宇宙空間を利用するビジネスがより盛んになると、中心的役割を担うことになるのが超小型人工衛星だ。これまで主流だった大型人工衛星と異なり、軽量かつ開発コストも低く、次々と打ち上げられることがメリットとされている。
では超小型衛星を活用し、具体的にどういった宇宙開発が進められているのだろう。
2026年6月10日〜12日にかけて幕張メッセ(千葉県千葉市)にて、Interop Tokyo 2026が開催された。その特別企画「Internet × Space Summit」に、超小型衛星コンステレーション(※)の企画・設計、量産、運用を担う宇宙スタートアップ、株式会社アークエッジ・スペース(本社:東京都江東区、創業2018年)の未来宇宙システム事業本部長 保田友晶氏が登壇。「超小型衛星の衛星測位・通信への応用 ―月から地球へ」と題した講演を行った。
※超小型衛星コンステレーションとは、多数の小型衛星を連携させ、ひとつのシステムとして機能させること
「超小型」であることの強み
JAXA(宇宙航空研究開発機構)などが中心となり開発していた従来の大型人工衛星は、重さは約2〜3トン。非常に大掛かりなシステムで、開発にかかる費用はもちろん、打ち上げ費用も高額で「ひとつの衛星で軽く数百億円かかっていた」と保田氏は説明する。
一方、アークエッジ・スペースが開発する超小型人工衛星は、重さが約10kg〜100kg。一部制限される機能はあるものの、開発や打ち上げの費用も「一桁、二桁少ない金額」になり、「どんどん打ち上げて実証することに向いている」という。
さらに、「我々の衛星は、スマートフォンのように、どんどん中のチップを入れ替え、高度化したものを次から次に打ち上げる。そういった思想を持っているところも、従来の政府系衛星と異なると考えています」(保田氏、以下同)
なお、同社が手掛ける領域は「リモートセンシング(地球観測)」から「通信」「位置情報」「月・深宇宙」と幅広いが、これは同社の衛星の多くが「汎用化」を意識して設計されており、ハードウェア・ソフトウェアともに「目的に応じて簡単に(低コスト・短納期で)組み換えられるため」だという。
「衛星の中身を標準化、規格化することで、可能な限り使い回す。こうしたことで、対応できるミッションを広げています」
衛星光通信開発の一翼を担う
アークエッジ・スペースは具体的にどのようなプロジェクトを手掛けているのか。まず保田氏が紹介したのが、NICT(情報通信研究機構)、株式会社清原光学(東京都板橋区)、ソフトバンク株式会社(本社:東京都港区)と連携して進めている「宇宙と成層圏間、および宇宙と地上間における光通信の実証」だ。
これは、清原光学を中心に開発している光通信端末を、アークエッジ・スペースが開発する超小型衛星に搭載して行うものだ。保田氏によると、光通信端末は世界的に需給が逼迫しており「2年待ちはザラ」なうえ、「価格も高騰」している。さらに、宇宙と成層圏、宇宙と地上の間において光通信を実現するには、非常に高度な衛星姿勢制御の技術が必要になる(※参照「宇宙でも大容量・リアルタイム通信を「宇宙光通信」の実現を目指すスタートアップ」)。
こうした中で、清原光学が新たに光通信端末の製造をはじめることになれば「国産かつ安価」な小型光通信端末の入手が可能となる。これを利用して衛星光通信が実現すると「非常に大きなインパクトが生まれる」とのことだ。
「衛星自体はほぼ完成に近づいている状況でして、2027年度以降なるべく早いタイミングで通信の実証を進めたいと考えています」
月測位システムの開発にも着手
次に保田氏が紹介したのが「月測位システムの開発」だ。
現在、米国主導の国際宇宙探査計画「アルテミス計画」が進められている。このプロジェクトでは、将来の火星探査を見据え、まずは月に有人基地を設けるとしている。この月面基地において、活動の全てに人が立ち会うわけではない。実際には無線を使いながら、無人で稼働する機器を使うことも多く、そうすると地球上と同じように、通信や測位といった機能が月面上でも必要になる。
そこでNASA(米国航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)、JAXAなどが「LunaNet構想」を立ち上げ、将来の月面開発において必要な通信・測位システムのフレームワークを議論しており、これに則った形で、アークエッジ・スペースでは「月向けの測位衛星やナビゲーション衛星」を開発している。
具体的には、2021年に「内閣府宇宙開発利用加速化戦略プログラム(スターダストプログラム)」に採択され概念検討を開始した後、2024年にはJAXAの宇宙戦略基金「月測位システム技術」の実施機関となり、月測位実証衛星の開発に着手している。
ところで、地球上のそれとは異なり、月で測位システムを実現するのは簡単なことではない。たとえば「月の時刻」の問題。測位サービスの提供には、衛星が自身の軌道(位置)および時刻をユーザーに向けて配信する必要があり、そのためには衛星の軌道時刻を決定する必要がある。
また地上においては、安定的な標準時刻や原子時計が存在するほか、多数の地上局から常に監視することで、高精度に軌道時刻を決定しているが、月面にはこれらは存在しない。また、月に原子時計を輸送すると膨大な輸送費がかかるうえ、月面上に地上局を作ることも難しい。
そこでアークエッジ・スペースでは、地球向けに飛んでいるGNSS(衛星測位)の“漏れ電波”を活用して、月衛星の軌道時刻を決定する仕組みを検討しており、「シミュレーションでは十分な精度が得られる目処がすでに立っている」とのことだ。
「こうした仕組みを実装して、実際に月で実証することを目指し、開発を進めているところです」
「低軌道衛星測位」がスタンダードに
最後に「低軌道衛星測位システム(LEO-PNT)」の開発にも言及した。
保田氏によると、紛争地域のウクライナや中東では既存のGNSS信号への妨害が急増しているという。GNSSの情報は位置情報のみならず、通信ネットワークにおける時刻管理などさまざまな目的で使われており、これが正常に使えないと社会への影響が大きくなる。そこで新たに提案されているのが「低軌道衛星測位システム(LEO-PNT)」だ。
従来の測位衛星が高度2万kmあたりに配置されているのに対し、低軌道衛星測位システムの超小型衛星は、高度500km〜1200kmあたりに大量に配置されることになる。
地上からの距離が近いということは、衛星から届く信号が多くなることに加え、大量の衛星を配置することで、妨害が難しくなり、測位精度を上げることにもつながるとのことだ。
世界的にも開発が進んでおり「(従来システムと合わせた)多層型の衛星測位システムが世界の常識になりつつある」と保田氏はいう。また、日本においても、「宇宙技術戦略(令和6年度改訂)」において、低軌道衛星測位コンステレーションの実現に向けた研究開発や実証の重要性が明記されており、アークエッジ・スペースは2024年度、2025年度連続でJAXAからの委託事業として、低軌道衛星測位システムの基礎検討などを進めているとのことだ。
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宇宙開発は全般的に、従来の国家主導型から民間主導型へと変化してきているが、それとともに人工衛星のあり方も大きく変化しているようだ。こうした中で超小型人工衛星の開発や運用に長けたアークエッジ・スペースが、日本の宇宙開発の一翼を担う可能性は高いと言えるだろう。引き続き、同社の動向を注視したい。
