7月25日、26日の2日間、東京国際フォーラムで国際web3カンファレンス「WebX」(主催:株式会社CoinPost)が開催された。そのサイドイベントとして実施された遊戯苑プロデュースのエリア内で、『渋谷の街のweb3化の可能性』と題したパネルディスカッションが行われた。
国内IT企業が集積し、1999年頃から「ビットバレー」と呼ばれた渋谷の街は、最近では人気の観光スポットとして海外にも知られている。渋谷区はこの知名度を追い風に、スタートアップ・シティーとしての評価と地位も向上すべく、web3技術などを活用しつつ国内外から多様な人材を呼び込む様々な仕掛けを施している。
この日、パネリストとして登壇したのは、渋谷区役所 産業観光文化部 グローバル拠点都市推進室でスタートアップ支援を手掛ける中屋力氏と、渋谷区に拠点を置くCallback株式会社のCo-founder/COOの Dylan Westover氏。そして、デジタルガレージのマーケティングテクノロジーカンパニー事業戦略室 兼 web3事業開発部 エグゼクティブ・プロデューサーの片桐隆信がモデレーターをつとめた。
国の政策の後押しもあり、スタートアップ・エコシステムには追い風が吹いている。この分野で積極的な取り組みを進める渋谷区だが、課題としてはどういったものがあるのだろうか。
「渋谷区は『オフィスの賃料水準が高め、大型のオフィスも不足気味だよね』というのはよく言われるところです。(企業規模が)大きくなると(渋谷区から)港区さんに出ていってしまったり、とか(笑)」(中屋氏)
ビルが隙間なく林立する渋谷で“オフィスが足りない”というのは意外だが、この先渋谷駅周辺の再開発が進めば状況は変わるかもしれない。さらに、中屋氏としては、各種手続きを進める上での「多言語対応」や「デジタル化」が、諸外国の主要都市と比べ遅れがあることも課題と感じていると述べた。
また、web3ビジネスに関しては税制や法整備の問題があるが、これらのルールや仕組みづくりは国レベルの取り組みが必要で、基礎自治体で区だけで解決はできない。そこをカバーすべく、渋谷区では国家戦略特区などの制度を申請するなどして、スタートアップの創業をサポートする体制整備を進めている。
スタートアップ集積への第一歩は、渋谷区がweb3の“ホットスポット”だと知られることだ。すでにその取り組みは始まっており、そのひとつが今年5月上旬に開催された、米国LA発のデジタルアートギャラリーBright Momentsによる体験型NFTアートギャラリー「Bright Moments Tokyo」のイベントだ。
NFTアートを鑑賞しながら、関係者・愛好家がフィジカルに交流するこのイベントは、渋谷DGパルコビルなどの民間施設の他に、渋谷区にある重要文化財「旧朝倉家住宅」も会場のひとつとして使用された。NFTと伝統的な日本建築・庭園の組み合わせは、来場者の大半を占めた海外からの客人たちにも好評だったようだ。
この「Bright Moments Tokyo」や、渋谷を舞台に昨年実験的に開催された「International Shibuya Tokyo NFT Festival」のNFT作成・配信などを技術的にサポートしているのが、パネリストのDylan Westover氏のCallback株式会社だ。
同社のモバイルアプリ「Callbackウォレット」があれば、仮想通貨やトークンに関する知識がなくとも、QRコード読み取りやNFCタグにタッチするだけで、簡単にNFT収集ができる。
ちなみにCallbackは、米国のC-Corp(米国の株式会社の一形態)として創業され、その後日本で株式会社組織となり、日本のスタートアップ企業として活動をしている。渋谷区での起業経験者として日本国内でのビジネスについては、「言語の壁があること」「web3+外資系だとちょっと怪しい会社だと思われがち(笑)」(Dylan Westover氏)と幾多の苦労があったことも披露した。その一方で、会社のミッションとしては「日本からスタートして、海外へ広がる」サービスやコミュニティを作り、普及させることを目指していると述べた。
これまでweb3関連の出来事は「海外発。日本国内へ」という流れが一般的だったが、「日本から」あるいは「渋谷区から」「世界へ」という潮流を生むには、さらに多くの意欲的な起業家を取り込む必要がある。
この先も渋谷区では、今年で6年目となる「SIW(SOCIAL INNOVATION WEEK)2023」を11月に開催するなどさらに多くの仕掛けが用意されている。こうした取り組みが好ましい成果を生み、渋谷がいつの間にか「web3(が当たり前)の街」になっていることを期待したい。
※Callback株式会社は、株式会社デジタルガレージの投資先の一社となります。