AIを搭載した人型ロボット(ヒューマノイド)の開発競争が、米中を中心に過熱している。現時点では、日本のスタートアップや企業は大きく出遅れているように見えるが、果たして遅れを取り戻すことはできるのだろうか。
2026年8月26日、新宿住友ビル 三角広場(東京都新宿区)にて「AI博覧会 Summer 2026」が開催された。その中で、ドーナッツ ロボティクス株式会社(本店:東京都港区)の代表取締役社長 小野泰助氏が登壇。「最強のヒューマノイドは日本から生まれる」と題した講演を行い、来場者の関心を集めていた。
日本企業が置かれた厳しい状況
ドーナッツ ロボティクスは、2014年に福岡県北九州市で創業したスタートアップで、海外企業から提供を受けた機体に自社で開発したAIを搭載したヒューマノイドを開発している。将来的にはハードウェアもソフトウェアも「純国産化」することを目指している。
小野氏はヒューマノイドの開発現場に長く携わっているが、現在の日本の開発状況をどう捉えているのだろう。ヒューマノイドやフィジカルAIの市場が急拡大する中、日本政府も「AIロボティクス戦略」の中で、「米中に並ぶ第三極として、世界シェアの3割超を獲得」していくことを目標に掲げている。
しかし、テスラやフィギュアAIなどの米国企業やAGIBOT、UBTECHなどの中国企業が先行する中で、日本企業やスタートアップが単独で戦っていくのは「なかなか難しい」というのが小野氏の見解だ。具体的に何が難しいのか。小野氏は大きく3つの要素を挙げる。ひとつ目が「大きな(巨額の)部品調達費用」を用意することだ。
まずロボットを作るためにはGPUが多数必要となり、さらに多くの部品を調達したうえで、ハードウェアに組み上げていく必要がある。しかも手がけるのはひとつのタイプではなく、ヒューマノイドやミニサイズのロボット、車輪型のロボットなどさまざまなタイプを開発しなければならない。そのうえ数年に一度、新作を発表しなければならず、これらを全てこなしていくには「相当の部品調達資金が必要になる」とのことだ。
2つ目が巨額の費用をかけて「VLA開発施設を作らなければならない」ことだという。VLA(Vision-Language-Action)とは、視覚(Vision)、言語(Language)、行動(Action)の3要素を統合し、ロボットが人の言葉や状況を理解し、自律的に行動できるようにするAIモデルのことで、自律的に動くヒューマノイドやロボットの開発に欠かせない。
小野氏によると、これを開発するためには、体育館ほどの広さに最新ロボットを約1000台、スタッフも同程度の人数を用意したうえで、学習データを取得していかなければならない。「これを家賃や人件費の高い日本でやるのは、かなりハードルが高いと思います」(小野氏)
そして3つ目が「終わりのないプラットフォーム開発」が必要なことだ。ハードウェアとVLAができあがったあとにも、顧客がヒューマノイドやロボットを現場で使うためにはプラットフォームを開発する必要があり、「しかも一度作ったプラットフォームは最新版に更新していかなければならず、日本の企業やベンチャーが単独で戦っていくのは相当厳しいと思います」
「普及フェイズ」が最大のチャンス
しかし、そんな状況でありながらも、将来的には「日本が勝てるかもしれない」と小野氏は説明を続ける。フィジカルAIやヒューマノイドの「開発フェイズ」では圧倒的な差をつけられているが、ここから先は「普及フェイズ」に入り、ここが大きなターニングポイントになるという。
小野氏が挙げる「日本製のヒューマノイドやフィジカルAIが世界に勝てるかもしれないと考える理由」は以下の4つだ。
ひとつ目が「VLAの完成と安全性の確立はまだ先の話」であることだ。現時点でVLAは人の仕事を代替する段階ではなく、現場でのルールベース開発が主であり、実用化まではまだ数年かかるという。また、現場への導入段階においては「情報漏洩対策」や「人に衝突・転倒しない」など安全性の担保が重要視されるため、産業ロボットなどで世界トップレベルの安全基準を遵守してきた日本企業の技術や知見が大きな強みになる可能性が高いとのことだ。
2つ目が「通信機器の安全性と生産地の重要性」の高まりだ。米国の連邦通信委員会(FCC)は、2026年7月に、国家安全保障などに脅威をもたらし得る「対象機器・サービス」リストに、外国製のヒューマノイドや四足歩行ロボットなどの高度ロボット機器を加えた。これにより、米国での普及には、米国製の製造が不可欠となり、米国内では中国製品などの普及は難しくなった。
さらに小野氏は3つ目として「米国製ヒューマノイドの輸出規制の可能性」を挙げる。ヒューマノイドは軍事転用可能な「デュアルユース製品」でもあるとも解釈できるため、米国政府が特定国への輸出を制限する可能性が高い。これにより「たとえば日本には入ってくるものの、簡単には売り買いできなくなる」とのことだ。
4つ目が「二極化への世界的懸念(第三極の重要性)」の高まりだ。近年、米中二極のAIモデル依存への懸念が世界中で大きくなっている。特にアジア、中東、欧米では「どちらかの肩を持つのではなく、安全かつ平和な日本のフィジカルAIを求める声も増えている」という。
こうした地政学的な問題もあり、日本製のヒューマノイドやフィジカルAIは商機が急拡大するとし、近い将来、参入企業や投資家にとって最大のチャンスが訪れるのではないかと、小野氏は持論を展開した。
「一言でまとめると、開発では負けても、普及では勝てるかもしれないということです。ハードウェアでは負けるかもしれない。でも普及時に安全なAIやチップを開発し作ることで日本は勝てるはずです」
「私たちは希望を持っています。そこは皆さん同じ気持ちだと思います。最後の1ミリまで、皆さんの力をお借りできればと思います」
小野氏が言うように、確かに今の日本の産業界はフィジカルAIやヒューマノイドの開発において、米中の後塵を拝しているという印象は拭えない。「普及」時における起死回生を期待したい。
