
写真はイメージ図で本文内容とは関係ありません
連載「日本人が知らない、世界のスゴいスタートアップ」では、海外のベンチャー投資家やジャーナリストの視点で、日本国内からでは気付きにくい、世界の最新スタートアップ事情、テック・トレンド、ユニークな企業を紹介していきます。
今回のテーマは、「3Dプリンターで作るドローン」です。低コストという特性を生かして、戦争を変える力を発揮しているドローン。ソフトウェアの力を活用して、さらに安く、柔軟な軍事ドローンの開発と製造に取り組むスタートアップが登場しています。(聞き手・執筆:高口康太)
* * *
また、戦争が起きた。米国とイスラエルによるイランへの攻撃は2月末に始まり、原稿執筆時点では、終結へと向かう気配すら見せていない。2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻もそうだが、2020年代になってから戦場での存在感が大きくなったのがドローン(無人機)だ。
ホビー用と変わらぬ小型のドローンによる偵察、ピンポイントの攻撃から、2000kmを飛行する大型の攻撃ドローンまで、種類や用途は多種多様。共通しているのは既存の兵器と比べて圧倒的に安く、経済力や技術力に劣る国でも調達できてしまう点にある。
ドローンの製造国といえば中国だが、兵器としてのドローンは、ウクライナ、トルコやイランなどの国々でも盛んに作られている。これまでの高価な兵器と異なり、兵器としてのドローンは、製造も使用も先進国よりも新興国、途上国が積極的と考えられてきた。だが、世界のテクノロジートレンドに精通する台湾の投資家マット・チェン氏によると、米国でもよりテックを駆使した、新たな軍事ドローンが生まれつつあるという。
鄭博仁(マット・チェン、Matt Cheng)ベンチャーキャピタル・心元資本(チェルビック・ベンチャーズ)の創業パートナー。創業初期をサポートするエンジェル投資の専門家として、物流テックのFlexport、後払いサービスのPaidyなど、これまでに15社ものユニコーン企業に投資してきた。元テニスプレーヤーから連続起業家に転身。ジョインしたティエング・インタラクティブ・ホールディングス、91APPは上場し、イグジットを果たしている。
* * *
──イランの戦争で、改めてドローンに注目が集まっています。イランのドローンの「安さ」と「数」は、世界最強の米軍でも対応が難しいようです。
マット・チェン(以下、M):かつての軍事ドローンはきわめて高額でした。米軍の軍事ドローン・リーパーは1機数十億円しますし、運用のための人員や基地も必要です。
しかし、現在は状況が変わりました。イランの攻撃ドローン「シャヘド136」は2万ドル(約320万円)で製造可能とみられています。迎撃ミサイルのパトリオットは1発400万ドル(約6億4000万円)で、迎撃に成功してもとても割に合いません。
私は「ドローンの弾薬化」と呼んでいます。もはや高価な「兵器」ではなく、弾丸や砲弾のような「消耗品」へと変わりつつあるのです。
──もっと安いドローンも軍事的価値があります。ロシア・ウクライナ戦争でも、FPV(一人称視点)無人機が大量使用されていますね。
M: FPVドローンの1機あたりのコストは数万円からせいぜい数十万円です。その安いドローンで高価な戦車を破壊することができるのです。この極端なコスト非対称が、戦場の論理を変えてしまいました。低コストのドローンは必ずしも任務を完遂しなくていい。大量に飛ばすだけで、相手に高価なミサイルを使わせることができるのです。100倍のコスト差は戦術的な優位性になるのです。
投資の世界でいえば、ユニット・エコノミクス(単位あたりの経済性)が根本的に変わった、ということです。
──コストだけではなく、量産の速度も重要です。大量に消費するなら、数を作らなければなりません。
M:ここが現代の軍備拡張競争の核心です。従来の軍需産業は、新しい武器システムを開発・配備するまでに6〜7年かかるのが普通です。設計変更だけでも半年以上。しかし現代の戦場では、状況が「週」単位、場合によっては「日」単位で変わっていく。そこで問われるのが、設計から製造、配備までのサイクルをどれだけ短縮できるかです。
そこで、必要な場所で必要なものを素早く作るという「分散製造」のコンセプトが注目されています。サプライチェーンのリスクを分散できると同時に、製造から投入までのサイクルを短縮することも期待できます。
「ソフトウェア定義」(Software-Defined)と「3Dプリンター」の進化によって、「分散製造」は、かなり現実的な目標となりました。
──「ソフトウェア定義」は最近、よく耳にする言葉ですね。自動車の新車種開発のサイクルを短縮するといった文脈で使われています。
M:従来の開発は設計図を引き、試作品を作り、テストして……。という物理的なプロセスが必要でした。「ソフトウェア定義」では汎用的な部品を使い、その性能をシミュレーションで予測し、ソフトウェア設定によって新たな機能を実現します。
これを兵器開発にも持ち込もうというわけです。設計をソフトウェアで自動生成できるようになれば、研究開発のサイクルは劇的に速くなる。ソフトウェアのアジャイル開発のようなスピード感で、兵器を開発、製造しようという発想です。
米国では多くの軍事スタートアップがこの課題に取り組んでいます。その一つにチェルビック・ベンチャーズが出資した米国のタイタン・ダイナミクス(Titan Dynamics)があります。ソフトウェアとロボットに深い知見を持つ、連続起業家のモハメド・アディブと、航空宇宙工学専門のノア・ベントンの2人が起業しました。2人は2025年にフォーブス誌の「30 Under 30」(次世代を担う30歳未満の30人)に選出された、注目の起業家です。2026年1月に約900万ドルのシード資金調達を完了、シリコンバレーの名門アクセラレーター「HF0」に採択されるなど、勢いのあるスタートアップです。
彼らの目標ですが、それは「ドローンの設計から製造までを24時間以内に完了する」ことです。
──24時間で製造するだけでも信じられませんが、「設計から」となると、想像の域を超えています。
M:現在、彼らは3つの技術を開発しています。第一に設計自動化ソフトウェア「プロメテウス」です。ユーザーが搭載重量・飛行距離・滞空時間などの要件を入力するだけで、条件を満たす機体設計を自動生成してくれるというものです。エンジニアが図面を引く必要はありません。
第二に「パフォーマンス予測ソフトウェア」(PPS=Performance Prediction Software)です。ソフトウェアでの設計段階で、航続距離や燃費、飛行効率を計算します。実際にプロトタイプを作って試験飛行して改善点を見つけ出すというサイクルを仮想的に行うことが可能です。
そして第三に移動式ドローン工場「バルカン」です。これが一番ユニークなアイデアでしょう。コンテナの中に、3Dプリンター、作業台、工具、部品をコンパクトに収めたシステムです。このコンテナを持っていけば、その場でドローンを設計し、3Dプリントし、組み立てることが可能です。バルカン1台で、約1000機のドローン部品の製造が可能とのことです。
どのような戦闘が起きるのかわからない状態で、即応体制を整えるためには各種のドローンを前線に配備しておく必要がありますが、現実的ではありません。実際には紛争を予測して兵器を移動させるなどの準備が必要となります。
移動式ドローン工場ならば、1基だけ前線に置いておけば、必要な時に必要なドローンを製造できます。極端な話をすれば、戦闘が始まってからでも24時間後には新しいドローンが空に飛んでいるというシナリオが現実になりつつあるのです。

──まだ、なかなか信じられませんが、どこまで実現できているのでしょうか。
M:米空軍は2024年に実証実験「ブラック・フェニックス計画」で、タイタン・ダイナミクスの技術をテストしています。その後、米国防総省のDrone Dominance(ドローン・ドミナンス)計画のテスト参加企業25社の一つとして選出されました。同計画は10億ドル超の予算規模で、テストを通じて大量生産可能な無人機システムを評価、調達する構想です。
──参加企業の一覧を見ると、ウクライナの迎撃ドローンメーカーであるゼネラル・チェリーなども入っています。軍事ドローン・スタートアップは増えているのですね。
M:今、注目を集めているジャンルで、タイタン・ダイナミクス以外にも多くの企業が参入しています。スタートアップ以外にも伝統的な軍事企業も参入しています。

──日本企業は入っていないようですね。
M:日本は防衛予算の拡大と自律型ドローンの研究開発を加速させていますが、軍需産業はまだ大手重工業が中心です。
スタートアップは、既存の軍需産業を補完するだけでなく、将来的には一部を代替するようになるでしょう。ソフトウェア定義が武器設計の中心になれば、競争優位は大企業が得意とする「規模」ではなく、アルゴリズムとトライ&エラーの「速度」に移ります。ですから、軍需スタートアップは世界の新たなトレンドになっているのです。いずれ、日本もそうなるかもしれません。
テクノロジーが戦争を再定義する時代です。もちろん戦争は望ましくありません。ですが、軍事サプライチェーンの能力向上が求められていることも事実です。軍事における開発と製造の速度を高めることは、平和を守る重要なリソースとなります。
* * *
混乱の時代において、研究開発と製造の速度が求められるのは軍事だけではない。コロナ禍ではワクチン、医薬品、医療物資などの供給困難があった。その後も半導体不足があり、そして現在はイランの戦争に起因する石油、天然ガス、そして多くの関連物資の供給に混乱が生じている。
これらすべてに十全の備えをすることは不可能だろう。いかに柔軟に、スピーディーに対応するかが問われる。「ソフトウェア定義」と「3Dプリンター」によるドローン製造は、つまり「必要なものがその場ですぐに」製造できるという理想を具現化したものだ。今回の話題は剣呑な話ではあるが、軍事にとどまらぬ示唆を与えるエピソードとして受け止めた。