
ineRobo株式会社が株式会社テムザックと共同開発する「コメ作りロボット雷鳥1号」(以下、全ての画像提供:ineRobo)
2025年に急騰したコメの価格もここのところ値下がり気味だ。消費者としては胸をなでおろしている人は少なくないだろう。もちろん筆者もその一人だが、この状況は日本のコメ作りが抱える課題とは別問題である。
農林水産省の「令和8年農業構造動態調査結果」によると、稲作を含む基幹的農業従事者の平均年齢は67.7歳。あと数年もすると、その多くが後期高齢者となり、コメ作りを引退する人も増えるだろう。
政府もこうした状況を憂い、AIやロボットなどを活用したスマート農業の導入を推進しているが、その主な対象は大規模農場となっている。しかし、日本の稲作農家の6割近くが「1ヘクタール未満」の小規模経営者であり、特に中山間地域には棚田などの小さな田んぼが点在しており、大型農機などで生産性を向上させることは難しい。
そこで中山間地域の小規模稲作農家などが抱える課題を、小型・低コストのロボットで解決しようとするスタートアップがある。それが、2025年10月創業のineRobo株式会社(本社・福岡県宗像市)だ。
同社は株式会社Revitalize(本社・東京都文京区)代表取締役兼CEOの片桐豪志氏らが立ち上げたスタートアップで、ロボティクス技術を活用したソリューションで、中山間地域における稲作の持続可能性を高めようとしている。
現在ineRoboが力を入れているのが、稲作の自動化や省力化を実現するための「小型ロボット」の開発で、建築や防災、介護・医療分野のロボットを手掛ける株式会社テムザック(本社・京都府京都市)と共同で進めている。
「最終的には一台に集約するつもりだが、現時点では作業別にロボットを開発している」と、同社代表取締役CEOの片桐氏は開発状況を説明する。
たとえば、田んぼに種をまくための「種まきロボット」や、田んぼの泥を混ぜて光を遮り雑草が生えにくくする「アイガモロボット」、そして「除草ロボット」や「収穫ロボット」といったものを開発している。これらのベースとなる機体や技術はすでに完成しており、現在はサイズや精度、耐久性など「現場での使い勝手を向上する工程に入っている」という。
「たとえば、軽トラに乗せられるかどうかは、現場ではとても重要な要素です。軽トラの積載容量は350kgですが、肥料など他の農業資材も一緒に載せたいので、できればロボットは300kg以下にしたい。また、サイズも荷台に余裕を持って載せられるものにしたい。こうした現場での実用に耐えるための要素を磨き上げているところです」(片桐氏)
なお最終的には、高齢の農家でも利用できるよう、軽トラへの昇り降りから水田で作業するまでの動作を、スイッチひとつで行えるようなロボットを目指している。これと並行して片桐氏らが重視しているのが「水田運営プラットフォーム」の開発だ。これは、稲作からコメの販売までを一気通貫でサポートする。まずは農作業に携わるロボットを完成する。その後、ロボットを使った水田運営の方法をマニュアル化し、プラットフォーム上で仲間を募っていくという。
「そのほか、ロボットを使ってコメを作る際の『農業データの収集・解析サービス』も提供しようと構想しています。これは、ノウハウの属人化が後継者不足の要因のひとつになっている状況に一石を投じるためのもので、それぞれの地域でのベストプラクティスを分析して多くの人と共有し、おいしいお米を誰もが作れるような環境を構築しようと考えています」

実は片桐氏は、もともと大手コンサルティング会社を渡り歩き、現在もコンサルティング企業を経営する立場にある。そうした経歴の持ち主が、なぜコメ作りの課題を解決するスタートアップを立ち上げたのか。そのきっかけは「ロボットメーカー・テムザックからの相談」にあったという。
「私が以前所属していた大手コンサル会社のOBの方が、テムザックの会計顧問をしています。ある時、テムザックが稲作ロボットを開発し、これをビジネス化できる人材を探す中で(OBを通して)私に声がかかったのです」
すでに独立しコンサルティング会社を経営していた片桐氏は、当初は「顧客のひとつ」と捉えていた。しかし、一年ほど話を続けるうちに「これは自分でやった方がおもしろい」と考えるようになり、自動運転や地域交通の知見を有するVoyageBright合同会社(本社・京都府京都市)と共同で、ineRoboを創業したという。
もう一点、片桐氏は新卒で株式会社三菱総合研究所(東京都千代田区)に入り、人口動態に関する研究をしていたが、「そこで得た知見も大きな動機になっている」と話す。片桐氏によると、日本の人口は2040年ごろには「1億人を割り込み」、2070年ごろには「最悪のパターンで半分程度」まで減る。そして2100年ごろには「数千万人規模」にまで減ってしまい、経済力においても「極東の小国」になってしまう可能性が高いという。
これに伴い「主食であるコメすらも自給できない、そして買えもしない国になってしまうかもしれない」と危惧していた中で、「稲作を支援するソリューションのひとつになるのではないか」と期待し、ineRoboの立ち上げに踏み切ったとのことだ。
日本の将来に対する思いだけでなく、「ビジネスとしての勝ち筋も見出している」と片桐氏は自信をのぞかせる。

同社が主な収益源に据えようとしているのは、ロボットの販売・貸与ではなく、ロボットで作ったコメを販売して得られる収益だが、日本におけるコメの消費量は年間約700万トンもあり「適切に作り流通を構築できれば、必ず売れる」と分析する。
事業を拡大する仕組みとしては、「フランチャイズ的なものを想定している」という。
先述した「水田運営プラットフォーム」や「農業データの収集・解析サービス」を提供する中で、効率的に良いコメを作る手法やデータが集まってくる。そのやり方を横展開しながら、利用者や売上を確実かつスピーディに拡大していけるのではないかと、片桐氏は説明する。
「イメージとして近いのはフランチャイズです。コンビニなどは、適度な広さの土地と一定の住民数がそろえば、すぐに出店します。その建物の建て方も、PR手法も商品の補充なども全てマニュアル化されているので、非常にスピーディです。こうした仕組みを、小規模稲作にも取り入れていければ、ビジネス的にも効率よく拡大でき、かつ稲作の持続可能性も高められると考えています」
ただし、そのためには、当然ながら稲作農家や地域農業関係者にロボットを使った稲作を受け入れてもらい、利用者を増やす必要がある。これには信頼関係の構築が肝心であり、そのためにも「地域に足しげく通い、ウェットな関係を築ける」営業要員をどんどん増やしていく予定だという。これに加え、プラットフォーム構築やロボットの改良など、この先実施すべき取り組みは多々あり、そのための資金調達も積極的に行いたいとのことだ。
「一人の日本人として、中山間地の稲作が壊滅してコメの供給がガクッと減るという状況になってしまうのは耐え難い。そうならないためにも、ineRoboだけが成功するのではなく、全国のスタートアップや企業を巻き込みながら、自給率向上のために尽力できればと思います」
コメ作りは、日本人の主食を支えるだけでなく、日本の社会や文化の基盤を形作ってきたものだ。その持続可能性の向上につながる取り組みとして、片桐氏らのビジネスが大きく広がることを期待したい。