福岡を実証の場として、パートナーである大手企業と採択されたスタートアップが共同で実証事業を企画・推進する『Open Network Lab FUKUOKA』(以下、Onlab FUKUOKA)の「1st Batch Demo Day」が11月29日に開催された。
福岡で展開されるこのプログラムは、シード・アーリー期スタートアップ支援を目的とした『Open Network Lab』の一環ではあるが、今回採択された企業はすでにプロダクトもあり、充分な実績もある企業も含まれている。さらに実証実験で協同するパートナー企業も選定されており、この日の発表はその取り組みを紹介するものとなった。
スタートアップにとって、自社の構想や事業を社会実装し、拡張してくれる有力なパートナー企業を探すことは、アクセラレータープログラムに参加する目的のひとつとなっている。今回のプログラムでは、発射台に乗る時点でパートナーとの縁組がすでに出来上がっており、パートナー企業も一緒に未知の領域に飛び出してくれる仕掛けとなっている。
以下、この日の登壇順にその取組内容を紹介する。
■ナイトレイ
株式会社ナイトレイ(東京都渋谷区)が竹中工務店をパートナーとして実施するのが、位置情報ビッグデータを活用し、量的・質的な評価から街の総合評価行う『未来のまちづくりを目指す実証実験』。これまで実際に街づくりをいくつも手掛けてきた竹中工務店には、作り上げた街のその後の評価を知りたいというニーズある。竹中工務店自身もSNSなどのデータから評価を知ることはできるが、ナイトレイが持つGPSなどから得られる人流データ解析技術と組み合わせることで、より多面的な評価ができるのではと期待している。
■DouZen
シリコンバレーのスタートアップDouZen(サンフランシスコ)は富士通と日本経済大学をパートナーとして『照明型小型スマートプロジェクター・プラットフォームを使った室内ナビゲーション』の実証実験を行う。DouZenは電球ソケットに装着できる小型ARプロジェクター『Mooncast』を開発中で、これに富士通の最先端の通信技術と日本経済大学のユニバーサルデザインコンテンツを組み合わせて、避難用などのナビゲーションを実証する。この仕組では、壁や床などに経路を示す矢印などを投影する。通信を通して投影内容は随時変更可能なため、従来の固定的な案内板より用途が広い。
■My City(オーディエンス・アワード)
この日の聴衆からデモの内容が評価され、オーディエンス・アワードを獲得したのが株式会社My City(東京都千代田区)とパートナーの福岡地所の提案する『未来のスマートオフィスとそれに向けた展開』だ。My Cityの商品「My Place」はオフィス内での人の稼働状態を可視化し、生産性の向上につなげることができる。この仕組を建物に導入することにより、テナントの満足度が向上し、賃料のアップにもつながる。また働く場所・環境により生産性に変化が出ることがデータから把握できるため、未来のスマートオフィスのあり方を提案することも構想している。
■KEYes
KEYes株式会社(福岡県福岡市)が西部ガスと組んで実施するのは、同社の「スマートフォンで解錠できる南京錠」を使った業務の効率化だ。ガス会社の施設には管理上施錠が必要な施設が多い。点検などの巡回時に鍵束を持って歩き、場所ごとに鍵を探すのは時間のロスが大きい。実証実験ではまずこうした業務上の課題を改善する。将来は不動産の賃貸物件内覧時に都度、鍵の貸し出しや立ち会いが不要となるような、セキュアで効率的な仕組みを作りたいと考えている。
■Andeco
株式会社Andeco(大阪府大阪市)が提案するのは『スマートなエリアマネジメントシステムの未来』。都市の公園などさまざまなスペースで開催されるイベントやフェスティバルなどをマネジメントするシステムを開発し、アナログな要素が多いイベントをより効率的に運営する仕組みを提供する。街でのイベントは手間がかかる、宣伝告知や場所利用の申請、飲食を提供する場合は電源や水の確保―。Andecoが開発中の出店マネージメントシステムとイベント会場などで活躍するアイスクリームロボ「やすかわくん」を持つパートナーの安川電機の組み合わせで、よりスマートなエリアマネジメントを実現する。
■Luup
電動キックボードおよび4輪の電動マイクロモビリティの日本での社会実装を目指す株式会社Luup(東京都渋谷区)は、全国7自治体と連携協定を結び、国内での実績作りに励んでいる。ここ福岡でもマイクロモビリティを駅からの2次交通手段と考えるJR九州をパートナーとして、試乗会などを行う予定だ。
■Perceptin Japan
2016年にシリコンバレーでバイドゥUSAの自動運転部門出身者が創業したPerceptin の日本法人であるPerceptin Japan合同会社(東京都千代田区)は、パートナーの九州電力とともに自動運転の低速電動車両(LSEV)を利用した『地場企業と共に創る持続可能なまちづくり』を提案。高度な技術、高価な装置を搭載した自動運転車ではなく、採算性のよいモビリティを活用した持続可能な街づくりを提案している。
■歯っぴー
欧米に比べて日本では歯周病診断が普及しておらず専門医も少ない。歯っぴー株式会社(熊本県熊本市)ではスマホで撮影した歯の写真から、AI画像処理により歯周病を診断する事ができる。通常の診断とは異なり歯茎に刺激を与えることなく行える検査であるため心理的なハードルも低い。パートナーは西日本新聞で、新聞読者に向けたイベントなどでこのサービスの普及、告知を行っていく。
■UrDoc LIFE & TECHNOLOGY
株式会社UrDoc LIFE & TECHNOLOGY(東京都目黒区)の提案は『外国人医療に関わるすべての人をhappyにする』。提案のタイトルの通り、日本国内において言葉の壁がある外国人がスムーズに医療サービスを受けられるようにするサービスだ。パートナーは日本経済大学とJR九州で、日本経済大学は外国人留学生による仮説検証をサポートし、JR九州は同社の関連宿泊施設の利用者に向けたサービス開発を検討している。
■しくみデザイン(オーディエンス・アワード)
オーディエンス・アワードを獲得したもうひとつの提案は株式会社しくみデザイン(福岡県福岡市)の『すべての人を、クリエイターにする』。2005年に設立され、メディアアートの分野では多くの実績を持つ同社が開発したプログラム制作ツール「Springin」は、コーディングが一切不要。絵を書くことでそれがプログラムとなっていくこのツールを使って、小学校1年生から4年生向けのプログラミング教育カリキュラムも提供。パートナーは西日本新聞。
■Pie Systems、True Data、unerry
VAT(付加価値税)の還付手続きを完全電子化したソリューションを持つPie Systems IVS(デンマーク コペンハーゲン市)。日本最大級の購買データを運用する株式会社True Data(東京都港区)。ビーコンとアプリから得られる行動情報を元にした情報発信を行う株式会社unerry(東京都千代田区)。そこにパートナーとして福岡地所、クレディセゾンが参加する実証事業が『免税シティ福岡を目指して』だ。訪日外国人の免税手続きのアプリによる自動化と購買・行動に関するビッグデータ分析を組み合わせ、スマートにショッピングができる都市をめざし実証実験を行う。