かつてロケット開発のプレイヤーは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などの公的機関や一部の宇宙関連メーカーなどに限られていたが、近年は宇宙スタートアップも含めた民間企業の新規参入も進んできた。
さらにロケット開発のスピードを加速するため、宇宙以外の領域で事業を展開するノンスペース(Non-Space)企業の参入を促す動きも活発化している。そうした取り組みを積極的に進めているのが、JAXA宇宙科学研究所名誉教授の森田泰弘氏が2023年に立ち上げた株式会社ロケットリンクテクノロジー(神奈川県相模原市)だ。
同社は「誰でも宇宙で活躍できる社会」の実現を目指して、低コストで使いやすい革新的ロケットの開発に挑む宇宙スタートアップで、現在は従来の固定燃料よりも製造が簡易な「LTP(Low melting temperature Thermo-elastic Propellant:低融点熱可塑性推進薬)」の研究開発に注力している。
同社が開発するLTP、およびノンスペースとの連携とはどういったものか。「第3回 SPEXA-【国際】宇宙ビジネス展-」(2026年5月27日〜29日、東京ビッグサイトで開催)にて森田氏が行った講演「高性能低コストで使いやすい新世代ロケットの実現〜『町工場で作れる固体推進薬』の開発」を取材した。
固定燃料のボトルネックを解消するLTP
もともと森田氏は、JAXAのプロジェクトマネージャーとして、固体(燃料)ロケットの「M-V」や「イプシロン」の開発に携わっていた。並行してISAS(宇宙科学研究所)教授として革新技術の研究開発も進めており、そこでの知見がロケットリンクテクノロジーのコア技術「LTP(低融点熱可塑性推進薬)」の基盤になっているという。
ではLTPとはどういったものか。森田氏によると、小型ロケットに使われる従来の固体燃料は、常に燃料をロケットに搭載しておくことができるため、ボタンひとつでロケットをいつでも飛ばせるようになり「即応性や機動性が高まる」メリットがある。さらに液体燃料と比べて「断然推力が大きい」という。
「ただし、一点ボトルネックがあって、実は(固体燃料)はバックヤードで行う製造工程に手間暇がかかるのですね。それを解消するのがLTPというわけです」
現在JAXAなどが使っている固体燃料の製造方法は、「ドロドロの接着剤のような樹脂に火薬の粒を混ぜて、最後に熱を加えて化学反応で固める」が、固まるまでに1カ月程かかるため、製造に時間がかかるという。
「しかも、いったん固めると2度とやり直しがきかないのですね(非可逆の熱硬化)。さらに恐ろしいことに途中で止められない。だから作りはじめたら一気に作らないといけなくて、超精密な特殊工程になり、装置も大型化してしまう。いわば高価な焼き物のような伝統工芸品になっているのです」
これに対してLTPは「真逆の発想」で作られているという。
「LTPは熱を加えると溶けて、冷ますと固まります。自然に冷却させるため、短時間(1日)で結着します。しかもこれはチョコレートのようなもので、熱を加えると、何度でも溶けなおしてくれるのですね。要はやり直しがきくわけです(熱可逆性)。こうなると工程が一般化して(町工場にあるような)小型の装置でも作れるようになるのです」
「開発も順調に進んでいる」と森田氏は胸をはる。ロケットリンクテクノロジーは、2025年3月には北海道スペースポート(北海道大樹町)で行った、直径約13.5cmのロケットの打ち上げ実験に続き、2026年2月には直径約25cmのロケットにおける燃焼実験も成功している。
「この『直径約25cm』というのは、大きな意味があります。今、日本中でいろんな弾道飛行ロケットを打ち上げていますが、25cmというのが標準的なサイズのひとつなのです。要は、LTPは実用的な観測ロケットへの応用が見えてきている段階にあるというわけです」
なお同社は、LTPで打ち上げるロケットを段階的に大型化して実用化するロードマップを描いているが「開発の各段階でも独立してビジネスが可能」だという。
たとえば、LTPで打ち上げるロケットの量産化技術を開発した段階では、その技術をライセンス化して他社に提供することが可能だ。また、すでにノンスペース企業とも「スピンオフ的なつながりができつつある」とし、空飛ぶクルマにおける緊急脱出用の推進装置(Abort Motor)や自動車におけるガスジェネレーターなどの共同研究もはじまっているとのことだ。
ノンスペースとの連携が発展の鍵
この先、ロケット業界のスタートアップが事業を加速していくためには、ロケットの一部部品や技術などを複数スタートアップで共通化して開発する「横断的な技術の共通化」と、開発に伴うリスクをあらかじめなるべく取り除いておくために研究者、大学教授らと連携する「アカデミアとの戦略的連携」が欠かせないと森田氏は主張する。
さらにもう一点、特に重要な取り組みとしてあげたのが「ノンスペース(企業)との融合」だ。
LTPの開発においてもノンスペースとの連携により大きく前進した例がある。愛知県大府市にある樹脂メーカー・株式会社型善(Katazen)との協業だ。
Katazenが保有している技術に、熱可逆性(熱を加えることで成形しなおせる)樹脂を溶かして、自転車のチューブに入れて冷まし、パンクしないタイヤを作るというものがある。これを見たときに「まさにLTPの原型がそこにある」と感じた森田氏は、同社と手を組み、10年かけて同社の樹脂をロケット用にカスタマイズする開発を続けてきた。
「たとえば、融点を下げて製造性を良くするとか。ロケットの燃料タンクの内側にある断熱材(ゴム)との親和性を良くするとか。そうした開発を続けてきました。これらがうまくいくと、イプシロンなどのロケット側は何も変えなくても、当社の燃料(LTP)を即座に入れられるようになる。つまり、当社の燃料が、現行の固体ロケットと完全互換になるというわけです」
他にも森田氏らは、自転・公転ミキサー(泡取り機)メーカーである株式会社シンキー(本社:東京都千代田区)と連携して、LTP内の泡を除去する仕組みを開発したり、花火・火薬メーカーの細谷火工株式会社(本社:東京都あきる野市)と組んで、LTPの製造体制を構築したりと、ノンスペースの企業と協力しながら、開発を進めていることを紹介した。
「我々はロケット“リンク”という社名の通り、ノンスペースの企業、あるいは宇宙業界の近くにいたけど、固体燃料には携わったことがなかった会社とつながり、新たなサプライチェーンを確立して、それを拡大しているところです」
森田氏は、現在、宇宙業界は「10年で1兆円」という長期かつ大規模な「宇宙戦略基金(JAXA基金)」に浮き足だっているが、「この1兆円を正しく使って、次につなげるための産業基盤と人的リソースが全く足りていない」と見ている。その課題を解消するには異分野のアイデアや技術、人的ネットワークが必要だと訴える。
「だからこそ、我々宇宙業界の人間は、今ノンスペースとつながろうと必死なのです。それは裏返すと(ノンスペースの)皆さんにとっては最大のチャンスです。ぜひロケット開発、宇宙開発、宇宙利用をワイワイガヤガヤ一緒に楽しくやりましょう」
森田氏のいうように、宇宙業界側のニーズが高まっている今こそ、ノンスペース企業が参画する好機なのかもしれない。関心のある方は挑戦してみてはいかがだろう。
