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外国人就労、インバウンド、脱炭素など時代に即した社会課題に挑む4社が登壇〜Open Network Lab HOKKAIDO 8th Batch DemoDay

登壇者、審査員一同で記念撮影

登壇者、審査員一同で記念撮影

「Open Network Lab HOKKAIDO 78th Batch DemoDay」(主催:株式会社D2 Garage 以下、オンラボ北海道)が、札幌市中央区の札幌市民交流プラザ・クリエイティブスタジオで12月9日に開催された。

 冒頭、これまでのオンラボ北海道の実績の報告が行われた。それによると、これまでの7期で採択された32社のうち56.3%が資金調達に成功しており、助成金採択や実証実験実施などの実績を積んでいる企業も複数あるということ。

 続いて、地域や社会課題の解決に挑むオンラボ北海道第8期生の4つのチームが登壇し、各々の取り組みについてピッチを行った。

外国人ブルーワーカーの人材採用・管理のDXツール

 最初に登壇したのは、株式会社NINAITE(本社・北海道札幌市)代表取締役の横山三四郎氏だ。

 人口が減少し、人手不足が深刻になる日本では、この先海外からの労働者が増えるのは確実だ。しかし、受け入れる企業側には多くの課題や事務負担が発生する。例えば、求める能力持った外国人人材の採用は難しく、採用したとしても離職防止のための伴走支援のノウハウもない。そして外国人労働者には欠かせない在留資格情報の管理や手続きなども煩雑だ。これらを一括サポート・管理できる外国人人材採用・伴走支援クラウドサービスが同社の「ninaite.ai」だ。

 横山氏によると、同社では2019年から外国人労働者の雇用問題に取り組んでおり、これまで雇用する側の企業、雇われる側の外国人と多くの接点を持ってきた。そこで直面した多くの課題や、それを乗り越えるプロセスで蓄積された解決のノウハウを注入し「ninaite.ai」を開発した。

 同社ではまず日本での外国人のブルーワーカー市場250億円をターゲットにサービスを展開。今後、外国人人材の活用領域は拡大することは確実なので、その巨大市場を狙って事業拡大を目指すという。

 外国人労働者増えることに不安を感じる人も少なからずいる。そのことを踏まえ、横山氏は「私は(外国人労働者が日本の)生活インフラに支えていることを知っています。外国人労働者は様々な業界でなくてはならない存在になっています。我々は「ninaite.ai」を通じて、外国人労働者、企業、地域の「三方良し」を実現しながら、共生社会に向けてこれからもチャレンジしていきます」とピッチを締めくくった。

株式会社NINAITE 代表取締役 横山三四郎氏
株式会社NINAITE 代表取締役 横山三四郎氏

インバウンド対応のAIエージェント

 次に登壇したのは、株式会社ikura(本社・東京都港区)代表取締役の中澤英子氏だ。同社が提案するのが、観光事業者のインバウンド対応を自動化する AIエージェント「AIインバウンド担当」だ。

 中澤氏によると、品質が優れた日本ならでは商品を扱う老舗店であっても、外国人対応のノウハウがなければ、インバウンドの顧客をつかむことはできない。顧客をつかみ売上を増やしているのは外国人対応に優れた新規参入店だという。

 商店に限らず、宿泊施設やレストランなど、外国人旅行者を受け入れる施設には、世界各国からWhatsAppやインスタグラムなどを通し、様々な言語で問い合わせが届く。しかし、慣れないツールや多様な言語で即時対応するのは簡単ではなく、問い合わせ対応業務だけで疲弊してしまう。そこで訪日外国人の対応をAIで自動化する「AIインバウンド担当」が役に立つ。

 質問への対応だけではなく、既存の予約システムとの連携も可能で予約管理なども自動化できる。とはいうものの「単なるチャットツールや予約システムではない。AI状況を判断し必要に応じて人と連携する。その中で(AIは)学び、今後同じトラブルが起きないように学習、改善していきます。このように対応を重ねることで実践力をつけることが特徴です」(中澤氏)

 今後については、まずは現在提供中の機能でインバウンド事業者の稼ぐ力をAIで底上。そして「事業者同士を繋ぎ地域全体で収益を最大化させる日本観光のインフラとなることを目指している」とのことだ。

株式会社ikura 代表取締役 中澤英子氏
株式会社ikura 代表取締役 中澤英子氏

CO2を大気から直接回収し多彩な収益を生む

 3番目は、CarbonNest株式会社(本社・東京都文京区)代表取締役の川﨑敬氏だ。

 同社が手掛けるのは、CO2を大気から直接回収する手法、DAC(Direct Air Capture)技術だ。同社のCarbonNest DACは、必要なシステムの開発・運用だけではなく、CO2を利用することでの収益化へも目配りをしている。回収したCO2を炭素クレジットとして販売する、あるいは、農業、化学製品、燃料などでのCO2利用に対応することで、収益源を確保し、脱炭素の活動を持続可能な事業とすることができるという。

 カーボンニュートラルの手法としては森林資源の活用という方法もあるが、これだけでは十分な量の炭素を回収できない。また森林が回収した正確な炭素量を測定することは難しく、その点でもDAC技術に優位性がある。

 北海道とのつながりにいついては、川崎氏いわく「DACは電気を使ってCO2を回収する“木”のようなもの」だという。そうなるとその電源は再生可能エネルギーであることが望ましく、その点で「再エネ豊富な北海道での事業展開を目指している」ということだ。

CarbonNest株式会社 代表取締役 川﨑敬氏
CarbonNest株式会社 代表取締役 川﨑敬氏

土づくりがおいしい野菜の理由

 この日のピッチで最後の登壇者となったのは、株式会社BG(本社・東京都目黒区)取締役COOの久保田龍星氏だ。

 ピッチの冒頭「化学肥料・農薬を軸にした農業が今の私たちの食を支えています」と久保田氏は話し始めた。その一方で丁寧に田畑の土壌を育てる作業は減少、畑を酷使し続けたことにより、生産基盤である土は痩せ続けている。そこで農業を続けるのは更に化学肥料が必要となり、それが新たな害虫や病を生む、そしてそこに農薬……。このスパイラルは環境問題に直結し、なにより農作物が本来持つ「美味しさ」が失われている。

 作物「美味しさ」が付加価値だと評価されない限りは、土作りへの投資ができない。そこで同社は「土から美味しい野菜」という新たなカテゴリーを開発しその流通を進めている。

 具体的には、土作りのための有機発酵資材の開発、生産現場から販売までの流通経路の開拓、そして、優れた土で育った作物が高品質であることを農家にも共有する「美味しい土の見える化」だ。

 テスト販売では、従来からある「有機栽培」「産地直送」という訴求カテゴリーに加え「土から美味しい野菜」は新たなカテゴリーになる可能性を秘めているとの評価を受けたという。

株式会社BG取締役COOの久保田龍星氏
株式会社BG 取締役COO久保田龍星氏

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 ピッチ終了後の審査の結果、オンラボ北海道に協賛する企業からの協賛社賞は、さくらインターネット株式会社からCarbonNest株式会社に。そして株式会社H B Aからは株式会社ikuraに、それぞれの賞が授与された。

 そして、観客の投票による「Audience Award」と最優秀賞「Best Team Award」はともに、株式会社NINAITEが受賞。ピッチを行った横山氏を含め観客席で結果を見守っていた同社のメンバーも一緒になって登壇し記念撮影をするなど、喜びを分かち合う微笑ましい光景が見られた。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。