して、今Vast社が開発しているドッキングアダプターの開口部は「約2.9メートル」とかなり大きなものであり、さまざまなものを移設することができるうえ、より剛性も高まるため、「宇宙ステーションのモジュールを20個以上連結できるほどの強さを持つ」ことになるという。
「Vastは宇宙でより多くの人が生活し、経済圏を築くということをもともとの方針として掲げていましたので、そうしたことに向け、一つひとつの技術をステップアップさせている状況です」
なお、Vast社は低軌道における宇宙開発で存在感をより高めるために、NASAが実施する「Private Astronaut Mission(民間宇宙飛行士ミッション)」の提携企業にも名乗りをあげている。これは略して「PAM」とも呼ばれる取り組みで、「宇宙に行きたい」という一般人向けにISSに滞在する機会などを提供するものだ。同社はこの第6弾を担当する予定で「このミッションを担うことで、NASAとの連携を深め、ISSからのさまざまな技術伝承をよりスムーズに実施していく」ことができる。
新たな経済圏の創出に向けて
山崎氏によると、ISSではこれまで行われてきた多くの実験や人が宇宙に行くための技術には、広くさまざまな分野が含まれている。これらを民間宇宙ステーションが引き継ぎ発展させることで、今後新たなサービスや事業が生まれてくる可能性が高いという。
たとえば航空の分野でも、現在は航空機製造企業として知られるボーイング社も草創期には「運航」の要素をその社内に抱えていた。しかし、業界の成熟とともにそれが切り離され、ユナイテッドやJAL、ANAなどの運航を専業とする企業が登場した。当然、宇宙でもこうした動きが起こっていくだろう。
このほかにも、地上において管制を担う会社や、宇宙輸送を担う会社、宇宙で実験したものを地上に持ち帰るサービスを提供する会社なども必要になると考えられる。
山崎氏は「こうした一連のサイクルを構築するための結節点となるものが今後求められる」とし、そうした技術やサービスを培っていくと「この先日本企業が世界市場で大きく貢献できる可能性が高まるだろう」と述べた。
さらに低軌道における新たな経済圏のエコシステムを構築していくためには、「人」「ルール」「価値」をいかに作っていくかが重要であり、そのためにも、自身がプラットフォーマーとしてVast社の事業にさらに尽力するとともに、多くの企業や来場者にも宇宙産業に積極的に参画することを促した。
「私は2010年にISSに滞在した時に、一番意外だなと思ったのが、無重力や低重力もそうですが、新しい環境に慣れる力を人は持っているなと感じたことです。宇宙食を食べ、低重力の中で活動し、夜は寝袋で寝る。そんなことが徐々に新しい日常になっていく中で、きっと人間は宇宙にまで広がっていけるのではないか、ということを強く感じました。そうした世界を皆さんと一緒に作っていけたらと思います」
民間宇宙ステーションの実現が、新たな経済圏の創出だけでなく、人類の新たな可能性の広がりにつながることも期待したい。
