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福岡発で日本のフィンテック推進をする

福岡グローネクストは旧大名小学校の校舎をそのまま利用(2017年10月3日撮影)

福岡グローネクストは旧大名小学校の校舎をそのまま利用(2017年10月3日撮影)

 ITを活用した金融サービス「Fin Tech(フィンテック)」に関する技術や、サービスの課題などを話し合うカンファレンス「福岡発フィンテックの現在、未来」(福岡市・福岡地域戦略推進協議会・株式会社デジタルガレージ共催)が3日夜、福岡市中央区の福岡グロースネクストで行われた。会場となった福岡グローネクストは、同市の代表的な繁華街、天神から歩いて数分のところにある旧大名小学校の校舎をそのまま利用し、起業を志す人たちのための情報拠点兼ねたカフェやイベントスペースなどが同居したユニークな施設だ。

基調講演を行う日本銀行Fin Techセンター長の河合祐子氏(2017年10月3日撮影)

基調講演を行う日本銀行Fin Techセンター長の河合祐子氏(2017年10月3日撮影)

 当日は、日本銀行Fin Techセンター長の河合祐子氏による基調講演から始まった。冒頭で、お隣の中国ではキャッシュレス化が進み、スマホでの決済が浸透していること、フィンテック分野への投資が盛んに行われていることが紹介された。その上で不便や非効率を解消するために、フィンテックは日本でも積極的に取り組む必要であるのではないかとの提案があった。さらに、フィンテックを牽引するのは、アジアをダイレクトに感じられる福岡だとして、福岡発のスタートアップに「マジに、期待してます。」と熱いメッセージを送ることで講演を締めくくった。

 続く登壇者からは、フィンテックを取り巻く状況や、日本での課題についての講演があった。そこで明らかになったのは、日本の金融業界では、これまで大手ベンダーによって開発されてきた既存のシステムが確立しており、スタートアップが想起する新しいサービスや技術に対応しにくいこと。さらに日本では多くの人が銀行口座を持ち日常的に利用しているため、新しいサービスが提供されたとしても、それが既存の銀行口座と連携していなければ、実用的なサービスとはならないなどの課題があることだ。これに対して中国をはじめとするアジアの国々では銀行口座を持たない人も多く、そうした人たちへの金融サービス基盤はゼロから新しい技術で構築することができ、それがフィンテック分野でのスタートアップの隆盛の要因となっている。

 この日、講演を行なった日経Fintech編集長の原隆氏によると、日本においても2017年の6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」の方針のひとつとして、金融機関が保有するデータにアクセスが可能となるようAPIを公開することが既定路線となっており、これが実現されれば多様な金融サービスが、生まれる可能性がある。しかし、APIを開発し維持する費用の問題や、第三者に保有データを公開する不安などを理由として、この指針に対して違和感を口にする人が銀行の経営陣にも少なからず存在しするという。

ドレミングの桑原氏はシンガポールからスカイプで参加(2017年10月3日撮影)

ドレミングの桑原氏はシンガポールからスカイプで参加(2017年10月3日撮影)

 こうした現状ではあるが、この日シンガポールからスカイプによる講演を行なった桑原広充氏が代表取締役を務める、ドレミング株式会社の取り組みなどは、フィンテックの可能性を感じさせてくれるものであった。

 同社は「勤怠管理+リアルタイム給与計算」の仕組みを提供している。通常、給与は毎月1回の支給日にまとめて支払われることが多く、勤務が発生してから給与が支払われるまでは、ある程度の時間が必要だ。だが、この仕組みを導入すれば、毎日の勤務ごとに賃金が計算され、働いた本人に都度その結果が通知される。本人からその給与を口座に振り込むよう同社に申込みがあれば、APIによって連携した金融機関にその依頼が伝達され、振込が実行される仕組みとなっている。つまり、本人が希望すれば毎日でも給与を受け取ることができる。日本でのサービスの場合は上記の通り、銀行口座への振込となるが、ベトナムで提供している同様の仕組みでは、銀行口座を持たないユーザーのため、スマホを利用してデジタルマネーで給与支払いを行なっている。

 このサービスは、ファイナンシャル・インクルージョン(「金融包摂」 すべての人に、必要とする金融サービス(決済、振込など)を提供する)の概念に沿うもので、桑原氏によると同社は「フィン(ファイナンス)でもテックでもなく、ソーシャルサービスに取り組む」過程でこのサービスを開発したのだという。

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 こうしたフィンテック関連の課題共有やサービスの実例紹介の他にも、ブロックチェーンの技術開発に携わるキーマンが登壇するパネルディスカッションも行われた。一般に「ブロックチェーン」と呼ばれているものには分散管理や非中央集権などブロックチェーンならではのメリットや特徴を備えた「パブリック・ブロックチェーン」と、そういった要素を抜きにした「プライベート・ブロックチェーン」のがあること。現在、ブロックチェーンを用いた実証実験の多くが「プライベート・ブロックチェーン」によるものであることが紹介された。

パネルディスカッション。右から東京短資株式会社・ 仲宗根豊 氏、Nayuta 代表取締役・栗元憲一氏、Haw International 取締役 安土茂亨氏、株式会社カウリス 代表取締役社長・島津敦好氏、モデレーターのDG Lab・渡辺太郎

パネルディスカッション。右から東京短資株式会社・ 仲宗根豊 氏、Nayuta代表取締役・栗元憲一氏、HawInternational取締役 安土茂亨氏、株式会社カウリス代表取締役社長・島津敦好氏、モデレーターのDG Lab・渡辺太郎

 ここで、興味深かったのは、今後大きな可能性はあるものの、まだ開発途上にある「パブリック・ブロックチェーン」のような技術をじっくりと深化させていく開発環境としては、東京よりも、福岡など地方拠点都市がふさわしいとの意見があったことだ。その理由としては、福岡などは職住接近が実現されているため「遅くまで仕事をしていても、自転車ですぐに自宅に帰ることができ、エンジニアのワークライフバランスが良い」(Nayuta代表取締役 栗元憲一氏)などがある。

 さらに、東京では「とりあえずブロックチェーンを採用して!」というようなオーダーが多く、その際、既存のシステムとの折り合いも良く、実装や運用が手軽に行える「プライベート」のブロックチェーンが採用されることが大半であるらしい。こうした実証実験マーケットが成立しているエリア(首都圏)では、その実需に対応する必要があり、ブロックチェーンの基盤を整備するような技術開発にじっくりと取り組むより、お金になる仕事を優先することになる。裏を返せば福岡では、現時点ではこの分野でのマネタイズは難しいという課題にもつながるが、より長い時間軸で考えれば、パブリック・ブロックチェーンの基盤技術開発に深く関わることで、今後その上位レイヤーに新たに生まれるアプリケーションや、それらを利用したサービスをいち早く手掛けることができるだろう。

挨拶に駆けつけた高島福岡市長

挨拶に駆けつけた高島福岡市長

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 後半は、このように少し専門的な技術の話題となったが、会場を埋めた参加者は、途中席を立つこともなく、最後まで熱心に耳を傾けていた。また、高島宗一郎福岡市長が多忙な中、挨拶のためサプライズ登場もあった。官民合同の福岡のスタートアップに対する熱量は、東京や他の都市に負けず劣らず熱いものがあることが感じられた一夜だった。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。