Open Innovation Platform
FOLLOW US

「モジュール型植物工場」「乾燥・高温耐性を向上する資材」も登場〜「第16回農業WEEK」

「第16回農業WEEK」の出展社協賛セミナーに登壇した、株式会社プランテックス代表取締役社長の山田耕資氏(左)と、アクプランタ株式会社の代表取締役社長 金鍾明氏(右)

「第16回農業WEEK」の出展社協賛セミナーに登壇した、株式会社プランテックス代表取締役社長の山田耕資氏(左)と、アクプランタ株式会社の代表取締役社長 金鍾明氏(右)

 気候変動が世界中の農業に深刻な影響を及ぼす中、この課題の解決に取り組むアグリテック・スタートアップがいくつも登場している。

「第16回農業WEEK」会場の様子
「第16回農業WEEK」会場の様子

 こうしたアグリテック・スタートアップを支援する国の仕組みとして、農林水産省の「中小企業イノベーション創出推進事業」(SBIR)が実施されている。どのようなスタートアップがどういった技術の研究開発を進めているのだろうか。

 2026年10月7日〜9日、幕張メッセ(千葉県千葉市)にて「第16回農業WEEK」が開催され、農林水産省「中小企業イノベーション創出推進事業」の出展社協賛セミナーとして、同事業に採択されたスタートアップが登壇するピッチ大会が行われた。

「モジュール型」植物工場を開発

 多くのスタートアップが登壇する中、会場の大きな関心を集めていたのが、株式会社プランテックス(本社・東京都江東区)代表取締役社長の山田耕資氏のピッチだ。

 同社が取り組むのは、小型のケースに収められたモジュール型の植物工場。山田氏によると、従来の植物工場は、複数の栽培プランターが並ぶ部屋全体を、エアコンなどで環境制御するものが多い。だが、工場内の位置によって温度にばらつきが出たり、風の強さがコントロールできなかったりと十分な環境制御ができず、「その結果、栽培の再現性が低くなり(植物工場は)事業としてブレイクスルーが起きなかった」と指摘する。

 それに対して山田氏らの植物工場は、小型のモジュールの中で野菜を育てることで、従来のものよりも、はるかに緻密な環境制御ができ「栽培の再現性や効率性が高まる」という。

 具体的には、気温や風速など「28のパラメーター」を用いてコントロールし、これにより、植物の成長を高度化することで、レタスであれば「従来型の植物工場に比べて6倍以上の生産性を達成している」とのこと。

「この仕組みのおかげで、成分の含有量を調整できる見込みが立ってきました。実際、ベータカロテンが豊富な野菜はもうできあがっています。この先は、植物の成長を高い水準でコントロールしながら、葉酸やポリフェノールなど成分に特徴を持った野菜を作っていきたいと考えております」

 なお、山田氏らはこうした「新しい性質を持つ野菜を作る」ことで従来の野菜と差別化を図るとしており「価格で争うこと」は目指していない。

 たとえば、現在同社では農研機構と協力しながら米の栽培に取り組んでいるが、一般的な食用米を作っても採算は合わない。そこでこの取り組みでは、米を使って薬の原料となる成分を作ることで、事業として成立させようとしているとのことだ。

「その他にもさまざまな薬用植物がありますが、これらを海外からの輸入に依存していると、いつ輸入が滞るかわからない。すると、いろいろな薬が作れなくなる可能性があります。そこでそういったもの(薬用植物)を国産化することで、将来の安定的な薬の調達に貢献していければと考えています」

ハードウェアだけでなく、“アプリ”も

 もう一点、プランテックス社が開発するモジュール型植物工場(農作物栽培用)の特徴が、同社が研究所で行っているさまざまな試験栽培用のモジュールと全く同じ仕様になっていることだ。これにより、研究所で開発した新しい栽培条件を、即座に農作物栽培用の植物工場で再現でき「研究と量産の栽培環境を共通化することができる」という。

 さらにその結果「Appleのようなハードウェアとアプリを両方提供する形のビジネスを展開することができる」と山田氏は説明を続ける。

 ここでいう「ハードウェア」とはモジュール型の植物工場を指し、「アプリ」とはさまざまな価値を生み出す植物の栽培手法、具体的には28のパラメーターの調整値などを指す。「我々は、単にハードウェアを売るだけでなく、日本において研究開発したアプリ(知財)を世界に輸出することで、ロイヤリティ収入を得る。その収入の一部を一緒に共同開発する研究機関などに還元して、また新たな知財を得る。そういうことがこの先可能になると考えています」

乾燥と高温に対する植物の耐性を向上

 もう一社、興味深い製品を紹介していたのが、理化学研究所の認定ベンチャーのアクプランタ株式会社 (本社・東京都文京区)代表取締役社長の金鍾明氏だ。

 現在、気候変動によって温度の上昇や乾燥が進み、食料生産に深刻な影響を及ぼしている。こうした課題を解決するべく、金氏らが開発しているのが、「Skeepon(スキーポン)」というバイオスティミュラント資材だ。

 バイオスティミュラント資材とは、植物に栄養成分を直接補給するのではなく、植物の生理機能に働きかけて成長をサポートする資材を指す。金氏は、この「Skeepon」を水で希釈して植物に吸わせることで、乾燥と高温に対する耐性が大幅に上げることができるという。実際にピッチでは「Skeepon」を与えたトマトの苗と与えていない苗を高温下に置いた比較実験の動画が流れた。「Skeepon」を与えていない苗が早々に萎れてしまうのに比べ、与えた方は50度近い高温下でも順調に生育し続ける様子が示された。

「Skeepon」の大まかな仕組みは以下のようになる。かつて金氏は理化学研究所において、乾燥を感じた植物が初期応答(段階)で酢酸を作り出し、これによって耐性遺伝子を活性化する能力があることを発見した。酢酸を主成分とする「Skeepon」は、このメカニズムを活性化するという。

「大雑把に言うと、この『Skeepon』はすべての植物に効きます。一度与えると、最低1カ月から3カ月は効果が持続します。また主成分は酢酸を使っており、他の成分も食品添加物に使えるような安全なものしか使っていませんので、土壌汚染などにつながることもありません」

世界各国で実証実験が進行中

「Skeepon」はすでに日本全国でJAなどを通して市場に出回っている。さらに今回のSBIRの支援を通して、ドローンなどを使った大規模散布の仕組みの開発や試験などを行っているという。

 その結果、まず稲の苗に対して「Skeepon」を散布し、乾燥・高温状態で1週間全く水をやらずに放置したところ、問題なく生育したことに加え、根の張りが良くなったという。

 また、アメリカのミネソタ州で「Skeepon」を散布したジャガイモを、通常よりも水を50%減らし育てたところ、通常の育て方に比べて収量が落ちるどころか、収量が7.7%増えたとのこと。

 さらにオーストラリア、スペイン、ブラジル、ウガンダなど17カ国以上で実証実験の取り組みと準備を進めている。

 時間のかかる品種改良を行わずとも、今栽培している品種のままで、乾燥と高温に強くできるのであれば、農家にとって「Skeepon」活用のメリットは少なくないだろう。また、プランテックス社のモジュール型の植物工場も、なかなかブレイクスルーを果たせずにいる植物工場に一筋の光明をもたらすかもしれない。こうしたアグリテック・スタートアップのさらなる活躍に期待したい。

Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。