太陽で起こる核融合反応を人工的に起こし、膨大な電力を作り出す核融合発電。地球上に無尽蔵にある水(水素)を燃料にできる可能性があるほか、CO2を出さないクリーンな発電方法として期待されている。
現在、核融合発電を開発する国々が協力し、実験炉の実現に向けた「ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor:国際熱核融合実験炉)計画」が進められているが、このプロジェクトのゴールは「熱出力(50万kW)」までだ。発電実証はその次の段階の「原型炉」で行われることになる。
各国はすでに原型炉の実現に向けて動きはじめており、日本も「世界に先駆けて2030年代の発電実証を実現する」(フュージョンエネルギー・イノベーション戦略)との目標を掲げ、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)が原型炉「Q-DEMO」の研究開発を進めている。
「Q-DEMO」はどのようなもので、どういった計画が立てられているのか。2026年9月9日〜11日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で行われた「第26回 スマートエネルギー WEEK【秋】」の特別企画として、「FUSION POWER WORLD -核融合発電ワールド- 」が開催された。その中で、QST理事の竹永秀信氏が登壇した講演「原型炉Q-DEMOによるフュージョンエネルギーの社会実装への展望」を取材した。
核融合発電の仕組みと技術的ポイント
まず核融合発電の仕組みについて簡単に触れておきたい。現在QSTが開発している核融合発電は、磁場でプラズマ(※)を封じ込める「トカマク型」だ。トカマク型では、高磁場を作るための超伝導コイルがまわりを覆った炉の中で、超高温プラズマを作る。
※物質は温度上昇とともに固体から液体、気体へと変化するが、さらに高温になると、原子核とそのまわりを回っている電子が離れ出すプラズマ状態になる
このプラズマの中で、燃料である重水素と三重水素(トリチウム)が核融合反応を起こし、その結果「ヘリウムの原子核(アルファ粒子)」と「中性子」が発生する。このうち中性子は(磁場の影響を受けず)プラズマから飛び出してくるので、超伝導コイルの内側に設置された「ブランケット」と呼ばれる構造体で受け止める。
このブランケットによって中性子が持つ膨大なエネルギーを熱に変え、さらに冷却水でその熱を取り出して、蒸気を使ってタービンを回して発電するのが、核融合発電の基本的な仕組みだ。
竹永氏によると、ブランケットにはもうひとつ「燃料の再生産」という大きな役割がある。燃料となる三重水素(トリチウム)は自然界にはほとんど存在しないため、ブランケットの中にあらかじめベリリウムとリチウムを入れておき、これらと中性子を反応させることでトリチウムを再生産するという。
「さらにもう一点、重要なポイントとしては、核融合反応によって出てくるヘリウムの原子核を、プラズマを加熱するためのエネルギーに使うことです」
核融合反応を最初に起こす際には、外部から燃料を入れて、その温度をどんどんと上げていく必要がある。しかし、一旦反応が起きはじめると、ヘリウムの原子核自体でプラズマを加熱する「自己加熱」を起こしはじめる。外部から燃料を入れて温度を上げていく「加熱入力」を減らすためにも、この自己加熱状態を長時間維持することが、実用化の重要な鍵のひとつになるとのことだ。
原型炉「Q-DEMO」とは?
では「原型炉」とはどういったものだろう。竹永氏は「ITERは発電ではなく、燃焼をさまざまな条件下で達成・維持できることを実証する実験炉」であり、「実際に電気を作って長時間、安定的に運転しないといけない商用炉」との間には「どうしても技術的なギャップがある」と話す。
この実験炉と商用炉のギャップを埋めるものとして位置付けられているのが原型炉だ。今後、発電実証に加え、高磁場や放射線に耐える超伝導コイルの材料開発や、中性子から効率よく熱を取り出し燃料を増殖できるブランケットの開発など技術的な“壁”を超えていかなくてはならない。
現在、竹永氏らは「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」に基づき、2030年代の発電実証を目指すITERサイズの原型炉「Q-DEMO」の開発に取り組んでいる。
「実はもともとITERよりも大きいサイズの原型炉を考えていました。しかし、発電実証の時期が前倒しされ、2030年代の実現を目指すことになったため、大きな装置がスケジュール的に間に合わないということもあり、実績のあるITERサイズの原型炉で検討することになりました」
「Q-DEMO」では、「社会実装に向けて科学的・技術的に意義のある発電実証」を目指すとし、具体的な目標としては「(ヘリウム原子核による)自己加熱が支配的」で、「エネルギー増倍率Qが10以上(投入したエネルギーに対して、得られるエネルギーが多い状態)」、かつ「(損失や内部消費分を差し引いた)正味電力がプラス」となることを条件に掲げているとのこと。
なお、これらの条件を一気にクリアすることはさすがにハードルが高いため「段階的に開発を進める」と竹永氏は説明を加える。
まず第1期(システム統合運転期)では、短い時間(数分)だけプラズマを発生させ、発電端出力は20万kW、さらに正味電力がプラスとなることを実証する。
さらに第2期(ブランケット機能試験期)では、30分以上プラズマを発生させたうえで、正味電力はプラス、さらにブランケットにおけるトリチウムの増殖(燃料の再生産)の実証も行う。
最後の第3期(拡張運転期)では、定常運転かつ正味電力を実現することに加え、ブランケットにおけるトリチウムの増殖や遠隔操作での保守シナリオの確認まで行うという。
「これらの開発と並行して、プラズマの性能向上なども進め、目標を達成していきたいと考えているところです」
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果たして核融合発電が広く実用に供されるのはいつ頃になるのだろう。竹永氏は「(核融合発電は)2050年頃から市場に入っていき、21世紀後半では3割から4割ほどを占めるだろう」と予測する。
核融合発電が社会実装されれば、世界的なエネルギー不足や地域紛争の解消につながるとの予測も出ている。まだ少し時間がかかりそうだが、希望を持って実用化を待ちたい。
